「わ〜! このラピスラズリのペンダントかわい〜 石川県みたいな形してる!」
「そちらは"シュタイン"の作品ですね。いわれてみれば、そこのギザギザが能登半島っぽいかも……」
「やっぱ店員さんもそう思います!?」
レジで待機していると、展示ブースでオーナーと女子高生の弾んだ会話が聞こえてきた。
能登半島っぽいラピスラズリってなんだよ、と心の中で突っ込みつつも笑ってしまう。
あの石を加工したのは私だけど、言われるまで全く気が付かなかった。
アクセサリー雑貨店"ベステンダンク"。
私は高校入学直後に、ここのお店でレジ打ち兼アクセサリー制作をしている。
元々趣味でハンドメイド作品をインターネットに出品していた経験もあり、オーナーのサンゴさんに気に入られて商品を出させて頂いている。
石は普通、研磨したり削ったりして丸などの形に整えてからアクセサリーに加工する。
けれど私は石の形を変えずにそのまま使うアクセサリーを作っている。
もちろん研磨する肯定を省いてコスト削減というのもあるけど、もっと大きな理由がある。
歪な形はこの世に同じものは存在しない、唯一無二。
そして石を持つ人によって、形の解釈が変わる。
例えばある人は石川県に見えるし、ある人にとってはスパナに見える。
持つ人によって味方が変わるなんて、磨かれた宝石じゃできないことだ。
「石川県に住んでる彼氏のプレゼントにしようかな。私これ買います!」
女子高生は壊れ物を扱うような感じで、大切にペンダントを持ってレジへと向かう。
「お会計お願いします。あ、ギフトで!」
「ありがとうございます。一点で900円となります。化粧箱に入れさせて頂きますね」
赤いビロードの敷き詰められた正方形の箱にペンダントを仕舞うと、なんだかいつも──娘を嫁にやる父のような気持ちになる。
私の手で生まれたペンダントが、綺麗な箱に詰められて人様の手元へ渡るのは、何度経験しても嬉しいものだ。
少し寂しい気も心の奥底にはあるけれど、私は笑顔で送りだす。
紙袋へ入れて手渡すと、彼女はもじもじと俯いて、上擦った声で言った。
「あ、あの……このペンダント作ったシュタインさんに、ありがとうございますって、伝えて貰えませんか?」
「……へ?」
「すごく、気に入ったんで! もう、彼氏に渡すの惜しいくらい」
彼女は本当に嬉しくてたまらない、みたいな笑みを浮かべた。
深いえくぼが微笑ましい。
「……そう言って頂けて嬉しいです。きっと喜ぶと思います。"シュタインさん"も」
なんだか彼女を騙しているようでチクリと胸に刺さったが、自らをシュタインだと名乗ることもできず、私なりに感謝の意を述べたけど──なんだか足りなくてもどかしい。
本当はもっと嬉しそうな顔をしたいのに。
「Besten Dunk!(ありがとうございました)」