思い付いたときに詩を書いていきます。
詩ではなく短文に思えることもあると思いますが、
本人は詩のつもりで書いております。
乱入は可ですが、感想を添えて頂けると幸いです。
また、こちらからの感想はあまり期待しないでください。
何分、自分の意見を述べるのが苦手なもので。
或る国へと続く路を
不気味なマスクの少女が往きます
まだ知らぬ人々と触れ合うため
まだ知らぬ土を踏みしめるため
少女は踊るような足取りで
口もとには見えない
笑みを浮かべて
さて
国へと着いた少女はまず
小ぢんまりとした喫茶店を目指す
ことにしました
喫茶店では見習いが
カップを磨きながら
口ずさんでいました
「“ ”を崇めなければ
“ ”はどんなに修行を積んでも
超えられも逃れられも
しないのだから」
喫茶店を出た少女は次に
可愛らしい花屋を目指す
ことにしました
花屋では店員が
花束を作りながら
子供に言い聞かせていました
「“ ”を崇めなさい
“ ”はどんなに健気に咲く花も
たちまち枯らして
しまうのだから」
花屋を出た少女は次に
古びた文具屋を目指す
ことにしました
文具屋では主人が
インキをくるくる練りながら
口の中だけで呟いていました
「“ ”を崇めろ
“ ”はどれだけ名のある文豪も
正確に書き切れは
しなかったんだ」
文具屋を出た少女は最後に
騒がしい公園を目指す
ことにしました
公園では国王が
唾を飛ばしながら
叫んでいました
「“ ”を崇めよ!
“ ”はどれだけ金を積んでも
この私でさえ抗えぬ
ものなのだ!」
公園を出た少女が振り返ると
喫茶店の見習いだったもの
花屋の店員だったもの
文具屋の主人だったもの
この国の国王だったもの
が、転がっていました
少女は言います
「“ ”を崇めるの
“ ”は誰にも平等で
色んな形で忍び寄ってくる
ものだから
例えば
黒い病の間、とか」
貴方のふとした時の
虚ろな表情が好きだ
どこか遠くを見つめている様にも
何も見ていない様にも
思える
思案に暮れている様にも
何かを考える空白の状態にも
見える
いつも陽気に笑っている
貴方が浮かべるには
あまりに無機質で、
感情も警戒も抜け切った
その表情は
目の前にあっても決して見えぬ、
”最期”と目を合わせている様だった
息は切れども、足は進む
肺に流れ込んでくる
空気は冷めたく、
掠れたような情けない
音が漏れ出る
僕は走らなくてはいけない
己が瞳に映るのは
何処までも白い道と
赤以外点かない信号機だけだ
空は厚い雲で
覆われていて、
それでいて
色の抜けたように真っ白で
地平線が水っぽく
滲んでいる
信号機は狂ったように
ピンクノイズの走る
通りゃんせを流し続けている
それを幾つも越えて
感覚も無くなってきて
それでも景色は変わらない
もう、
何処を走っているのか
分からない
体力の限界はとっくに超えていた
目の前は霞み始めた
足が覚束無くなっても
意志に関係無く
ただ足は前へと進む
ただ足だけが
息は切れども足は進む
服は体に纏わり付いて
いっそのこと
脱ぎ捨てたい衝動に駆られる
僕は辿り着かなくてはならない
色を亡くした世界が
何もかもが
手遅れになる前に
あの場所へ
終わりが来ないように
線を引いた
消えて
失なってしまうことを
恐れていた
どうせ
「僕らは最強!」
だなんて嘘だ
思い出も約束も
風が吹けば
浚われてしまうような
不確かなもので
永遠なんて
きっとどこにも無い
だから
せめて閉じ込めておこう
誰も触れられないように
栓をしておこう
あの初夏のときめきを
黄金色に輝く風を
忘れぬうちに
誰にも見つからない場所に
胸の奥深くに
隠しておこう
一度で良いから
あの人に会いたい
しかしそれは
逆立ちをしても
無理だということ
私は知ってるわ
けれども
想ってしまう
願ってしまう
あの人のことを
あの人の躰は
柔らかいのかしら
痩せて骨張って
いるのかしら
あの人のシャツは
糊がきいて
いるのかしら
着潰してくたくたに
なっているのかしら
あの人の纏うのは
趣向品の香り
なのかしら
爽やかな石けんの香り
なのかしら
あの人の声は
明るく陽気なのかしら
妖し気に笑みを含んで
いるのかしら
あの人の手は
白魚のようでしなやか
なのかしら
肉が少なく関節が目立つ
のかしら
あの人の瞳は
強く輝いて狂気を
孕んでいるのかしら
空虚に落ち着き退屈そう
なのかしら
あの人の
心臓は鼓動を打つの?
