「あ、お疲れ様です志賀葉《しがは》課長」
「お疲れ様。私はこれで失礼させて頂くわ」
カツカツとヒールを高らかに鳴らし、颯爽と歩く姿は注目の的になる。
給湯室でヒソヒソと耳打ちする男性社員を横目に、私は先を急いだ。
「志賀葉《しがは》課長、いつもは残業するのに今日帰り早いな。デートとか?」
「それはないっしょ。絶対彼氏いねぇって」
「美人だけど、怖いし近寄りがてぇもんなぁ。俺ならもっと可愛げのある三好さんの方がいいや」
いいわよ、こっちだって貴方達みたいな男願い下げよ。
仕事は遅いし気も利かない、営業はヘタクソ噂話は一人前。
軽く舌打ちしたが、繁華街の喧騒の中、誰の耳にも届くことは無い。
それに私が今日急いでいるのは他でもない、早く帰ってくる彼氏だ。
いるのよ。彼氏、私にだって。