もうどうなっているのか分からない....
あの後、質問に答えられなかった私は
「もういい....」というカイラ様の声を最後に
気を失った。
目覚めた先で目にしたのは、薄暗く人気のない
空間と銀の柵。
....私、アリスの現在地はキャンベル家地下牢獄。
不法侵入者として絶賛捕らえられ中だ。
それだけならまだ良い....
私の不安を最高潮にさせているのは、鉄柵越しに
鈍く輝く紫紺の瞳だった。
「ふぅん....見た目はアリスそのものだね」
訝しげに私を見つめ、そう呟くのは
攻略対象キャラでメタ担当のアヤト=ガーレディン。
ぶつぶつと独り言を口にしながら、私をじぃっと
見つめている。
「.....あの、私に何か用ですか?」
思い切って話しかけてみた。
触れられそうな位置で、首の動きに合わせて
揺れていた黒髪がぴたりと静止し、全身を行き来していた視線が私の口元を捉える。
「不法侵入者の身元に心当たりがないか、と
カイラから連絡が入ったから、君の顔を見にきたんだよ。」
「は、はぁ....」
「まぁ誰がどう見てもアリス=ファディア
なんだけど....君、ちょっと特殊ケースだから。」
特殊ケース?
こてん、と首をかしげると、アヤトの顔が
嫌そうに歪められた。
「その媚び売るみたいな態度やめてくれない?
正直に言って不愉快だ。
俺が可愛いと思うのは、レイラ嬢ただ一人だよ」
「なっ.....」
媚びを売ったつもりなどない!と反論したくなったが、ぐっと堪える。
今の私は不法侵入者で、地下牢獄にいるのは
どうやらアヤトただ一人。機嫌を損ねて仕舞えば
得られる情報も得られないだろう。
「申し訳....ありません」
「うんうん、素直な謝罪ができるのは美徳だね」
にやりと歪むアヤトの口元が憎たらしい。
「それで、あの、差し支えなければ
先程の『特殊ケース』という言葉について、
詳しく教えて頂けませんか....?」
おそるおそる口にすると、うぅん...と唸る声が
返ってくる。
「教えてやりたいのは山々なんだけどね?
不法侵入者にどこまで勝手に喋っていいもんか
俺もわっかんなくてさぁ....」
その言葉の内容よりも、私が疑問に思ったのは
口調だった。
ガーレディン家は同じ公爵家ではあるものの
実績でも歴史でもファディア家に劣る、という設定のはずだ。
拘束された不審人物とはいえファディア家令嬢の
私に、こんな砕けた口調で話すだろうか?
......嫌な予感がする。
「まぁいいや、少しだけなら教えたげるよ」
「.....お願いします」
不安に思いながらも、そう返す。
「君がカイラの部屋にいた同時刻に、
ファディア家令嬢のアリス=ファディア様は
街で炊き出しをしていたんだ。
付き人や街の人々、大勢の目撃証言もあるし
参加者リストに彼女のサインも残ってる」
「え、と....」
それは、つまり。
「君はアリス様と生き写しで、
身元不明の不法侵入者ってことになるね」
どうしよう。頭痛くなってきた。
「私はアリスじゃない...って事でしょうか」
「そんなこと俺に聞かれても。」
私は誰なんでしょうか。