振り向いた星子の姿に、少しばかりの違和感を覚える。
私が最後に見た時より、だいぶやつれたというか……疲れたような顔をしていた。
部活帰りのそういう身体的な疲れではなく、なにかに苛まれているような、そんな。
初冬だというのに、額には汗が滲んでいる。
「星子久しぶり。なんか疲れてね?」
「もうすぐテスト期間だからね、ちょっと焦ってて……」
「あーそういや私のとこも来週からだな」
星子は私と正反対で成績優秀、しかも陸上部でも好成績を残す優等生だ。
テスト期間前から緊張感を持って挑むあたり、さすがだなと感心する。
「冥ちゃん……学校、楽しい?」
私は星子の方を見たけど、星子は地面に細く伸びた私の影を見ている。
「まーぼちぼち? それなりに友達もいるし。田中も相変わらず厨二全開だし」
「あはは、田中君は相変わらずなんだね」
"あの一件"で、星子の私に対する態度は少しぎこちないものになっていた。
部活という共通の話があの一件でタブーになってしまって話題に困っているというのもあるのかもしれない。
「あ、マック寄ってくー? 前も星子とここで……」
「冥ちゃん」
星子はようやく視線を上げると、私と目を合わせた。
どこか狂気を孕んだような瞳孔に、私はごくりと唾を飲み込む。
「今日……部活、やめてきたんだ」
「え……ぅえええええええええ!? な、なん……」
衝撃で言葉が続かない。
私と同じ――いや、私より陸上部への思いが強い星子が部活を辞めるなんて、豚が空を飛ぶよりありえない。
「中学の頃とは比べ物にならないくらいライバルも多いし、強豪ばっかりだし。それに受験もあるしね」
星子は私が質問するより先に、淡々と理由を述べる。
「そんな……私、じゃあなんの為に……」
――なんの為に、退学したんだよ。
そう言いかけたけど、すんでのところで唇を結んだ。
星子にも星子の理由があり、辞めるのも星子の自由だからだ。
私にはそれを責める権利が無い。
「……ごめん冥。私寄るとこあるから」
「星子!」
星子は自慢の瞬足で、逃げるようにして路地裏へと走っていってしまった。