早速中へ入ろうとドアノブを回すも、扉は開かない。
何度か押したり引いたり繰り返してみるものの、案の定鍵がかかっているようだった。
「あの〜……すみません〜!」
ドアの隙間から光が漏れている。
ということは誰かしら中にいるはず!
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか!」
ドンドン、ドンドンと少ししつこいかなぁ、と気後れしてしまうくらいにドアを叩くが返事は無い。
水をグラスに注ぐような音が聞こえてきたから、絶対誰かしらいるということは確定した。
要は居留守を使われているのである。
「あの、怪しいものではないんです! 少しお話があって……!」
「帰れ」
「……えっ」
何度か執拗にノックをした後、ようやく返事が返ってきた。
冷たく低い男の声が、無残にも私を追い返す。
「な、なんでですか!? 話だけでも……っ」
「高校生のガキが来るところじゃない。どうせ噂を聞きつけて冷やかしにきたんだろ」
「冷やかしなんかじゃなくて、真剣に依頼があって来たんです! というか、どうして高校生だって……」
「相当オツムが弱いようだな、お前は。こちとら裏社会の人間だ。監視カメラくらい付けているに決まっているだろう」
「ええっ!?」
彼の言葉を聞いて、初めて天井に小さなカメラが仕掛けられていることに気が付いた。
私はドアの向こう側ではなく、相手に見えているであろう監視カメラに向かって強く言い放った。
「ここにあなたが……スペードさんがいるって、2年もかけてようやく手に入れた情報なんです! そんな、やすやすと引き下がるわけにはいかない」
「ガキに俺が雇えるとは思えないな。帰れ」
「嫌です。無理にでも入りますよ」
「ふん、貴様みたいな馬鹿にピッキングで鍵を開ける能があるとも思えない。勝手にしろ」
ドアの向こう側の声が次第に小さくなったから、恐らく彼はどこかに行ってしまったのだろう。
融通の利かない頭でっかちさに苛々しつつ、覚悟を決めた。
ドアの向こう側がどんな世界であっても、私は飛び込んでいく──って。