短編をドーーーン!!!するスレ

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3:ミルク抜きカフェオ↑ーレ:2019/03/30(土) 00:49

 溜まりに溜まった夏休みの宿題を終わらせるべく図書館に来たというのに、気付けばただ涼んでいるだけの状態になっていた。
 私は今、小学5年生。学校で習うこともだんだんと難しくなってきて(特に算数。意味がわからない)、このままでは2学期の授業に追いつけるかどうか――というところで夏休みを迎えた。当然夏休み中に終わらせるドリルの後半の計算問題なんて何がなんだかさっぱりで、何か教科書よりも分かりやすい本はないものかと、宿題を終わらせるついでの目的で図書館へ足を運んだというわけだ。

 しかし困った。ここは涼しすぎる。涼しすぎて調べものはおろか勉強も手につかない。クーラーの冷たい風と一緒に、やる気と知識がどこかへ吹っ飛んでいった気さえする。このまま私のことも、夏休みの宿題のない国へ飛ばしてくれないかなぁ。ちょっと前にテレビで、長い休みに宿題が一切出されない国があると聞いた。夏休みの間だけそこの国の人になりたいなぁ。
 しばらく悶々と色々なことを考えた。時間が経つにつれて「ここに何しに来たの?」と頭の中で誰かが私を責め立てるので、仕方なく席を立って図書館の中を歩き回ることにした。私は本はあまり読まないし、図書館にもあまり来ないから、どこに何があるのかさっぱりわからない。取りあえず算数の本を探してみようと思って、大テーブルから歩いて少しのところにあった検索機の画面に触れた。――けど、算数の「解き方」よりも「算数とは?」というような、頭の良さそうな本ばかり画面に出てきた。これは期待できそうにない。算数のことは、得意な友達に聞いて何とかしよう。帰ったら連絡してみようかな。

 算数は図書館では解決できないと分かったので、もうほとんどヤケクソではあるけれど、適当にぶらぶらと散歩気分で館内を歩いてみることにした。この図書館、こんなに大きかったんだ。――こんなに大きいのに、本だけでいっぱいいっぱいなのか。本ってたくさんあるんだなぁ。
 ふと、「日本文学」というプレートのついた本棚が目に入った。私より何倍も何倍も背の高い本棚だ。少し興味が湧いて、私の目と同じ高さにある本を一冊手に取ってみた。タイトルは『竹取物語』。夏休み前に、国語の授業で少しだけやった気がする。どうやら本は本でも、かなり昔の本がここには並べられているらしい。見てみると、他には『御伽草子』とか、『世間胸算用』とか、話はよく分からないけれど、見た感じ昔の本がたくさん並べてあった。――あっ、でも、これは何となく分かるかも。『義経記』って書いてある。たぶん、源義経の本なのかな。お母さんが好きそう。私のお母さん、歴史大好きだし。
 
 例の棚から何冊か本を取って、元の席に戻った。やりかけのドリルが放置されたままだ。あと3ページくらいやって、ちょっと本を読んだら、今日はもう帰ろう。
 私が本をテーブルの上に置き、鉛筆を握るのと同時に、向かいに座っている人の方から「ハァウッ!!!」と息を飲むような音が聞こえた。ちらっと見てみると、髪の長い女の人が、私にバレないようにだろうか、読んでいる本で顔を隠しながら、こちらの様子を伺っていた。雰囲気は大人っぽい。雰囲気は。それにしても、動きが変質者みたいだ。
「……あの、何か?」
 視線が気になって気になって仕方ないので、思い切って声をかけてみた。すると向こうは目を見開いて、それから「何でもないです、すいません……そこに置いてある本が気になっただけです……」と、小さな声で言った。
「誰?」
「ウッ……大学生です」
「怪しい人?」
「まさか……」


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