『ヒナタ』
雨降る夢の中に、君が出てきた。
君はびしょ濡れで、私もびしょ濡れだった。
君は険しい顔で、私の目をまっすぐに見つめていた。
──どうしてそんなに悲しそうな顔してるの。
いつも、太陽みたいな笑顔を浮かべているのに。
そう訊ねたつもりなのに、声が出ない。
『落ち着いて聞いてほしい』
君は私の手を握った。
その手は小さく震えていて。
君を安心させたい。
君に笑ってほしい。
そう想いを込めながら、握られた手をぎゅっと握り返した。
雨の音と、早い鼓動の音が交わって耳に響く。
『ヒナタはもうすぐ───
死ぬんだ』
呼吸が止まった。
どうして?
なんで君はそんなこと言うの。
気づけば頬には涙が伝っていて、雨に溶けながら滴り落ちていった。
そしてまた気づけば、君はいなくて。
雨が降る夜に、なぜかぽっかりと浮かぶ満月が私を照らしていた。