時刻は16:00。オレンジ色に輝く透明な天井に黒色の点々のようなものがいくつか飛んでいる。その点々はカーカーと鳴き喚き、俺の悲観的な感情をすこぶる、イライラへと発展させていった。一人にしてくれよ思いつつ、俺はけたたましい騒音のさなか、空を見上げた。なぜ空を見上げる必要があったのか。俺は、集団を形成してなお自らを曝け出しているような黒い点々に羨望しているような気がした。考えているうちに、銀灰色の細い物体を吹き終わり、それを眼前へ和敬清寂とした様で持っていき、ゆっくりと耳にかける。モダンの部分が耳に密着し、日常感と、安心感が俺の心を支配した。これは、上部のみにリムがあり、下部にはリムがないハーフリム型のメガネである。こういった形のメガネは顔の印象をあまり変えないというが、俺の顔はメガネが似合わぬ。瞬間、再び俺は悲観的な感情に囚われ始める。すると同じ制服をした男が校門からやってくる。
「おーーい、待ってくれよ!今日部活はどうするんだ?」
「いかないよ、すぐに帰る」
「そんなこと言うなって!みんなお前のこと待っているんだからさ!」
「…このあいだの試合、俺のせいで負けたんだから、俺は部活に参加する資格すらもない」
「何いってんだよ!お前がいなきゃ、あそこまでの点にまでいかなかったんだぞ!!それに、お前がいたからこそ、俺たちは戦えたんだ!お前が欠けたら、俺も含めて、みんな悲しい、だから来てくれ!頼む…!」
「……行かない」
二人の男が話し合っているところ、熱望と諦観とが交錯しているところ、慌ただしく、一人の女がやってくる。特徴としては、その女の制服のスカート丈が短すぎることぐらいか、校則違反だ。
「ねぇ!待ってよ!!……その、私も…君がいないと部活が寂しくなっちゃうの…お願い…きて…」
「唯もこう言っていることだし、お前が部活に参加してくれると俺も嬉しい」
「…分かったよ…行くよ…」
「本当か…!じゃあ、グラウンドで待っているよ!絶対来いよ!」
「…え、と、じゃあ一緒に行こっか」
「あぁ、そうだな」
頬を赤らめた女と、いかにもサッカーをやっていそうな風格の男が、てくてくと俺の隣を通り過ぎる。
今の俺を支配しているのは虚無感とどす黒い渇望である。
一体どうしてこうなってしまったのだろうか。俺が、誰かに求められることを求めているのはなぜか。寂しいから、暇だから、気まずいから、怖いからでもない、その答えを見つけられずに、俺は高校入学から一年が過ぎていた。いわんや、俺は集団に属さない孤独であった。無論、社会という生活共同体には、参加しているものの、そう言った集団ではなく、もっと身近で、接近した相互関係を持つ集団のことに関しては参加はしていない、というよりできなかったのだ。できなかったとなると、受動的すぎる気がしたので、できる努力が足りなかったという方が適切であろう。
俺は、一人でも安心して、何にも囚われることのない楽土へと向かうよう、けだるく、重力に抗うことすらめんどくさいと思えるほどの重苦しい足を運んで一歩ずつ一歩ずつ精一杯歩みを遂げていた。