「キャーッDくん今日も素敵!」
「髪の毛一本欲しいっ!」
「はぁ〜顔面国宝〜〜踏まれてもいい〜」
朝から教室の扉の前で屯するDくんのファンの女子達。みんな同じような髪型をしていて、スカートはこれでもかってほど短い。寒くないのかなぁ……。私も人のこと言えないけど
あ、三人ともこっち見た。え?なんで睨まれてんの?
「Dくんと同じクラスなんてずるい…」
「Dさんの髪の毛一本ほしいな」
「やっぱあなたもD様に踏まれたいですよね???」
うううん一気に喋らないでくれるかな、生憎聖徳太子じゃないんだ私は
とりあえず髪の毛が欲しくて堪らないってことは分かったよ。
「Dくんの髪の毛かぁ、そんなに欲しいなら取ってきてあげるよ」
「えっ……?!いいんですかっ!?パラダイスッッッッッッ」
そう提案すると髪の毛信者の子は「ジーザス!」と両手を広げ、その勢いで私の顔に当たった、痛い。
「うん。早急に終わらせるから待っててね」
仏のような微笑みを貼り付け三人をぐいぐいと押し除けて教室に入り、ドアを閉めた。
ピシャンッ!!!とドアが壊れそうなくらいの音を立てた。
そしてマッハで教室のドアと窓の鍵を閉め、ついでに食いしん坊のBの空いていた社会の窓も閉めた。
Dくんの髪の毛を取ってきてあげるなんていうのは真っ赤な嘘である。そもそも髪の毛取ってくるとか私が変態扱いされてしまうじゃないか!
ドアの外から「この、裏切り者がぁぁぁぁ‼︎」というすさまじい怒号が耳を突き抜ける。
ごめん、と心の中で呟いて、優雅に窓際で日の光を浴びているDくんになんか言えよ、という視線を送った。
「Aさんいつもありがとう、煩い豚共を黙らせてくれて」
「豚…」
「……はは」
目が笑ってない、目が笑ってない。あれ、いつもの爽やかスマイルは何処にいったんだろう。
5秒間の沈黙と見つめ合いが続く。
たしか7秒くらい見つめ合うと恋に落ちるって聞いた気が…
「恋愛フラグ立ててんじゃないわよぉ!!こんにゃろぉ!!」
「あ、Cさんおはよ…」
Cさんの声が聞こえたので仏のような微笑みを貼りつけて振り返ると、顔面に冷たい何かが当たった。は?
これって…こんにゃく…?
べちゃっと音を立てて床に落ちたそれは紛れもないこんにゃくだった。
「なんでだよ…なんで、そんなことするんだ…」
声を漏らしたのは食いしん坊のB。この世の終わりみたいな顔をして、床に落ちたこんにゃくを見つめている。
もしかしてだけど
もしかしてだけど
これってBのこんにゃくなんじゃないの?
なぁ…そういうことだろ…?
「俺のこんにゃくがぁぁ!!食べ物を粗末にっするなぁぁっ!!!」
「すいません」
「すみませんだろーが!!!」
「すいやせん」
「すみませんっだろーが!!!」
「しんかんせん」
BとCの取っ組み合いが始まった。驚きはしない、いつものことだからだ。そして毎度Cの必殺技『先生に言う』が炸裂し、Bは敗北に終わるのだ。弱っ
代わり映えのしない二人の喧嘩を見つめていると、教室のドアがガララッと開いた。あれ、鍵は閉めたはずなのに……
「失礼します…失礼しました」
「はぁっ!?失礼な!失礼するならちゃんと失礼しないと失礼でしょうが!!」
…。
一同困惑。Cさんのツッコミも含め全てが謎な空間 きっとみんな“失礼”のゲシュタルト崩壊を起こしている。関係ないけど失礼ってものすごく言いにくい。
「はぁ…もう、みんな仲良くしようよ、」
言ってから気づいたけど別に仲悪くなくね…?まぁいいや。
そしてさっきから右隣のDくんからの視線を感じる。え、何…?
「Aさん……」
「Dくん…」
「はーい!!誰かEさん連れてきて〜!間に入れてAEDにしまーす!!」
Cさんのその言葉と共に、どんっとDくんとの間に衝撃。
「リア充は爆ぜろっ♡Eちゃんです、わわわわ〜♡」
「え、……………………可愛い」
「え、……………………嬉しい」
間に入ってきたのはいかにもモテますって感じの可愛いツインテールの女の子。つい、可愛いという本音が漏れてしまい、その結果私たちは5秒で友達になった。Dくんは知らん。
「よろしくねっ、Aちゃん♡」
「うん……その喋り方やめたらモテると思うよ」
「あ、まじ?じゃあやめるわ」
フッ…と口の端を持ち上げ、私たちは拳と拳を合わせた。
その様子を、誰かが鋭い眼光で見ているとも知らずに。