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1:匿名:2017/12/23(土) 19:38

先程からずっと、ピー、ピー、と耳障りな電子音が鳴り響いている。一つのベッドを数人の医者が取り囲み、先程から沈黙を守っていた。その視線の先には、僕の恋人である君の姿。
君と俺は、出会った時からお互い病衣を来ていた。君は完治不可能の、確実に命を奪われる重い病、俺もまた退院のできない程には思い病。一目惚れだった、と思う。初めて病院の一角で瞳を合わせて、その瞬間には惹かれていた。コミニュケーション能力のないのに、思わず話しかけるほどに。何も無い毎日、君と話をしているだけで幸せだった。外に出たい、病気を治したいというより、君とずっと居たいという気持ちが勝るほどに、君は俺の大切な人だった。それから気がついた時にはもうお付き合いをしていて、庭に咲く花を病室から眺めながら微笑みあって。だけど、彼女は病名を頑なに教えようとしなかった。だから俺も深くは聞かなかった。これを聞いておけば、少しは未来は違っていたのだろうか。
車椅子に座って、死んだように、いやまさに死の淵にいるのだから死んでいるのと同然の君の手を取って祈るように俺の額に当てる。暖かい。でも、この温もりが失われてしまうのはもう遠くない。
「彼女はどんな病気なんですか」
力の抜けきった声で隣にいる医者に問いかけた。
「教えられません。それが彼女の意思ですから……」
医者もまた、力の抜けた声で返した。
「なあ、生きろよ。生きてくれよ。また一人ぼっちにしないでくれ。俺は、俺は……」
君のいない世界に、一人残される俺の気持ちがわかるか。君のおかげで色彩のあった世界は、君がいなければ成り立たない。
目の前がもう見えないほどにかすみ、彼女の姿が見えなくなった。せめて最期だけでも見届けなければと、目を雑にこすってただひたすら手を握り続ける。名前を呼ぼうとしたところで、俺は彼女の名前を知らないことに気がついた。ずっと一緒にいたのに。これでも、付き合っていたのに。
「名前も教えてくれなかったのかよ……俺は、こんなにも君を愛しているのに……」
ぴくり、と指先が動いた気がした。瞳は開かないが、僅かに口元が動き息が漏れる。俺は慌てて彼女の口元に耳を近づけた。
「ごめんね」
そしてそれから発せられる、彼女の名前と思われる三文字の言葉。心の中で、ずっとそれを繰り返した。
「良い名前だな、__って」
泣き笑い、とはまさにこのことを言うのだろう。最期の力を振り絞って声を出してくれたのか、俺がその言葉を言い終わると同時にピーという音が途切れなくなった。完全に心臓が停止したのだ。ゆっくりゆっくり体温が奪われていく彼女の手を温めるように、強く握る。もう溢れる涙を止める術はない。教えて貰った彼女の名前をただただ、呟き続けていた。


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