イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕は物理学者になりたかった。いや、工学者になりたかったのだ。僕は学園で、熱心に学んだ。
イリアは、特になりたいものはなかったらしいが、勉強が好きだった。お前は、何にもならなくたっていい、
と僕は思っていた。彼女に話したことは一度もないが、いつか結婚したいと願っていた。
戦争が始まったらしい。徴兵で、勉強させてもらえなくなった。
毎日の厳しい訓練で、僕の個性は無くなった。
「右を向け!」
と言われたら、右を向いた。殴られたら、黙って、立ち上がった。
イリアのことはなんとも思わなくなった。