「そう、そこの自動販売機の前でコーラを二本持って、今にも歩き出そうとしている貴方です!」
……詳しい俺の今の状況説明、どうもありがとうございます。じゃなくて!
俺が振り返ったそこには、茶色のサングラスをかけた二十代くらいの綺麗な女性がいた。……すいません、モデルさんですか?
「貴方、トップアイドルを目指してみない?」
うん?え?
「……はい?嫌ですよ。目、大丈夫ですか?」
アイドル?それって、歌って踊るアレだよね?
この人は俺のどこを見てそれを言っているのだろうか。もしかして、目が悪いのか?それとも狂ってる?
「目は別に悪くないし、狂ってもないわ。これでも、数々のアイドルをスカウトしてきたのよ?」
へー、それはすごい。でも、スカウトなら俺なんかじゃなくても、他に沢山いるのに……。例えば、奏佑とか、奏佑とか、奏佑とか、俺の弟とか。姉さん駄目だ。モデル業命な人だから。
というか、貴女がやれば良いんじゃないですかね?
「連れも待たせてるんで、もう行きますね」
そう言って、俺は踵を返して歩き出……せなかった。
「ちょっと待ったー!」
女性が俺の肩をがっちりと掴んできたからだ。なんなんだよ!
「……分かったわ。確かに貴女の実力を私は知らない。でも、感じるのよ。断言させてもらうわ。貴方なら絶対に輝ける」
だから、とその女性は続けた。
「一回だけでも、うちの事務所に来てみない?お連れの方も一緒に」
そう言って、俺の目を真っ直ぐに見つめるその女性の瞳は真剣で、とても冗談を言っているようには見えなかった。
……まあ、一回行ってみるだけなら良いか?そもそも、奏佑がなんて言うか分からないけど。