目覚めるのは早い方?
零す言葉は真実なの?
本当に?
好む音楽は?
好む文章は?
好む天気は?
好む異性は?
私だけが
報われないと分かっていても
妄信だと分かっていても
待ってしまう
夢見てしまう
愛してしまう
……なんて滑稽だわ
叶わぬ恋に身を焦がす
女なんて今どき
寒いだけね
私にとって
とびきりの悲劇は
なんて喜劇?
私はどうせ道化師ね
嗚呼
そろそろ戻らなくちゃ
……私が
道化師ほど面白かったら?
あの人は
私に笑いかけてくれるかしら?
と、と、と、と
色のない液体が
一滴ずつ針の先から
落ちてゆく
それは永遠に
続くようにも思えたが
こうして容器はへこんで
いるのだから
少しずつ
体感では分からないほど
少しずつ
減っていって
いるのだろう
ピ、ピ、ピ、ピ
無機質な電子音が
朝も夜も関係なく
部屋中に響いている
それは永遠に
続くようにも思えたが
隣人の電子音は昨日
突然止んで
あっけなく
悲しくなるほど
あっけなく
さっきまであったはずの
生を捨てた
起きている間中
鼻につく
薬品の匂い
起きていなくても
周りを飽和する
死の匂い
味のしない
つまらない食事
変わり映えしない
白い天井と蛍光灯
偶に廊下を通る
車輪の音と
焦ったような人の声
水気でむくんで
感覚の鈍い指先
恐ろしいほど
静かな喧騒
きっと僕の生も
ここで閉じる
僕と貴方は
机を挟んで
向き会っている
僕は何も話さない
貴方も口を開かない
僕と貴方は
ずっと此処に居る
僕は貴方の声を
知らない
貴方も僕の声を
聞いたことがない
もうずっと
視線は交わっている
けれど、
どちらも
何も話さない
何も話せない
ただ静寂が
流れてゆくだけ
僕達の間にあるのは
愛?憎悪?
いいや、
どれでもない
どれもない
この空間にあるのは
僕達だけ
僕達以外
何もない
何も、いらない
仕事終わりの
ぼんやりとした頭で
近所の公園を通りかかる
夕焼けがとても綺麗だから
公園全体もほんのり
朱く照っている
その公園で
シーソーで遊んでいる
少女を見つけた
何故入ってもいないのに
少女だと分かったのか
それは、
長く長く伸びる影が
少女の形をしていたから
ぎったん ばったん
ぎったん ばったん
楽しそうに体を揺らして
その動きに合わせて
ふわふわのワンピースと
長い髪の毛が流れる
懐かしいな
私もよく、
仲の良い子といっしょに___
そこまで考えて、
ふと恐ろしいことに気づいて
公園の前を足早に
通り抜ける
シーソーの端まで影は
見えたのに
そこにいるはずの
もうひとり分の影は
見当たらなかった
嗚呼、
なんてどうでも良い!
きっと誰もが
間違って生まれてきて
意味も分からず生きて
何も知らぬまま
死んでゆく
生きて痛いから
今日も
神経磨り減らせて
笑っています
死んで終いたいけど
今日は
休日なので
とりあえず休みます
笑えるほどに
ナンセンス!
悲しいほどに
喜劇的!
飛び出る釘は
引っこ抜かれる
憎まれっ子は
百年先まで
憎まれ生きる
役無しは
舞台を飛び降りる
カーテンコールは
誰かの悲鳴
次の台詞は?
次の振り付けは?
次の台詞は?
次の振り付けは?
次の??
ぐちゃぐちゃ
あぁもう、
面倒くさい!
寝る!!
すすきの上を
何十、何百の
赤とんぼが
飛び回る
ふっと前に進んだ
かと思えば
少しその空で
静止する
枯れ枝に止まった
赤とんぼの前
人差し指で
円を描いてみる
しかし
赤とんぼは
見向きもせずに
反対の空へと
飛び去った
行き場を無くした右手を
上着のポケットに
突っ込んで
行き交う赤とんぼを
しばらく見詰めていた
ひんやりと冷たい風が
ふわりと吹いて
また風邪をひいて
しまわないようにと
家路を目指す
毎年この時期になると
思い出すのは
「生まれ変わったら
赤とんぼになりたい」
と儚く笑った
友人だった人の顔
赤とんぼは素知らぬ顔で
僕の頭上を飛び抜けてゆく
血は水よりも
濃いって?
