梶原が教室に入ってきた。
理科の授業をしに来た…はずだった。
教室には、わたしと数人以外いない。
梶原は絶句して、目に涙をためて震え始めた。
梶原「わたし…は…みんなに、ちゃんとべ、勉強、して…ほしくて…ぇ」
しばらくの沈黙が続いた。
かすみ「先生、私たちだけに理科教えてください。
授業してください。ちゃんと聞きます。」
クラスメイトの海原かすみが声をあげた。
かすみは誰にでも優しく接し、真面目に授業を受けるこのクラスの中立的な立場にいる存在だ。
顔も可愛くて成績も運動神経も良く、先輩にも好かれているのだ。
けど、わたしはまた、黙っているだけだった。
梶原「そ、そうね。今日は身の回りの現象を…」
ゆか「先生、それ一年生の単元です。」
ゆかは、頭が良くてクラスの学級委員を努めている。
ボブのキレイな髪が印象的で、これまた美人な女子だ。
梶原「そ、そうだったわ。原子と分子のテスト対策、ね。」
授業が始まるが、かすみやゆか以外のクラスメイトは全員上の空だった。
全員が今授業を受けていないクラスメイトがどこにいるか知っていて、それを聞かれないのを不思議に思っているようだ。
もちろん例に漏れずわたしはその中の1人であった。
他のクラスメイトは、家に帰ったか、あるいは遊びにいったかなのだ。
先生はもしかしたらそのことを察しているのかもしれない、校内にいるとはとてもじゃないが思えないのだろう。
そう考えているうちに、授業は以外とあっさり終わった。
短時間で濃い内容を叩き込まれたかすみやゆかは、先生のものに駆け寄って
分からなかったところを聞いている。
明日は単元テストだ。
今日はテスト対策を重点的に行っていたようだが、わたしは理科は得意なので難なくパスできそうな内容だった。
梶原が教室を出ていくと、かすみがこう言った。
かすみ「…ねぇ、みんな、どこいったのかな」
その声は、そのあと誰かによって切り出された話題にとけていった。
これでいいのだ。
誰もがそう思った。