第1話 引きこもり入社する
「糞ニート、早く引きこもりやめて働けよ」
妹の声が聞こえてくる。そしてそては、俺を罵倒する内容だ。間違いなく、俺を心底見下しているのだろう。
「働きもせず食う飯は旨いか? うちらが稼いだカネで飯食いやがってよ」
姉の声も聞こえてくる。
嗚呼、自分がとても惨めだ。ただ、自分自身が惨めに感じるとはいえ、1つ言いたいことがある。それは少なくとも、親や兄妹が稼いだカネで飯を食っているわけではない。一応は俺の銀行口座に振り込まれる5万円で何とか飯だけは賄っているのだ。
まあ、それでも実家住まいで尚且つ、家にカネなど入れてはいない。結局、罵倒されても仕方ないところではある。
「……俺は働く気なんてないと言っただろ」
俺は、姉と妹にそう返した。
すると、
「まあ、お前みたいな糞は就職もできないでしょ。だから私たちが頑張ってお前の就職先を見つけてやったんだよ。だから感謝しろよな。それと、メールで初出勤日を伝えたるからちゃんと行けよ」
と、姉が言った。
「勝手に話を進めるなよ。そもそも、雇用契約の申込みと承諾における意思の合致してないだろ。それと、俺はあんたら2人に雇用契約締結に関する代理権なんて授与してないし、結局、あんたら2人が無権代理人の責任追及を受けるだけだな? 念のために言っておくと、無権代理人責任に於ける損害賠償責任の範囲は履行利益を範囲とするからな? 信頼利益じゃないから高くつくぞ」
「気持ち悪いウンチクは良いから、働けよ? わかったか。……ああ、それと、お前の就職先の会社の人間は私たちに代理権がないことは知っているから。だから向こうは私たちに無権代理人の責任追及なんてできないよ」
姉の手厚い反撃で俺……轟沈。
結局、就職しなければ家を追い出すと両親から言われ、俺はしぶしぶ就職することにしたのであった。
※
初勤日となった。
姉から送られたメールの内容を見たところ、どうやらアイドルをプロデュースする「プロデュース株式会社」という会社らしい。そして、そこそこの規模を誇るらしいのだ。
そして、俺は今、その会社の代表取締役と1対1で話をしている。
「待ってましたよ。あなたが佐東次郎(さとう じろう)さんですね? 私はプロデュース株式会社の代表取締役の愛弗耕夫(あいどる すきお)です。貴方のお姉さんから貴方を就職させて欲しいと1000万円を渡されましてね。本当は貴方みたいなクズは採用したくないのですけどね……」
また罵倒かよ。
これは、先が思いやられるね。