えぇ、まぁ
当然でしょうね
血は紅い色を
していて
鉄の匂いが
しているけれど
水は無色透明で
無味無臭
私も科学には
疎いので
詳しくは
知りませんけど
色がついていて
匂いがある分
成分なんちゃらも
違うのでしょう
でも
だからといって
その言葉に
縛られることは
ありませんよ
だって
血は水より濃い
ですけれど
血は水より
よっぽど薄情
なんですから
薄暗い部屋
隅に
閉じ籠もる
耳を塞いで
何も聞こえない
ようにする
膝に目蓋を
押し付けて
何も見えない
ようにする
口を固く結んで
何も言わない
ようにする
素数を数えて
何も考えない
ようにする
何も考えない
ように
する
まだ家族が
寝室にいる
ことも
身体が水分を
欲している
ことも
もうすぐ火が
回ってくる
ことも
全部全部全部全部
全部全部全部全部
何も
考えたくないから
考えないようにする
夜の空が傾いて
少女は重力に
逆らった
放り出された
少女の躰は
支えを失い
青黒い摩天楼を
すべるように
駆け下りる
少女は地獄に
堕ちたかった
周りのひとは
言っていた
「生きていれば
天国だ」
少女に
天国という場所は
どうも
合わなかった
数式で造られた
空気は
吸い辛くて
無理矢理
詰め込まれた
理想とやらは
今でも
吐き出せていない
誰もが
頭に刃を
持っていて
いつも誰かを
刺殺している
誰もが
舌に毒を
持っていて
いつも気に入らない
誰かに浴びせている
誰もが
手に汚れを
持っていて
“悪者”を見つけては
擦り付け合っている
生きていれば天国だ
だから少女は
堕ちたかった
やがて
地面が近付いて
世界一重い
音がする
電子版の星が
瞬いている
穢れを纏った
天使たちよ
左様なら
貴方に恋して、
乞い破れて
身に余る熱を
逃がすことが
できなくて
宵の街に出て
名前も知らぬ人と
身体を重ねる
貴方を求めても
返ってくるものは
何も無くて
何度も同じ形を
なぞる
夜が明ける
貴方に酔って
余意知れて
ふと目が
覚めたとき
隣には
誰もいないのだ
一人分の体温
だけでは
この身体を
暖めることも
できなくて
もうすでに
冷たい枕を
涙で上塗りする
朝が来る
貴方を想う夜が
来る度に
私の身体が
汚れてゆく
僕の心を貫いた
あの日の
情景は
今も目の奥深くに
焼き付いて
薄れてくれない
「完璧を目指して
何になる?
君の言う“理想”は
本当に君の“理想”?」
そんなこと
言わないでよ
知ってるんだよ
完璧はどこか
不完全なこと
理想主義も
誰かに
押し付けられた
ものだってこと
「いっそ
間違えてしまえよ
迷っていること全部
振り切ってしまえよ
涙を堪えて
笑った顔なんて
私の知ってる
君の笑顔じゃない」
知ったようなこと
言わないでよ
間違え方を失った
笑顔も歪んだ
この僕に
戻る道なんて
残ってないんだよ
向上心なんて
とっくの昔に
錆びて腐ってたんだ
自分を抑えつけて
大人の言うことを
聞かなきゃ
いけなかったんだよ
もう僕に
構わないでくれよ…!
引っかき回したような
夕闇の空の色と
何故か
泣き出しそうな
君の瞳の色
全部全部
蒼が滲んで
凍りついて
僕の心に
突き刺さったままだ
全てを壊す
破壊し尽くす
今の俺を
止められるヤツは
誰もいない
始まりは
何だったか?
きっかけは
何だったか?
そんなことは
もう覚えていない
分かったとしても
今更戻れない
戻らない
一度は希望が
与えられたものの
俺はそれを
拒絶した
そうして俺は
“お仕舞い”を
失った
もうすぐこの場所も
崩れ壊れる
だろうから
明日辺りに
ここを発つ
これからも俺は
闇の中を
駆けずり回る
目に映る全てを
壊すため
俺の“お仕舞い”を
探すため
俺を止めてくれる
誰かを見つけるため
嗚呼、___
草枯らし花腐らす
その声を
ひとつでも
私の耳に入れてみよ
刹那、その首を
撥ね飛ばしてやろう
それとも
赤く焼けた鉄棒を
喉に突き刺す
のがいいか
兎に角
私はお前が大嫌いだ
嗚呼、
その貼り付いたような
薄っぺらな笑み
千枚通しで蜂の巣に
ナイフで賽子状に
ご自慢の顔を
ぐちゃぐちゃに
してやる
嗚呼、
その無駄に演技臭い
動きをする手足
金槌で関節を打ち
この手で捻り切り
動けないお前に
唾を吐いてやる
嗚呼、
お前が私の生きる世に
在ると考えるだけで
腸が煮え繰り返る
殺人衝動に駆られる
お前を
この手で
これは呪だ
この呪が
お前に届こうが
届かぬが構わぬ
きっとお前はこの呪に
侵される
憑かれる
縛られる
脅かされる
良い気味だ!
