貴方だけを見ていてあげる
鍵穴の外側から
孤独な貴方を
惨めな貴方を
大好きな貴方を
亡霊なんかに盗られた貴方を
怨嗟と呪詛が聞こえてくる
鍵穴の向こうから
私はそれを子守唄に
今日も眠りにつこうと思う
貴方は夜な夜な吐き出している
切らなくても擦らなくても
吐き出されるそれは
紛うことなき血の想いだ
飲んであげる
苦くて酸っぱくて
嫌な匂いのするそれを
全部残らず飲みほして
私の喉を焼いてあげる
ね
貴方 私を好きだと言ったのにね
月明かりに夢見てしまったのね
可哀想な人
ねえ
まだ許してあげるから
少しだけ私を見てちょうだいよ
まだそこに戻ってあげるから
みんなみんな忘れてあげるから
ねえ
ねえ……
貴方が死んだら
そうしたらきっと私
貴方のお家に行って
貴方の嫌いな人を
みんな残らず殺してあげる
棺桶に眠る貴方を見て
鼻で笑って
攫ってあげる
空っぽの底に
菊の造花を一輪残して
だからね 今日も見守ってあげる
鍵穴を覗いて
饐えた匂いの箱庭に
たったひとり閉じ込められた貴方を
ずっとずぅっと見ていてあげる