「あー蜜義(みつぎ)! やっと来たか!」
車高が低く、スタイリッシュなスポーツカーは路地裏に不釣り合いですぐに分かった。
「親父! どこに車停めてんだよ……」
「仕方ないだろー、学校に駐車するのは流石に目立つし」
「まぁ……確かに」
後部座席のドアを開け、スクールバッグを放り投げて座る。
親父はパリッと糊のきいたシワひとつ無いワイシャツに、濃紺のジャケットを羽織り、ウィンザーノットでネクタイを結んでいた。
イギリスの大使館で働いていたせいか、ウィンザーノットをやたら好む。
「パーティは19時からだけど、1時間前から会場は開いてるからそこで着替えよう」
「ん」
助手席に置いてある紙袋を取って中を確認すると、中々上等なスーツ一式が綺麗に折り畳まれていた。
ご丁寧にネクタイピンとカフスボタンまで用意されている。
ドレスコードが厳しいような所なのかと怖気づいている内に、車は走り出した。