──国立アルテック学院 王族学科 高等部。
世界の半分を支配している大帝国、アルテック帝国の首都にある学園。
世界中の王子や姫達が集まり、王としての振る舞いや社交、帝王学を学ぶ。
政略結婚の思惑、人種差別によるいじめ、強国と弱小国の立ち回り、同盟のような友人関係。
それはさながら、世界の縮小図。
他人を出し抜き、欺き、自分が有利になるよう立ち回る。
時には同盟を組み、時には派閥同士で争い、時には弱小国から搾取する。
「さすが小さな島国。田舎者って感じよね」
「島国の姫なら、藁のドレスがお似合いだわ」
辺りに宮殿のような校舎に不釣り合いな、家畜小屋の臭いが充満する。
家畜の寝床である干し草をぶっかけられたと理解するのに数秒かかった。
微妙に湿っているのが余計に気持ち悪かった。
牛や豚の唾液かもしれないと想像しただけで震えがおさまらない。
「お母様が仕立ててくれたドレスなのに、よくも……!」
「あらあら、貧しいから仕立て屋も雇えなかったのねぇ」
「そんな民族衣装、ドレスなんて言わないわ」
すらすらと悪口の出る汚い口元を、どこかの動物から毟り取った毛で装飾された扇子で隠しながら嘲笑う二人の姫。
二人の姫の間から、一人の男が進み出る。
俯いていると、自分の藁だらけの顔が映るほど鏡面磨きにされたピカピカの黒いブーツが視界に入った。
見上げるれば、人間離れした端正な顔が私を見下ろしていた。
生まれながらの帝王気質。
その冷酷な視線で睨まれたが最後、どんな荒くれ者も服従せざるを得なくなるような、そんなオーラがあった。
──シェイス・アルテック。
世界の半分を支配する大帝国の王子にして、全ての元凶。
「あなたがいけないのよ? シェイス王子に無礼な態度をとるのだから」
「……先に侮辱してきたのは彼です。私は失礼な態度に対して同じ態度で返したまで。あぁ、まだマナーが分かっていらっしゃらなかったのかな? だったらごめんなさいね、シェイス王子」
怖いのに、本当は怖いのに、あの視線で射貫かれては反抗できないのに。
でも自分に非があると認められず、ペコペコ謝りたくなくて、強がって口ばかり反抗してしまう。
ここまで反抗した手前、謝まったら謝ったで更に足下を見られそうな気がしてしまう。
「……謝りません。あなたが先に謝るまで」
──あぁ、世界で戦争が無くならない理由が今分かった。
「まだそんな態度を……!」
「騒ぐな。報復はじっくりと楽しませてもらう」
シェイスは私のドレスの裾をブーツで踏みにじると、背を向けてコツリ、コツリと立ち去って行った。
「あぁ……なんでこんなことに……」
小さな島国の姫である私が、こんなサスペンスに満ちた学園に身を置くことになってしまうなんて──。