こういう詩は書かないつもりだったんですけどねぇ…
20:レミング◆yc:2019/10/02(水) 19:34 愉快な
デスペレヱト•パレヱド
壊れた
メリィゴォランドが
独り寂しく
駆けて征きます
その昔、
右倣えで
思考停止の人々を
メリィゴォランドに
喩えた方が
ありましたっけ
面白味に欠けますが
きっとそれはそれで
良かったんです
ずっと集団で
生きてきた
淡水魚が
いきなり匂いも
深さも違う大海に
放り出されて
生きてゆける訳が
ありませんからねぇ
何の話かって?
貴方々のお話ですよ
愉快な
デスペレヱト•パレヱド
汚れたマリオネットが
奇術師に手を引かれ
転げてゆきます
マリオネットは
もとは少女でした
少女はずっと
教育的な教育を
受けてきました
「育ちの悪い作者の本は
読んではいけません
頭の悪い
絡繰り遊戯など
してはいけません
算盤をしなさい
バレヱをしなさい
勉強をしなさい
大人の言うことを
聞いていなさい」
或る日
“大人”は死んで
操り糸はぷつりと
切れて仕舞いました
そこを奇術師に買われ
憐れ小道具と
なったのでした
愉快な
デスペレヱト•パレヱド
貴方も世間から
弾かれたのですね?
えぇ
私共は常に
団員を募集しています
いつでも誰でも
歓迎しますとも
貴方は…
自ら壊れたり
しないで下さいね
愉快な
デスペレヱト•パレヱド
人手不足が
唯一の悩みです……
書き忘れましたが、デスペレートとは
絶望的、自暴自棄などの意味があり、
詩としては「絶望したモノたちの行進」というイメージで書きました。
祭りの華やかなパレードとして認識しているのは
自暴自棄な団員たちでしょうか、
彼らを一番よく知っている団長でしょうか、
思わず魅入る観客なのでしょうか、
全てを傍観する読み手でしょうか。
人生はアップで見れば悲劇だが
ルーズで見れば喜劇である。
とは、よく言ったものです。
その考えも又、愉快ですね。
くるくる
かくかく
夜の小さな劇場で
貴方と私は
踊り続ける
二人っきりの
幸福のワルツ
私は貴方に
微笑むけれど
貴方は笑い返して
くれないの
だって、ねぇ
貴方のお顔に
肉は無いんだもの
此処は私の作った
幸せのナイトメア
永遠の夜のなか
貴方とワルツを
踊り続ける
くるくる
かたかた
ヒールと骨が
床を叩く音
私の腰を
抱き止める腕
ぽっかり空いた
虚ろなおめめ
あぁ、愛おしい
後悔なんて
していないわ
貴方は最期
とっても素敵に
笑っていたもの
きっと貴方も
幸せよね?
くるくる
かくかく
観客なんて
いらないわ
貴方のことを
見つめるのは
私一人で充分だもの
照明なんて
いらないわ
窓から入る月の光が
私たちを照らして
くれるもの
くるくる
かたかた
くるくる
かくかく
貴方は私の
オートマタ
私だけの
愛のお人形
私たちを繋ぐのは
真っ赤な真っ赤な
運命の糸
この夜が明けることは
永遠に無い
二人っきりの
孤独なワルツ
薬は
飲み過ぎると
毒になると
いうだろう?
