遅すぎた話
小中と同級生だった女性から突然連絡が来た。
彼女と僕はその辺の男女の友達というよりは多少仲は良かったが中1に同じクラスになった以来、顔を合わせれば少し話す程度で、卒業し高校に進学して以降互いの道を歩み始め関わることも無くなっていった。今では互いに未熟ながらもあの頃よりは成長し立派な社会人として世に出ている。
内容は明日一緒にご飯を食べようといった内容だった。幸い明日は土曜日で休みだったので僕は迷うこともなく承諾した。
待ち合わせ場所は近くのファミレス、久しぶりに会うから柄にも無く少しめかし込んだ。どうやら先に着いてしまったようで席に座り興味の無いニュースなどを見ながら暇を潰す。
「ごめん、待った?」そう言いながら彼女はやって来た。背丈や顔立ちこそ昔と変わっていなかったが自分に合った化粧や服装、緩く巻かれた髪で大分印象が変わっていた。「ううん、大丈夫そんなに待ってないよ。久しぶり。」
彼女は僕の正面の席に腰をかける。あの頃より大人っぽくなったな…とか思っていた。それから彼女と僕は世間話や高校のこと、大学のこと、今のことなど時々笑いを交えながら話した。結構長く話していたと思う。ふいに彼女が「なんで私が今日呼んだかわかる?」と言った。僕は特に深く考えずグラスの中の氷を眺めながら「今さっきみたいに昔話したかったからじゃないの?」と投げ返した。少し彼女は黙り込むと「ううん、ごめん違うの。本当は別の理由。」と言い、すぅと少し深呼吸をした。
「私ね、結婚するんだ。」と言った。
え、あ、けっこん?結婚…少し驚いた。確かに僕達は24歳、結婚してもおかしくない年齢ではある。「…そうなんだ。おめでとう。」と僕は返すと彼女は軽く微笑みながらありがとうと返した。
「……すごく良い人なの。大学から付き合ってちょっと前にプロポーズされてね、嬉しかったんだ。」少しドキリとする返答だ。僕が彼女の事が好きだったからかな。そんなことを思っていると彼女がぽろぽろと涙を流した。
「え!?どうしたの!??」
「嬉しかったの、それでねOKしたんだ。でもねこころ残りが、あったから」そう言いながら彼女は僕の目を見つめた。
「私ね、小学生からね今に至るまでずっとあなたのことが好きだったんだ。」
一瞬何を言われたか分からなかった。けど確実に僕の耳に入ってきた言葉は彼女からの告白だった。何も返せずにいると彼女は続けて言う。
「ねえ、覚えてる?小学生のときあなたが私に信頼してるって言ってくれたこと、中1のときは毎日話しかけてくれたこと、中2以降は同じクラスにはなれなかったけどたまに話しかけてくれたこと。私は全部、忘れてない。」そう言って彼女は僕の目を見つめる。相変わらず、綺麗な目をしている。「全部、全部ね私にとっては嬉しかった。でもお互い、大人になっちゃったんだ。忘れようとした。だから告白も受け入れて付き合って、そして結婚も。」そう言って彼女は顔を手で覆う。左手の薬指にはきらりと銀色に輝く指輪がはめられていた。僕だって、好きだった。そう言おうとしたけど声が出ない。代わりに出たのは小さな掠れた声だった。
「私ね、一生あなたより大好きになれる人は居ないと思うの。恋心は子供のままだったみたい。」そう言って彼女は笑った。
「僕だって、好きだったんだ。」やっと出た言葉。だけどもう遅すぎた。僕の言葉を聞くと彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出した。「…そっかぁ、好きだったんだ。お互い、両思いだったんだね。私も大好きだよ。今も、これからも、死ぬまで。」
別れ際、「今日はありがとう。…もう少し早く言えれば良かった。」と少しの俯きながら照れ臭そうに言った。「…うん、そうだね。」と返す。その言葉を聞くと彼女は黙って微笑みながら駅の方へ小走りで去って行った。橙色の夕焼けが見下ろす中、僕は歩みを進めた。彼女の過去に囚われている恋心は今も昔も僕のことを好いているのだろう。「僕こそ、もう少し早く言えれば良かった。」もう遅すぎた後悔の念を抱えながら一人呟く。今日気づいたことはお互い両思いだったということ、そしてそれは過去の話では無く今もだと言うこと。過去に囚われているのはお互い様だ。
僕の頬に一筋の涙が流れて行った。