本庄は鈴木医師の治療院へ運ばれた。
「本庄さん、また、ご自分の記憶を語って頂けますか?」
本庄は、記憶を語り出した。妻を殺害し、今、地球で治療を受けている事を。
「どうして貴方は、自分の奥さん滝を殺したと思っているのですか?彼女は死んでいませんよ」
「滝は、火星解放運動の事を、マスコミに漏らそうとしたのです。それで私がレーザー銃で...」
「しかし、そんな記録はどこにもありませんよ。一度滝さんと会ったらどうです?」
(どうして、この男は自分の妻を殺した、という記憶を持ったのだろう?)
そして、本庄は滝の家に行った。
滝は、彼を出迎えコーヒーを入れてくれた。
「ところで、貴方はまだ、私を殺したっていう、固定観念を持っているの?」
「ああ、残念ながら、その記憶は捨てきれない。君が火星解放運動を、マスコミにリークしようとした時...」
「貴方は、私にレーザー銃を撃ったわ」
「それで、どうなった?」
「外れたのよ」
「そうか...しかし記憶が...」
「貴方は、泣いていたわ。私は、すぐさま、離婚訴訟を進め、警察に訴えた。貴方は捕まって、でも弁護士が
貴方の精神の不安定を主張し、罪を逃れた代わりに、精神科の治療を受けるよになったの」
そして、彼女が言うには、妻殺しの記憶を植えつけたのは、火星解放運動団体らしい。
「貴方に自殺して貰いたかったのよ。そして貴方は自殺した。未遂だったけど」
(自殺未遂?そんな馬鹿な!そんな記憶は全くない。だいたい、この妻は、何かおかしい)
「変な記憶を持っているのは、僕だけじゃないのかもしれない」
この世界は一体何だ?
「少しわかってきたぞ。滝!君は実在しているようだ。そして、鈴木医師。彼も実在するのだろう。
しかし、この場所。これは変だ。ここは本当は、火星の牢獄か精神病棟だろう」