固唾を飲んで祈る者、ガタガタは震えて俯く者、泣き出す者。
伊賀理零もそのうちの一人で、5月中旬の昼下がりと、さほど寒くもないのに奥歯をカタカタ小刻みに震わせていた。
ピンと張り詰めた緊張の中、男性教師は真顔で教卓に手をつき、ピシャリと言い放った。
「出席番号2番、浅田美咲!」
クラス中の眼球が、ギロりと一斉に窓際の方へ向かった。
憐れむような、蔑むような、そして安堵するような、目。
「いっ……や、い、いや……ゐぃやあぁぁぁあっ!」
青ざめた顔面で阿鼻叫喚する彼女を、いつの間にか出入りしていた警備員が二人がかりで取り押さえる。
激しく蹴ったり叩いたり噛み付いたり、とにかく拘束から逃れようと死に物狂いで暴れている。
その細い手首に不釣り合いなほど重く錆びた手錠が嵌められてもなお、彼女は破壊をやめない。
机が蹴り飛ばされ、分厚い教科書が勢いよく床に散乱した。
「じにだくない! 死にたぐない゛ぃぃいっ! やめて! 離して、離してゑぇっ!」
警備員が慣れた手つきで彼女の口に布を当てると、彼女は抵抗をやめ、ぐったり力なくその場に崩れ落ちた。
先程までの暴動なんてなかったような、穏やかな寝顔だ。
浅く肩を上下させながら呼吸し、人形のように項垂れる。
それを見るクラスメートも2年間経験していれば慣れてきたようで、怯えつつも入学当初のような悲鳴はあげなかった。
鉛のように重い雰囲気の中、強面の教師は淡々と名前を読み流していく。
「出席番号12番、木村 勲」
「……はい」
「出席番号25番、野村 真波」
「そんな……そんな……っ」
浅田美咲のように悲鳴をあげて最後まで抵抗する者、覚悟していたのかすんなりと受け入れる者、諦めたように項垂れて涙を流す者。
いつ死んでもいいよう、事前に遺書を書いておく生徒もちらほらいる。
どんなに訴えても、もがいても、抗っても、行き着く先は皆同じ。
学院の地下、厳重に施錠された『抹殺室』。
そこでの殺害方法は秘密裏に隠されているが、命を奪われることに代わりはないのだ。
そして空いた分の席には、代わりの人間が絶えず補充される。
Cクラス辺りから落第してきた生徒かもしれないし、編入テストが振るわなかった生徒の場合もある。
次に命を奪われるのは自分かもしれない。
そんな恐怖に身を震わせながら、死刑宣告を受けた人の背中を見送るのだ。
こうして計5人の命が、今月も消えていく。
「今回残った者もかなり危ないぞ。油断はするな!」
昨日までクラスメートだった子が、友人が、取り押さえられ、連行されていく。
そして次の日には見知らぬ人が座っている。
そんなことが当たり前になったこの世界で、少年、少女達は今日も生きていかねばならない。