だから
毒を少しだけ
飲ませれば
薬になると
思ったんだ
嗚呼、
“あれ”が
今年も届く
箱いっぱいに
詰められた
まるで
宝石のような
赤い果実
見ている分には
良いけれど
いざ
食べようとすると
たちまち
目玉に姿を変えて
仕舞うので
自然に
腐るのを
待つしかない
送り主が
分からないから
返品もできない
今年も
“あれ”が届く
あんまり視線が
熱いから
僕の瞳はとろりと
溶けてしまった
仕方がないので
義眼屋に行く
ことにした
主人はまず
手前に置いた
ケースを指した
「これは今一番人気の
商品で御座います
冬の渚のような
透き通った銀色で
嘘の吐くのが
上手くなります」
「それはどういった
種族の目玉ですか」
「これは人狼の目玉です」
次に右側の
ケースを指した
「これは如何でしょう
真夏の
空の天井のような
深い青色で
博識を得ることが
できます」
「それはどういった…」
「これは精霊の目玉です」
次に頭上の
鳥籠の中のケースを
指した
「これなんて上物ですよ
朝日の輝きを
閉じ込めたような
煌びやかな金色で
本当の善と悪が
分かるように
なります」
「それは…」
「これは
天使の目玉です」
ふと
カウンターの隅に
隠れている
ケースを指してみた
「そこの黒いのは
どうなんですか」
「あぁそれは…
やめておいた方が
良いでしょう
損得でしか
物事を
見られなくなる
人間の目玉ですから」
出した覚えのない
風鈴が
鳴っている
気になって
音の出処を
探ってみると
庭先に埋めた
髑髏が
笑っている
だけだった
ストックが無くなってきたので、
ここからは短編が多くなると思います
誰も頼んでいないし
誰も運んでいないのに
誰にも
気付かれないまま
もう何年も
店の隅の席にある
ブルーベリーソーダ
3-Aの教室の壁に
悪質な悪戯が
あったらしい
野次馬に混ざって
見てみると
何やら
小さな紙切れが
壁いっぱいに
貼り付けてある
近付いてよく見ると
それは
先日自殺した生徒の
名前が書いてある
クレヨンのラベルだった
台風が
来るというので
コロッケを
揚げている
もうすでに
窓を大粒の雨が
叩いており
時々
雷が落ちる音が
聞こえる
そして
つい先程
気付いたのだが
鍋の油が
ぱちんと
弾けるたびに
がっしゃあんと
雷が落ちている
このままだと
油の温度が
上がり過ぎて
しまうので
早く決めなくては
いけない
鍋にコロッケを
入れるか
否か
恋人に殺される
夢を見た
妙に生々しく
現実味が
あったので
念のため
包丁を持って
会いに
行くことにした
両手で包丁を持ち
玄関のドアを
開けるとそこには
同じく包丁を
握りしめ
驚愕の表情を
浮かべる
恋人がいた
寝る前に必ず
飲んでいる
錠剤が
或るときから
一日二錠ずつ
増えていることに
気が付いた
貴族が一人
或る絵画の前に
立ちました
貴族は
「素晴らしい画だ」
と呟き去りました
学者が一人
同じ絵画の前に
立ちました
学者は
「なんて奇妙な画だ」
と呟き去りました
画家が一人
同じ絵画の前に
立ちました
画家は
「これは大変価値のある画だ」
と言い去りました
僕も
同じ絵画の前に
立ちました
それは真っ白なままの
ただの四角い
キャンパスでした
やあ 頑張っているね
其の調子だよ。
短編だろうが、長編だろうが
思い付いたなら
どんどん書いていけば良いさ
これだ!と閃いたのなら
文でも単語でもメモはした方が良い
でないと忘れて仕舞って
二度と思い出せない…
なんて事もあるからね。
因みに私は何時も自作の詩を綴った
ノートを持ち歩いているよ。
アイデアが『何時』『何処に』
落ちているかが判らないからね。
P.S
大丈夫、貴方は出来ている。
長文、済まなかったね。
貴方はいつも、私が一番欲しい言葉をかけてくれますね。
長文だからこそ伝わることもありますよ。
特にアビスさんの文章は、言い知れぬ重みがありますから。
手帳は常に持ち歩いています。
職場にいるときや遠乗りの際は勿論のこと、
寝床についてから目覚めの瞬間までも、
言葉は気まぐれに湧いてきますからね。
作風はまだ安定しませんが、
脳内に湧く言葉たちが尽きるまでは、書き続けようと思います。
もう十年も
抱いて眠っている
テディベア
三歳の誕生日に
お父さんに
買ってもらった
可愛い子
そのテディベアは今
「私の躰を返して!」
と私の腕の中で
叫び続けている
土を払って次の場所へ
掲げた羅針盤に
針は無い
けれども
確かな足取りで
昏い闇の中を
進んでゆく
どこへ行くべきかは
僕の細胞がちゃんと
覚えているから
ひび割れの隙間を
埋めるため
奪われたものを
取り戻すため
この先僕を
待っているのは
希望か
絶望か
今はまだ分からないけれど
希望であれば良いと願う
この世に
運命なんてものが
あるとするなら
僕がこうして抗うことも
決められていたのだろうか
今更引き返すなんて
できないんだよな
問いかけてみても
羅針盤から返事は
返ってこない
煌々と輝く月を
独り眺めては
ため息を溢す
嗚呼、浮世の月は
こんなにも
明るい
これでは
降り注ぐ星たちが
見えないわ___
切った豆腐のように
ずらりと並ぶ
白い建物
大きな大きな
その空間はいっそ
精緻な
ジオラマにも思える
買い物から帰り
子供の手を引きながら
何処までも続く
窓と窓の間を
歩いていた
レースのカーテンが
引いてある窓
アイドルのポスターが
張ってある窓
黒い遮光カーテンで
念入りに目隠しした窓
我が家の窓には
妻がドラマでも
見ているのか
泣き笑いの女優の顔が
大きく反射していた
鍵を開け家の中に入ると
妻から
アンテナの調子が悪く
テレビが
点かくなってしまった
旨を知らされた
カーテンは
ぴっちりと
閉まっていた
私たちが何と言っても
無駄ですよ
あの子は…
いえ
あの子“たち”は
見えないものしか
信じませんので
恋人と別れた日
悲哀と憎悪の色が
部屋を
染め上げていた
君が笑っている
写真全ての
両目に画鋲が
刺さっている
無人の
部屋の中は
鉄錆の匂いで
一杯だった
今日の日は
楽しい嬉しい
アングロ・サクソンの
聖なる日!
