混乱が収まらず、目の前のカイラ様をまともに
見ることもできない。
「妙な光とともにいきなり現れた」
カイラ様は、確かにそう言った。
でも『君だけの僕』でヒロインとなる
アリス=ファディアは、トリップ少女でも転生者でもない、最初からこの世界にいる少女。
カイラ様とも、16歳の春に
城に招かれた時に初めて出会うのだ。
それがどうだ....私は、カイラ様のベッドに
謎の光とともにいきなり現れた、完成なる不審者。
しかし見た目は、キャンベル王国でも
1、2を争う名家であるファディア家の長女、
アリス=ファディアそのもの。
いきなり王子の自室に謎エフェクト付きで登場した公爵令嬢(初対面)
うん、普通に私、不審者。
「ええっと、その、カイラ様...」
「何だ」
「私、本当に、そんな謎の光とともに登場するようや真似してました....?」
「あぁ。」
自信満々にうなずくカイラ様。
冷たさを感じる黄色の瞳が、興奮できらきらと年相応に輝いていた。
「すごかったぞ。
俺がそろそろ眠ろうと寝台に手をやった瞬間に、
視界が眩い光に奪われたんだ。
意味がわからなくて、目をつぶって耐えていたら
....間抜け面のお前がいた」
魔法系ラノベのヒロインのような登場だった。
聞いてて乾いた笑いすら漏れてしまう。
「....ふふ」
「なんだ?」
もう駄目だ。
そもそも私が本当にアリス=ファディアなのかもわからない。
顔が同じだけの別人じゃないのか。
登場から何から何まで違い、少女の中にいるのは
アリスではなく私だ。
「それより質問に答えろ娘、お前は誰なんだ」
最初よりやや苛立った声で、カイラ様が私に話しかけた。
そんなこと、分からないですよ。
相変わらずぐちゃぐちゃな頭に、愛しい恋人の顔が浮かんだ気がした。