「王子の裏……ですか……?」
「そうよ! 学園の王子、秋山翔斗の裏を暴き出すのよ!」
部長が見習いの私に記事を任せる、なんて言うから何事かと思えば、とんでもない案件だった。
「あなた確か席替えで秋山翔斗の隣の席になったんでしょ?」
「ゑぇっ、なんで知ってるんですか!?」
「もう学校中の噂よ? 三年にまで広まっているわ」
席替えで隣の席になっただけで噂になるとは。
さすが、学園の王子──秋山翔斗。
学年首席で、部活には所属していないものの運動神経は抜群、アイドル顔負けの容姿。
そして誰に対しても平等に接し、人当たりもいい。
そんな人物を女子が放っておくはずもなく、ファンクラブやらが作られ、クラブ外でも王子なんて呼び名が浸透している男。
「それで、秋山さんの裏ってなんですか?」
「サッカー部の部長が助っ人を頼んだ時に聞いたっていうのよ、王子の"舌打ち"!」
「舌打ち……ですか?」
「あの仏のような笑顔を振りまく王子が舌打ちなんてスキャンダルじゃない! 本性は絶対腹黒だわ! 裏を暴いて校内新聞にするの!」
「舌打ち一つで校内新聞にされるって、たまったもんじゃないですよぉ〜」
舌打ちなんて誰でもある。
でも秋山翔斗の聖人視は異常で、みんな舌打ちなんてしないと思っているらしい。
人間だしそれくらいあると思うんだけど……。
乗り気でない態度を見せても、部長は気味の悪い薄ら笑いを浮かべて記事のレイアウトを考え始めてしまっている。
「それじゃ、よろしくね!」
初めて任された記事がこんなのって〜!