……それは、数時間前。
ステラが12歳の誕生日を迎えた朝のことである。
「おかーさんおかーさんおかーさんおかーさん!!」
「あら、ステラ。朝からそんなに慌ててどうしたの?」
ベッドから飛び起きたステラは、台所で朝食を作っている母の元へ駆けて来た。
「あたし、冒険に出たい!夢に出てきた女神様が言ったんだ!そろそろ旅にでも出なさいって!」
「冒険……女神様……ふふっ」
釜戸の火を止めると、母はくすくすと笑いながらステラの頭を撫でた。
「わっ……おかーさん?」
「もうそんな年頃なのね。わかったわ……お父さんお父さんお父さんお父さん!!ステラが冒険に出るそうよ!!」
先ほどのステラと同じように、とてつもないハイテンションで、
まだ起きていない彼女の父親を呼ぶ母。この親子、似ている。
「んー……ステラが冒険に……なんだとなんだとなんだとなんだと!?いつ出るんだ!祝食を上げなければ!
村全体で!これはめでたいぞ……!」
この家族、似ている。
父親も飛び起き、娘の宣言を歓迎していた。ハイテンションで。
「えっと、今から出ようと思ってるの。武器と防具、たしかこの辺に……あった!」
ステラは、タンスにしまわれた木製の鎧や布の服を取り出した。
なぜタンスに防具や武器がしまわれているんだ。
「あれ、でも武器がないなぁ。おかーさん、知らない?これくらいのナイフ……」
「ステラ、それなら……包丁代わりに使ってるわ。ごめんね!」
「えっ!」
なんとこの母親、娘の愛剣であった小型のナイフを、
料理に使っている。
「はっはっは、お前もしょうがないなぁ。ステラ、旅支度を整えるなら隣町に行きなさい。
3000G(ゴールド)やるから。十分な装備が買えるはずだ」
「こんなに!?お父さん、ありがとう!でもおかーさんは許さないからね」
お金を受け取ったステラは、捨て台詞を吐いて自分の部屋へ戻っていった。
「あはは……。あの子、一人旅させて大丈夫かしら?」
「平気さ。剣の腕だったらこの村で敵う奴は居ないんだ。外の世界でもやっていけるさ」