ある政治家が言った。
「A国は我が国を常に敵視している侵略国家だ。彼らを倒さない限り、我々の平穏はない!」
国民達は拍手と歓声で彼の演説を讃えた。そして、
「そうだ。早くA国を滅ぼせ!」
と異口同音に叫んだ。それも毎日である。流石の政治家も危機感を覚えたが、民意に反した発言をして、次の選挙で落選してはたまらないので、結局国民に調子のいいことしか言わなかった。
無論、こんな状態で平和が続くわけもなく、ついに戦争になった。
軍人達は、地団駄踏んで、恨み言を言ったが、もうどうしようもない。彼らはA国に向けて侵攻を始めた。
A国の方は、「あんな奴ら、くちばかりで、戦争なんてするものか」と政治家も国民も高をくくっていたから、現地の軍人達は敗北を続け、ついに捕虜になった。
軍人達は、A国の捕虜を安全な国内の収容所へ移そうとしたが、国民達が、
「汚いA国民を国内に入れるな」
と言って収容所や軍隊の幹部の家に押しかけて、時には投石や脅迫状を送ったりした。
軍人達は止むを得ず現地で捕虜を預かることにした。彼らが危惧した通り、病気や飢え、現地民の襲撃で捕虜も軍人達も死んでいった。
これを聞いて、A国の政治家は手を叩いて喜び、捕虜の死を国民に大きく宣伝するように命じた。A国の国民達は怒り狂い、「奴らを絶滅させろ」と叫び出した。
こうして、A国の軍人達は次々と戦場へ送られていった。
「捕虜になれば殺される」と思い、全て死兵となったA国軍を食い止めることができず、ついにA国がこの戦争に勝った。
A国は、戦争を始め、残虐な行為を行ったものを処罰すると表明した。そして、政治家と国民と軍人が呼ばれた。
政治家は、全て軍人がやった、我々は彼らに脅されたと言った。国民は、政治家と軍人が悪い、彼らが善良な国民を騙し、脅し、残虐な戦争をさせたのだ、A国民には申し訳ない、一生反省を続ける。と涙ながらに語った。軍人は何も言わなかった。
そして、軍人だけが処刑された。
ありがとうございます。携帯の向こうの人ではなく、携帯の中(SNSなど)のヒトしか見ていない世の中は寂しくて怖いです。
>>3読みました。開戦と関係の無い軍人のみが矢面に立たされるのが皮肉で、読後に何となく虚しさを感じました(いい意味で)。人間って卑怯だよなぁ、そんなもんか、と。最前線で頑張ったのは軍人なのに……。けれど軍人が抗議しなかったのは、最前線で人を殺してきた罪責感からなのかな、とも思ったり。面白かったです。