せめてもの配慮として、彼と特に仲の良い、兄的存在のりょーたが様子をみに行くことになった。いつもの場より何倍も重いフランスの扉を開ける。恐らく、防音のしっかりとしたこの部屋からそう遠くは離れていないはず。思ったとおり、彼は、扉を出てすぐの廊下にいた。が、その様子はいつもの彼とは違っていた。携帯を耳にあて、誰かと電話をしていることに変わりはない。しかし、先程まで思い描いていた彼の様子とは似ても似つかなかった。壁に身体を預けるようにもたれかかり、今にも崩れ落ちそうだった。項垂れているせいで表情までは分からない。美しく毅然といている彼とはまるで別人のようだった。彼が、弱みをみせたことは今まで一度だってない。また、電話をしているはずなのに彼は一言も声を発さない。おかしい、と気づくまでに時間は必要なかった。それでも、急いで駆け寄ろうとした瞬間―――、間に合わなかった。彼は、崩れ落ちた。立っていることすら出来なくなり、その場で蹲る。が、携帯は耳に押し当てたまま。一言も話さなかった彼から、今は変な呼吸音が聴こえてくる。聞いたことはあった。彼が、昔喘息もちで、身体が弱く、入退院を繰り返していたことを。今、自分は身ひとつだ。何も出来ない。急いで部屋に戻り、声をあげる。「過呼吸だ!!紙袋!!あとちかの鞄は?!」焦っていた。咄嗟に出した指示はめちゃくちゃだった。主語もなければ述語もない。それでも伝わった。適当な紙袋をもったけんけんが急いで廊下に飛び出すのと、かとうが彼の鞄をもって飛び出すのとは、ほぼ同時だった。