さっそく一話目投下。
【向かいのあの子】
毎日、同じ車両の向かいに座っている彼女は、華やかさの擬人化のような女の子。
ふわふわした綺麗な髪にいつも視線を奪われそうになるから、私はいつも、すっかり持っているだけになってしまった本に、視線を戻す。
内容はもう忘れてしまった。彼女に興味を持ったのは、私と同じ本を持っていたから。
ふと視線を上げた先に見つけた、長いまつ毛に縁取られたたれ目に、釘付けになった。
お人形さんみたいだと思った。
高校が違うし、話したことも、名前も知らないけれど。
ああ、あと一駅で、あの子が降りてしまう駅だ。
明日も会えるだろうに、名残惜しく思うのは、きっと、ただの憧れじゃないから。
カツカツ、心地よい音を鳴らして近づいてくるのは、誰でもない、あの子だった。
「ねぇ、私の事、ずっと見てたでしょ?」
小鳥がほほ笑んだような笑顔に釘付けになって、ごにょごにょと言葉が紡げなくなってしまった。
恥ずかしい、消えたい。
「ご、ごめんなさい、あまりにも綺麗だったから…」
「そうなの?ふふふ、うれしいな。…うん、やっぱりあなたって可愛い。」
「え?」
急に顔を覗き込んできたその子は、利口な探偵のような顔で頷くと、可愛いと発した。
…私が?
「でも、わたしがずっとあなたを見てたの、気づいてないでしょ?」
「わ、たしを?」
「そう、すごく好みだったから。」
「…何言って…」
「びっくりした?でも、冗談じゃないよ。…あぁ、もう行かないと。」
次の駅を確認すると、彼女は楽しみにしていたものの準備がもう少しかかるといわれた童女のような顔をして、残念、と呟いた。
美人は、こんな表情さえもきれいなんだ、と場違いに感心した。
くるり、とスカートを翻して去ろうとする彼女は、一度だけバレリーナのように優雅に振り返って。
「また明日。」
彼女の口パクがそう言ったように思った。
【終】
【こんな感じの長さで基本一話完結にしようかなと。】