結論から言うと、私の判断は間違っていた。······いや、仕方ないことだとは思う。流石に未来で作られたクローンとはいえ······風呂の使い方を知らないなんて、思わなかった。
「姐さんこれどうやって使うんですか!?」
「どれ!?」
「このネッシーの首みたいなやつです!!」
「ネッシー!?······あ、シャワーのことね。それは下にある蛇口をひねって······」
「蛇口ってなんですか!?」
これである。正直言ってうるさい。あとなんでネッシーを知っているんだろうか。未来では存在の証明でもされたのだろうか。
······ともかく、うるさいからと言って風呂場に乗り込んで指導する訳にもいかない。風呂場に他の階に対するそれなりの防音性があることを祈りつつ、私は十数分の間紅羽が出てくるのを待つのだった。
風呂から出てきた紅羽は意外にもしっかりと洗っていたようだった。特に髪の艶が、濡れている事を抜きにしても私のクローンとはとても思えない。
「······こっち来て。乾かすから」
「それ何ですか?」
ドライヤーを棚から出したところで私は今にもうろうろし始めそうだった紅羽を呼ぶ。コンセントを挿したところで、彼女は先程より声を抑えながら首を傾げる。
私はそれに答えず、無言でドライヤーのスイッチを入れた。
ぶおー、という叫び声と電子レンジを混ぜ合わせたような音と共に、熱風が紅羽の頭に直撃する。
「ひっ······」
悲鳴みたいな声が聞こえてきた。まあそうだろう。耳の割と近くでこんな音を聞かされたら誰だって驚く筈だ。
7秒かけてざっと頭の全域に熱風を当てた後、掛けてあった櫛を左手に持って梳きながら髪を乾かしてやる。
「······」
先程の騒々しさもどこへやら、紅羽は殆ど何も喋らなかった。正直私はあんまり器用じゃない。上手い人、そう、理髪師ならこの手つきで人を没頭させる事もできるのだろうが······。
······紅羽はあまりこういう経験がないから黙っているのだ、と思って自分を納得させた。