『私に勇気があったなら』
「ねえ、あの子ダサいよね」
「関わりにくいし、てか、関わりたくないしー」
「なんなんだろうね、あのウジウジした態度」
「 みさきもそう思うでしょ? 」
私には、笑うことしか出来なかった。
ただ曖昧に、否定も肯定もせず。
なんとなく笑っていれば、否定したことにも、肯定したことにもならないから。
――そうやって正当化して。
放課後、私はその子と話していた。
クラスでは、みんなに合わせて、助けることもせず……へらへら笑っているだけなのに。
そんな私を、怒ることもせず。
笑顔を見せてくれた。
普通に、“友達”として。
本当に当たり障りのない、趣味のこととか、部活のこととか。
――クラスは、辛くないの?学校、嫌じゃないの?
気になる。でも、訊かなかった。
――大丈夫?
なんて、思うだけで言わなかった。
……違う。言えなかったんだ。怖くて。
でも……こんな日がいつまでも続くだろうと思っていて。
「ありがとう」
いつも通りの放課後、いつもの空き教室。
ひととおり話し終えた私たちが、帰ろうとしているとき。
なんだろう、なんでありがとう…?
多少の違和感は覚えたものの、
「うん……じゃあね」
と返しておいた。
「紫村楓さんは、昨日、転校しました」
その一言を聴いたときの、私の顔。
本当に真っ青だったと思う。
血の気が引くって、こんな感じなんだ……。
自分が情けなかった。
あの、ありがとうは……そういうこと?
なんで、ありがとう……?
表ではみんなと同じように笑って、裏では仲良く話して。
そんな偽善者が感謝された。
……なんで?なんで?なんで?
辛さに気付いていた。
それなのに無視した私。
本当に誰にも言わずに転校した、楓ちゃん。
私が、一言発していたら…?
『やめよう』『一緒に組もう』『大丈夫?』言えていたら…?
本当の友達なら、そんな酷いことしない。
私 に 勇 気 が あ っ た な ら ――
>>16です
http://otameshipost.gonna.jp/novels_original/novels_original.cgi?mode=view&no=22&id=6361215