チョコレート
キャンディ
タルトにクッキー
色んなお菓子を
用意していて?
僕が気に入りそうな
カラフルなお菓子を!
煉瓦の壁から覘いてる
君は何処のどなたかな?
いけないなァ
君みたいな子は
近くのお家に
“お知らせ”して回るものだよ
あぁ
お菓子が欲しいのかい
それなら
僕のとっておき
カボチャのパイを
ひと切れあげよう
受け取ったなら
早くお行き
半透明の子
さぁて僕は
次のお家に行かなくちゃ
それではさよなら
Happy Halloween!
水たまりを踏んだ
まだ灰色の残る
空が砕けた
ひんやり湿った空気は
いつも通り
少しだけ甘い匂いがした
大きな大きな水たまり
その中心に立つ僕は
空の全て
青で満たしたくなった
分厚い雲を見ると
心がざわつくのは何故?
虹が架からないと
酷く焦燥するのは何故?
骨の折れた傘を見ると
頭が痛むのは何故?
屋根から落ちる
青い蒼い雫が
僕の指先に止まった
それは全部
晴れない空が憎いだけ
《アウトサイダー》
何度寝て起きようと
彩度の低い世界
これから色が付くことも
きっとないだろうから
ゴミに囲まれて
ゴミのように生きている
ひとの環から外れて
もう二度と
入れないでいた
ひとの生き方なんて
見当も付かないから
澱んだ空気を
吸っては吐くのを
繰り返していた
こんなおぞましい
劣等感も疎外感も
僕が“部外者”だからだ
意味も無く
視線を床に這わせれば
堆く積み重なったゴミ袋が
目に入った
そしてその横で
いつのものか分からない
飲みかけの炭酸飲料が
倒れている
部屋の隅で
存在を忘れられ
炭酸が抜けている
それと僕はよく似ていた
蓋が弾け
腐った中身が吹き出す日は
そう遠くないのかも知れない
ゴミだらけの部屋で
薄く嗤った
君は気付いて
いるのだろうか
黒は
どんな色をも濁すが
その黒を
濁すことのできる
唯一の色は
どんな色にも
染まってしまえる
白色だということ
悲しいだとか
辛いだとか
そんなもの
感じることも
無くなっていた
口に出すなんて
考えても
みなかった
ずっとずっと昔から
心の奥底に
隠れていたようで
あることにも
気付かぬ儘
存在さえも
忘れていった
決壊した感情に
流され潰され動かされ
私はもう
私が分からなくなった
否
私じゃあ
なかったのかもしれない
ふと本から
顔を上げると
てるてる坊主が
断頭台を
組み立てていた
沈殿した過去と
虚しさの上澄み
煙る怠惰
欠落した自我
表裏一体
希と絶望
その人は
幼児のように
無邪気で
兵士のように
冷徹で
賢者のように
博識で
黒幕のように
暗躍家で
帽子屋のように
狂気的で
囚人のように
罪深くて
天使のように
潔白で
神様のように
完璧な人
呪に交わって
赤になれ
愛より出でて
青ざめよ
私が黒だと?
……白々しい
「もし一日私を好きに
できるとしたら、
貴方はどうする?」
……どうしたの、急に。
それは今と
何が違うのさ?
でも、そうだね
君を一日も好きにできるなら……
どろどろに
ぐちゃぐちゃに
甘やかしてあげるよ。
俺がどれだけ君を
大切に思っているのか
分かってもらえるまで
君の
手足をきつく縛って
唇に熱く触れて
脳を優しく犯して
肌に柔く爪を立てて
心に赤い
傷跡をつけて。
そんな試すような
質問なんて
できなくなるように。
期待してるの?
