いつも仕事をするとき、親父は言っていた。
靴はどんな持ち物よりもヒトを表す、と──
何年も靴と触れ合っていれば、靴一足から様々な情報を読み取ることができる。
その靴の形状や色、値段、手入れの度合い、革の皺や底の擦り減り具合。
そこから裕福さや貧困さはもちろん、几帳面さやプライドの高さを垣間見ることもある。
そして俺は靴を磨くとき、その人の持つ人格を俯瞰するのだ。
重厚な革靴、鋭いハイヒール、クタクタのブーツ。
人の性格が十人十色というように、靴も多種多様だ。
同じ靴を持っていても、時が経てば靴は持ち主の仕様に染まっていき、違いを生み出す。
靴はただの道具でもなく従順なしもべでもなく、もう一人の自分だ。
少なくとも俺は、そう信じている。
持ち主の脚を支え、大地に触れる靴を癒して労う。
俺は、この仕事──靴磨きが好きだ。