──放課後。
ホームルームが終了したので席を立つと、背後から忍び言が耳に入った。
「こんな格好ドラマとかアニメの中だけかと思ってたわ、草」
「てか名前なんだっけ?」
「萩虎蜜義(はぎとら みつよし)?だったと思う」
「存在薄すぎて忘れてた」
おしい、僕の名前は萩虎 蜜義(はぎとら みつぎ)だ。
席替えで運悪く教室のど真ん中の席になって変に目立ってしまい、何かと好奇の目を向けられるようになった。
無駄に良い耳は聞きたくもない話まで拾ってしまう。
噂されるだけならまだ許容範囲内だが、絡まれるのは面倒。
「なぁ〜萩虎さーん! バッティングセンター行かね?」
「おい佐川やめとけ、骨折れるって!」
「それもそーだよな!」
「じゃあボーリングにするか?」
運動部なのだろう、程よく日に焼けた男子数人が僕の机を囲む。
僕の席は鍋じゃないんだぞ。
教室中に嘲笑が広がった。
明らかに好意からではない誘い。
「……用事あるんで」
こんな地味な格好はしていても、別にコミュ障ではないのでハッキリ断る。
赤髪や金髪を押し退けると、背後から舌打ちが聞こえた。
ぶるりと心臓が震えたが、ついて行ったところでATMにされるのがオチだ。
それに、用事があるのは嘘じゃない。