「今年は、ハズレかもね」
杏奈がそう言って、口元だけで笑う。
杏奈は、ほとんどの先生に対し、信頼することはないし、関わろうともしない。
今年入ってきた渡井先生に対しても、恐らく、杏奈が昔会った、差別、えこひいきをする
とんでもない先生と同じ印象を抱いたのだろう。
第一印象、熊(そして当たり前のことしか言わない)イコール渡井先生の姿を見るのが、何となく嫌だった。
だから、隣の三年二組の担任、前嶋結衣先生のもとへ行くことにした。
「ああ、あの先生ね。でもまあ、大丈夫だよ、怜ちゃんなら」
結衣先生は、私のことを『怜ちゃん』と呼ぶ。
結衣先生について、私はこんな印象を抱いている。
大人しい、けれどしっかり者で、見た目は可愛い。
ちなみに、年齢は知らない。渡井先生は確か、三十歳だっけ?
「でも、初めてあんなタイプの先生来たら、結構びっくりしちゃうよね〜」
結衣先生はそう言ってほほ笑んだ。ああ、女神様みたい……。
大毅君は、結衣先生に対して
「お母さんみたい……いや、保育士さん?」
と言っていたっけ。それを、偶然通りかかった結衣先生に聞かれたんだよなあ。
「別にお母さんらしいとは思わないけどね」
と、結衣先生が後ろで呟くように言ったから、私も大毅君も驚いて飛び上がったのを覚えている。