「……はっ!」
ノンレム睡眠……そんな言葉をあすかは知らないが、
夢を見ないまま、彼女は目を覚ました。
何時間寝ていたかもわからない。
十分、一時間、それ以上かもしれない。
先ほどまであった疲れは、すぅーっと消えていた。
「うー……寝過ぎたかな。ふらふらする」
寝起きのだるい身体をゆっくりと起こし、あすかは立ち上がった。
そこで、彼女は気付く。
「あ……あれ? なに、これ……」
あすかは、目の前で起きている出来事に驚きを隠せなかった。
人も動物もみな、時間が止まったように動かない。
ちょんちょんとつついてみても、なにも反応がなかった。
よく見れば、時計の針も進まないままで……
あすかは気づいた。時間そのものが止まっていることに。
「なんで……どうして……?」
自分以外の全てが止まっている。体験したことのない超常現象。
その場に、立ち尽くすしかなかった……。
「それはね、俺が時間を止めたからだよ」
「え……?」
何もかもが動かない、なにも聞こえなくなった空間で、若い男の声が聞こえてくる。
あすかは声のした方を向いた。
「俺はラノーマ。なんで君だけ時間が止まってないの?」
長丈の服を着た、青年。ラノーマと名乗ったその青年は、
不思議そうにあすかを見ていた。
「……ま、それだったら、力づくでやるだけなんだけど」
ラノーマは、指をパチンと鳴らす。
するとその背後から、怪人が姿を現した。
「ひっ……!」
鋭利な爪、強靭な身体。テレビドラマで見る怪人そのものだった。
「よし、やれ」
「ぐるるるる!」
ラノーマが手を下ろすと、怪人は爪を振りかざしながらあすかに襲いかかる。
「あ……いや……」
このままでは、死ぬ。あすかは確信を持ってそう思えた。