「やっぱ無理だよな……"深海家"にいる限り……」
マフラーを巻き直して、ぬるくなったコーヒー缶をかじかむ両手で包んだ。
吐かれた白い息は薄暗い空を目指して上るが、儚く消えていく。
深海珊瑚には居場所が無い。
学校。
言わずもなが、避けられる。
どこから漏れたのか分からないが、悪い噂に敏感な主婦が言いふらした為に珊瑚は孤立。
あの子と関わるなと両親から釘を刺されたのか珊瑚と目を合わせる者さえおらず、教師もどこか萎縮した様子だった。
家庭。
"組長の息子"とあれば手厚く育てられるはずだが、珊瑚は正妻ではなく愛人との間にできた妾の子である。
愛人との間にできた子なんてこの世界ではそう珍しくもないが、八代目を狙う正妻とその子供の目が屋敷ですれ違う度に厳しく、珊瑚に継ぐ気はなくとも肩身が狭い。
そんな家庭から抜け出す為、高校入学からすぐにバイトを探し始めた。
そして今日、通算15回目の面接に落ちる。
気がつけば入学から1年が経とうとしていて、桜は蕾を付けていた。