「―――どうしよう、迷子になっちゃった」
薄暗く、樹々の生い茂る森の中。
カゴいっぱいの薬草と古びた杖を持ち、赤いローブを纏う少女は、
道であるのかもわからないような草の上で、立ち往生していた。
「ま、魔物とかに出会しちゃったら、いやだな……」
そんな思いを裏切るかのように、目の前の大木が真っ二つになって
少女の目前で倒れた。
「え……ま、まさか……!」
木を切り倒すような魔物は、少女の知る限りでは森の中に一種類しかいない。
「キシャー……お、人間か?まだ幼子じゃないかァ!こりゃ大手柄だな!」
少女の目の前に現れたのは、緑色をした巨漢の生物。ゴブリンであった。
「こ、来ないで!」
ゴブリン相手に、杖を振り回して牽制を図ろうとする少女。
しかし向こうはそれを物ともせず、手に持った木棒を見せながらじりじりと距離を詰めてくる。
「このままじゃ、私……!」
万事休す。少女が半ば諦めかけた、その時だった。
「キシャァ!お前も大ゴブリン様のところへ……痛ッ!な、なんだ!?」
ゴブリンが、突然悲鳴を上げて動きを止めた。
背後から誰かに殴られたらしい。
「あれは……」
ゴブリンが頭を押さえる背後を、ローブの少女は見た。
「……あれ、おかしいなぁ?この剣、切れないんだけど……」
そこには、長い髪を後ろで一つ結びにし、
装備としては軽めな物をつけた別の少女が立っていた。
「な、何なんだオ前!」
ゴブリンが少女に、名前を問う。
そして少女は、高らかに答える。その手に持った剣を振り上げて。
「あたしはステラ!この大陸で、一番の剣士になる女の子!」