番外編〈軽音楽部の優雅な朝練〉
気付けば朝日は登りきっていて、窓から見える景色を燦々と照らしている。時計は既に8時を示している。あと数十分もすれば教室に行かなければならないと思うと途端に憂鬱さに襲われる。左手でギターの指板を撫で、ため息を吐き出す。音楽室の隣の小部屋。「朝練」という名目で行う、眠れなかった日の始業までの暇潰し。それが、私一人の軽音楽部での恒例行事になっていた。最初こそ一人の部活なんて、と受け入れられなかったものの、ずっと一人でギターを弾いているうちに学校中で評判が広がり、何故か部活扱いをしてもらうことに成功したこの部。部活か否かは正直どうでもよかったのだが、早朝から広い学校に来てギターを好きに弾いたり、放課後暇な連中のリクエストを受けながら弾き語りをしたりといった活動を合法的に行うには、「軽音楽部」という肩書きは必要不可欠だ。そのため半ば仕方なく部を名乗っている、という所存だ。
ふと外の空気を吸おうと窓の外に身を乗り出してみると、校門の前に人が立っているのが見えた。この学校の制服は着ているものの見たことがない顔だ、はて誰だろうかと首を傾げる。そういえば、担任が転校生が来るとかなんとか言っていたような気がする。もっとも私はキュウリネコカブリの新曲について考えていたために話は聞いていなかったが。
「ダイジョブッス、大体世間は土下座と土下寝で何とかなりますから!」
一人思考を巡らせていると人物が唐突に叫んだ。大きな声で話した、という方が正しいだろうか。土下寝では何にもならないだろう、と心の中で突っ込んだが、彼女も初めての土地に緊張しているのだろう。
彼女のこれからと軽音楽部に入ってくれる僅かな可能性に想いを馳せ、Fコードをぽろんと鳴らした。
神様が君臨しましたねぇ