建物の中は薄暗かった。俺は胸ポケットから小型の懐中電灯を取り出す。
辺りを照らすと、中は荒らされた形跡があった。埃の溜まり具合からみて、荒らされてだいぶ長い年月が経過したのだろう。一時期誰かの塒にでもなっていたのだろうか、布団が数式、天井の高い吹き抜けの廊下に出しっぱなしのまま放置されている。
廊下を抜けると、食堂があった。食器棚と思しきものは倒れ、大きなテーブルにもたれかかっている。
他には水の出ない広いバスルーム、排泄物が溢れたトイレ、薄汚れたベッド、物置用か、何も置かれていないが埃だけは被った空き部屋と、随分と大きな家だ。俺も何度か色んな廃墟を塒に転々としてきたが、ここまで大きい所は初めてだった。これが俗にいう豪邸なのかもしれない。
とはいえ、大きな窓ガラスが割れ、部屋の中が散乱したこの状態は、豪邸といえどとても豪奢とはいいがたいものだったが。
「ん?」
ふと、床の違和感に気付く。足音がそこだけ、やたらと響くのだ。まるでその下に、何か空間があるかのように。
辺りを見回すと、床下収納の扉が見えた。金具を裏返し、取っ手を引き出して持ち上げる。
「……驚いた。本当に豪邸だな」
そこに続いていたのは、細い木製の階段だった。埃はなかったが、足跡はいくつか散見されるので、たぶんここも既に荒らされた後だろう。確認するに越したことはないので、足を付いて降りることにした。