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大昔に誕生したとされる神聖小説守護教会。今では世界各地で信仰されている宗教である。しかし、この神聖小説守護教会は大きく2つの派閥に分裂していた。
一方は東方正教会、他方が西方諸国国教会連合である。両者は互いに武力による闘争も伴って対立していた。ところが、最近になって両者の対立は沈静化しだしたのである。
「台本書き共和国などという異端は、直ちに十字軍を以て排除すべきだ! 」
そう声高に主張したのは東方正教会の教皇である。今、この場には教皇と、そして西方諸国の君主又はその代理人が集まっていた。
「その通り! 神聖な小説様を汚す台本書きを国号にする国など亡ぼすべし」
「連中は旧文明最後の国、アゼルバイジャンを守り神として崇めているそうだな」
「ふん! 旧文明の蛮族共は表現の自由を盾に小説様を愚弄してきた悪魔じゃ! 」
各国君主たちは教皇の主張に賛同した。つまりは、今は互いに争いを控えて共通の敵である台本書き共和国を倒そうということで一致したのである。
※
「神聖小説守護教会は今頃、十字軍を結成しているだろうな」
そう言ったのは台本書き共和国初代大統領のムンムンである。
「そうですね。我が軍は僅か1万程度しか集まっておりません。早速ゲリラ戦を展開することになりそうです」
そう答えたのは、台本書き共和国初代首相のア・リーアであった。
「直ぐにでも徴兵を行いたいところだが、陸軍の人事を司る陸軍大臣(陸軍省)はどうするつもりなのだろうか? 」
「ああ、陸軍大臣は大本営の要望に沿う人事を行わなかったとのことで、陸軍同士の争いに忙しくて本来の業務を疎かにしておりまして……。まあそれのせいで、閣議を纏まらないのですよね……。大統領閣下、首相にもう少し独自の権限を付与して欲しいところですよ」
敵は十字軍を以て、この共和国を殲滅せんとしようとしているところ、早くも国内はグダグダとなっていた。これこそ内憂外患と言うべきか?
「それは駄目だ。あくまでも、内閣は合議体として活動してもらうからね」
「左様ですか……」
「まあ、頑張れ。いざとなったら大統領命令でなんとかしてやる」