「あのさぁ…言わな、書かなかった?咲良君。これはこっちに置けって。これで何回目だと思ってるのかなぁ?ねぇねぇ聞いてる?」
出社早々これだ。
ネチネチとした上司の声が頭に響く。
私は中卒にも関わらず、大手企業に就職した。正直何故受かったか分からないし、分かりたくもない。少なくとも、こうして上司に粘っこく怒られている事から今の私がここの会社で実績を出せる実力なぞない事は明白なのだが。
「はい、はい…誠に申し訳ございませんでした。これからより一層注意して仕事に臨みますので」
「もう次は無いと思えよ…あ、後今日君残業して貰うね」
苛ついた様子の上司はそう私に命じて、コーヒーを取りに席を立って行った。
…最悪だ。
日も変わろうとしている深夜、私はフラつきながら会社の自動ドアを潜った。
腕時計を見ると、丁度0時だった。今日は一日中パソコンと見つめ合っていたので、幾分か目が見えにくい。気分の問題もあるだろうが、ボヤけて前が良く見えない。
こんな事なら目薬を忘れたと気付いた時に取りに行けば良かった、と後悔していると、後ろから何か気配を感じた。