第一話 旅立ち
ここはとある世界にある島、神殿島(しんでんとう)。
その島にはカーリッチという村がある。
この村にはとある仕来りがある。それは二十歳になったとき、世界を旅することだ。
簡単なように思えるが、旅をする世界はノヴラードという獰猛な生き物がいる。
ノヴラードは人を襲うため、危険と言われるのだ。
そしてその危険な旅に出ようとしている、一人の若者がいた。
彼はイナト・スヴェルツ。
万屋(よろずや)の息子だ。
彼が家から出てくると、イナトの四人の兄妹と母親が出て来る。
「じゃあ、行ってくるね。」
「気を付けるんだよ!」
「体調管理は怠らないように。」
「分かってるよ。じゃあ、元気でね!」
元気よく返事をすると、家族は安心したかのように、振っていた手を下ろす。
話が変わるが、イナトは旅のついでにしたいことがあった。
それは、自分の父親を探すことだ。
実はイナトの父親、ガロリオーガは探検家で、頻繁に旅に出ていた。
しかし、ある日を境にガロリオーガは帰ってこなかった。
消息も不明な父の情報が集まれば良い。もしも生きていて取り越し苦労ならどうでも良いのだ。
しばらく歩くと、雲を貫く高さの塔が見えた。
あそこが、旅をする世界に行くための道のような所だ。
少し重い木の扉を開け、上の方を見る。
目に映ったのは、どこまでも続く螺旋階段(らせんかいだん)。
この階段を上っていくと、気がつけば下界に居るという。
イナトも、どこまでも続く階段を一歩、また一歩と上っていく。
…上って数分経った頃だろうか。気がつくと、イナトは木々が覆い茂る森の中にいた。
「ここは…?下界に来たのかな…?地図もないし、どうしよう…。」
すると、遠くから動物の荒い息遣いと馬車の車輪の音が聞こえる。
「おーい!そこのお前ー!そんなとこで何してんだー?危ねぇぞー!」
若い男性の声が森に響き渡る。
「だ、誰…?」
馬車に乗った男の姿が見えてきた。
薄い紫の髪をし、黄色に近いオレンジのヘアバンドを付けた人だった。
目はイナトのような垂れ目ではなく、キリッとした深い紫の目だ。
「こんなノヴラードがいる森で何やってんだよ…危険だから乗れ。」
促されるまま、イナトは馬車に乗る。
「そら、行けっ」
馬車の荷台の方には、いろいろな種類の剣や装備が詰め込まれていた。
値札や仕入れ品と書いてある箱もあったから、何かの商売をしているのだろう。
箱の方を見ていると、ヘアバンドを着けた男が話しかける。
「なぁ、あんな所でなにしてたんだ?」
「ちょっと…。迷い込んじゃってね…。」
正確には「降りた」だ。
しかし、天界人とバレたらどうなるかは分からない。
だから、迷い込んだでいいのだろう。
「迷い込んだ…ねぇ…。お前、名前は?」
「イナト・スヴェルツ。えっと…君は?」
「俺?俺はルーア。ルーア・レゾンティックな。」
「ルーア…なんだろう。女性みたいな名前だね。」
作者『たしかに…マジネーミングセンス無いから許して…(土下座)』
「それなんだよな〜…俺の親どうなってんだよ。」
ルーアは笑いながら話す。
少し笑うと、また話しかける。
「てかお前、装備も武器もなんも無ぇじゃんかよ…。俺の知り合いの店で買ってけ。」
ノヴラード対策だ。装備や武器が無いと、簡単にやられてしまう。
「ありがとう。」
10分程馬車を走らせると、大きめの村が見えた。
「あそこが俺の村だ。」
看板がすぐそこにあった。
「デヴイー村…?」
「そうだ。」
ずいぶんと、のどかな村だった。
次回へ続く