可愛いね。
……そんなに
物欲しげな顔されたら
無視できないよ。
して欲しい?
なら
今から実行してあげようか。
愛を歌うだけ
なんて
つまらない
どうせなら
憎しみも
嫉妬も
殺意も
混ぜて
恋の歌にして
しまいましょう
愛憎折々
悲喜交々
道端の石ころより
珍しくも何ともない
ありふれた
使い古しの
ラブソングに
僕には死んだときの
記憶がある
何故か
分からないけれど
奇妙に鮮烈に
生々しいほどに
覚えているのだ
地面に
吸い込まれてゆく
体温と
不規則に
痙攣する指先
体中の血液が抜けて
骨に張り付く肌
見開いたまま
ひんやりと
かさついてゆく瞳
暑いのも寒いのも
分からなくなる
嗚呼、僕は
死んだのだなという
まるで他人事のような実感
たまに
生きているのか
死んでいるのか
忘れてしまいそうなほど
はっきりと思い出す
もしや僕は
死人だったのか?
時計の針が
ぐるぐる回る
寝ても悪夢
起きても悪夢
終わらない
夢から覚める
呼びかける
声が聞こえる
探しても
探しても
見つからない
嗤い歌う声
明かりのない部屋
隠している
夢から覚める
障子が開いている
だれかが覘いている
翳った視界に
目が見える
星がよく見える
月が隠れていた
夢から覚める
終わらないことに
気が付いていた
飽くまで続く
ずっと続く
逃げたい
逃げたい
助けて
池を覘く
捕まる
夢から覚める
泣いている
だれかが
後ろで
後ろで
だれかが
嗤っている
笑っていた
夢から覚める
【1】
僕は
貴方のためなら
何でもするよ
貴方が笑って
いられるように
殴って
奪って
呪って
邪魔なやつ?
殺しちゃおうか
僕は
貴方になら
何をされてもいいよ
貴方の傍に
いられるように
殴られても
奪われても
呪われても
邪魔になったら
殺してもいいよ
僕の全ては
どうなったっていい
どんなに
辛くても
苦しくても
痛くても
耐えられる
僕には貴方しか
いないから
貴方が幸せでいて
くれるなら
それでいい
そのために
僕は
それなのに
ねぇ
どうして
そんなに悲そうな
顔をするの?
どうして
泣きながら
僕を抱きしめるの?
分かんないよ
嫌だよ
貴方のそんな顔
見たくない
辛いのも
苦しいのも
痛いのも
僕だけで良いよ
お願いだから
もう泣かないでよ
どうしたら
泣き止んでくれる?
どうしたら
また笑ってくれる?
どうすれば
貴方がそんなに
悲しいならば
僕は今まで
貴方のために
何をしてきたの?
……分かんないよ
空に光る
キャンディチップ
赤色ちかちか
青色ぴかぴか
白色しゃらしゃら
金色きらきら
空のスイーツ
キャンディチップ
甘いの
酸っぱいの
塩っぱいの
苦いの
星降る空の
キャンディチップ
笑顔が咲けば
涙が零れれば
吐息を漏らせば
言の葉紡げば
いつか見た夢
キャンディチップ
時計の音が聞こえる
ticktack
ticktack
秒針は折った
長針も折った
それなのに
ずっと続く音
終わらない音
ticktack
ticktack
時の流れは
滞らない
止まらない
いつまで続く?
