『あ き ら め』
――諦めた。
久山 結珠那(ひさやまゆずな)、中学一年生。
私は今日、久山さんと呼ばれた。
あ き ら め
そんなこと、良くあることだ。
知り合いのいない中学に進学した私は、尚更。
その度に、『同級生にさん付けされる趣味はない』と伝えていたけれど。
……なんで、東田が。
同じ委員会。隣の席。
知ってたさ。私は、みんなとは違う…そう、外側にいるのだと。
でも、気にせずに生きてきた。
知ってる。イタいヤツだよね。
でも……いい。気付いてても、気にせずに生活できるなんて、長所だよ。
そうだ。リレーのチーム一緒になって、長谷部くんに『ゆずな』って呼ばれたのも、嬉しかったなあ。
でも、東田にさん付けされるなんて…かなりのショックだった。
普段から、名前を呼ばれることなんて滅多にないのだけど。
だからこそ…ゆずなって呼ばれたときは、舞い上がっちゃってた。
そう。私はこのレベル。
こんな些細なことで喜べるなんて、幸せなんだよ…。
英語の先生、Mr.北條に『せっかく自分が持っているものを隠しちゃダメだ』と言われた。
ああ…私って進歩しないな。
小学校の頃と変わらないじゃん。
……少しは変われたかも、なんて思ってたのに…。
自分のダメさに、涙が出てきた。
些細なことで泣くなよ。
――弱虫。
だから、なんか吹っ切れたんだよなぁ。
私、久山さんで良いか…って。
呼ばれ方一つで、バカみたい。
もう、いいや。
小学校が一緒だった友達がいる。
中学で、毎日顔を合わせる人たちよりも、ずっと好き。
もう、いいや。
安易に好かれるよりも、嫌われてる方が楽だよね。
いいよ、もう――
中学校生活の希望を見失った。
あ き ら め
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