受験戦争 〜Exam war〜

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3:風李 蘭:2018/11/26(月) 22:48

【第一話 Try康貴】

テスト返しは嫌い。
教卓を挟んだ向こう側にいる教師を、震える瞳で見上げた少女は心の奥で毒づいた。

赤い雨が降る。
ひとつ、またひとつと、彼女の心を突き刺していくように。
教卓の向こうに聳え立つ男性教師の顔は険しく、テスト用紙を受け取った彼女は怯えながら眉間に増えていく皺の数を数えていた。

「伊賀! また社会のテスト最下位だぞ」
「……はい」

丸がひとつあったと思ったら『0』だった。
ぬか喜び。
赤ペンの斜線、斜線、斜線。
紅の大洪水。
彼女は受け取った答案用紙をすぐにでもグシャリと潰すか、ビリビリと切り裂きたい衝動を寸手で抑えた。

社会の小テスト。
しかも今回の範囲は彼女が最も嫌悪している歴史で、公民や地理ならまだ──0点という惨劇は回避できたかもしれなかった。
テスト用紙を軽く握りしめた彼女はクラス中の視線を気にしつつ、重い足取りで席へ戻った。
たとえその眼球があさっての方を向いていようとも、臆病な彼女は気にせずにいられない。

「クラスメート名前すら覚えられてないのに、顔も知らないジジイの名前なんか尚更覚えられるわけないじゃん……」

3年に進級してから約1ヶ月が経っても、30人近くいるクラスメートの名前は未だうろ覚えな状態だ。
ましてや、一週間前に予告された一問一答歴史人物50人小テストなんかできやしない。
難しい漢字、似通った名前、紛らわしい事件や反乱。
これだから歴史は大嫌いだと、少女──伊賀 理零は盛大にため息を吐きだす。

理零の零は、0点の零。
彼女は自身のことをそんな風に自嘲するが、歴史はともかく理科の成績に関しては学年でも10位以内に入るレベルだ。
だが逆を言えば、歴史が彼女にとって成績の重い枷となっており、それを克服しない限り彼女は最低クラスのDクラスから抜け出せないのである。


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