一瞬、霧を劈くような閃光が瞬いたかと思うと、鼓膜を破るような轟音が響いた。
眩い光が地面に降り立ち、二人の目を眩ませる。
「う、ゔぅうわあぁああ゛ー! 俺のぉ、俺の斧がぁあ……!」
雷が降り立った地は大工のすぐ横の──斧であった。
斧は雷撃を直に受け、木でてきた柄の部分は黒く煤けた。
斧は煙を上げながら山の斜面を下り、あれよという間に下の小川にぼちゃんと落ちて滑るように流れた。
多くの木の命を奪った凶器は、一瞬でただの鉄くずと化してしまった。
「周りの木を切ったのがいけなかったなァ。少しでも残しておけば、雷は杉の木に落ちたろうに……」
「こんな晴れてんのに雷落ちるなんて思わねぇだろうが!」
村長は転がり落ちる斧を、射抜くような目で視た。
雷は高い場所に落ちやすい。
高い杉の木が多く生きるこの森なら杉の木に落ちる可能性が高かったが、一帯の木はほとんど大工が切り落としてしまった。
罰が当たったのだ、と村長は鼻で笑う。
「いや、だとしたら斧より高い我々が雷を受けるはずだが……」
村長はピンポイントで斧が直撃を受けたことに、気が付き、はっと双眸を見開いた。
「まずいぞ……! こりゃあ、まずいかもしれん……」
「な、なんだよじいさん……!」
雷の恐怖で震える大工が、ぶれた声で訊ねる。
村長は額に脂汗を浮かべながら、低い声で言い放った。
「青鬼の……憤慨」
雷が斧に落ちたのが偶然ではないとしたら。
多くの木を殺した斧が意図的に雷撃を受けたとしたら。
「森の青鬼が、憤っておる!」
雲ひとつない快晴にも関わらず、ごろごろと轟音が響いていた。