いつまでも続く
誰かが時間なんてものを
創ってしまった
ときからずっと
ticktack
ticktack
どこまで行っても
着いてくる
いつまで経っても
終わらない
時は止まらない
ticktack
ticktack
おっと……
済みません、名前を入れるのを忘れてしまいました。
>>59 は私です。
夜の幻想に
沈み込む
今日の夢は
幸福だった
白砂糖の
レイピアと
塩キャラメルの
鎖帷子
ぱっと咲いた
血飛沫は
甘いミルクの
香り付き
昨日の夢は
愉快だった
金剛石の一角獣
遊んでいたら
瞳が欠けた
仕方ないので
黒曜石を
双眸にした
黒い瞳の一角獣
一昨日の夢は
追懐的
脚を怪我した針鼠
哀れに思った
月の娘は
傷口をよく洗い
月の軟膏を
塗ってやった
泡沫の楽園から
目を覚ます
どうか
ここにいて
明日の在処
誰も教えて
くれないから
何も知らない
誰も理解って
くれないから
何も言えない
ずっと何も
聞こえない
きっといつか
声も忘れて
しまうのだ
だから僕の心は
こんなにも静かで
もうすぐ鼓動さえ
鳴り止むのだろう
化け物に逢った
其奴は俺より
頭三つ分も大きくて
赤黒くぬらぬら濡れていた
化け物は俺を見て言った
「旨そうな人の子だ
頭からばりばり
喰らってやろう」
俺が
「何故喰らう?」
と問うと
「喰らわねば生きて行けぬ故
御前達人間も鳥や牛を
殺して喰らうだろう」
と答えた
確かにそうだ
俺も今朝方
魚を焼いて食べたのだった
しかし
俺はまだ死にたくない
そこで俺は
「お前が俺たちと同じように
殺し喰らうのだとしたら
俺たちと同じ礼儀に倣らわねば
ならないだろう」
と言った
化け物は
「礼儀とは何だ」
と問うので
俺は
「手を合わせ頭を下げて
頂きますと言うのだ」
と教えてやった
すると化け物は
手を合わせ頭を下げて
頂きますと言おうとし……
その前に俺が其奴の首を斬った
化け物は動かなくなった
俺はその死骸を喰らうことも無く
蹴って谷から突き落とした
化け物は知らなかったのだ
人間が生きものを殺めるのは
腹を満たすときのみではないと
ギロギロと
血走る大きな目
ずっと昔に見ていた
景色を写し続けている
もう夜は
やって来ない
貴方は生きられない
今年も君は
来てくれなかった
嫌だな
もう一年待ち惚けだなんて
去年一昨年
よりもずっと前から
待っていたのに
やっと会えると思ったのに
「ここまでくるのも
ただじゃないんだよ」
本心を誤魔化して独り呟く
幾つもの“再会”が
通り過ぎる中
独りぼっちで
待っていてあげる
君の好きな薄荷味の
ドロップスを舐めながら
貴方はいつでもそうだ
自分だけが
好きしていられれば
自分だけが
楽しければ
そんなのは
周りを誤魔化す為の
嘘で
自分だけが
報われなければ
自分だけが
絶対悪であれば
またそんなことを
考えているんでしょう
貴方は悪役になんて
向いてない
でも
それを分かった上で
貴方は偽悪を演じている
どうして?
後味の良い終わり方が
必ずしも正解だとは
限らない
虚しさの中死ぬ運命
だとしても
大切な人の死に嘆き
絶望するとしても
どれだけ多くのものを
失ったとしても
作者が手を止めれば
それが“お終い”なのに
いえ
だからこそ
貴方は自己犠牲を
選ぶのでしょうね
どうか
誰よりも優しくて
誰よりも不器用で
誰よりも誠実な貴方が
いつかどこかで
救われますように
かつて此処にあったもの
かつて此処に集ったもの
かつて此処に記したもの
過ぎ去った日々は
もう戻らない
貴方はそれに何を求める?
彷徨ったあとの路か?
共に歩んだ仲間か?
いつも歌った詩か?
はたまた
それら全ての記憶か
時が経って
形を亡くしていたものたちは
貴方の中に残っているか?
かつて此処にあった野原は
貴方が通る路となった
かつて此処に集った独りたちは
仲間を見つけ集団となった
かつて此処に置いた白紙には
文字を記して詩にした
過ぎ去った日々は
もう戻らない
一度紡がれた物語は
空白には戻らない
貴方は確かに此処に居たのだ
僕はまだ大丈夫だって
ペンを取って
机に向き合って
きっとそれから
動けはしない
一文字だって
書けやしない
フラッシュバック
ペンを折る音
肺が重くて息ができない
手が固まって動かせない
フラッシュバック
冷えた指先
もう何もできない
「恋の火傷に気をつけな、Baby?」
そう言って、いつも貴方は
ウィンクをするの
なんて格好良いの
私の王子様!
キザだとか
寒いだとか
そんなことを言う人も
いるけれど
気にしなくても良いの
だって貴方は世界一
格好良いんですもの!
えぇもちろん、
格好付けだっていうのは
分かっているわ
だって貴方はとても純粋な人
でも嘘を吐くのが上手いから
いつも自分を隠してしまうの
貴方の本当の心が理解るのは
貴方だけ
そんなミステリアスな
ところも素敵!
ただでさえ格好良い貴方が
格好付けたら、
どうなると思う?
それはつまり
すごくすごく
格好良いってこと!
あ
71:レミング◆yc:2019/12/14(土) 16:21 >>70
キリ番、取られてしまいましたか。
一文字だけの詩ですか、新しくて良いですね。
「あ」というのは在であり空であり、Aでもありますね。実は「あ」はこの世の全ての始まりを表す一文字なのかもしれません。たった一文字は無限の可能性を秘めた詩でもありそうですね。
曇り空に浮かぶは
電球のような月
白く透明で
直ぐにでも消えて
しまいそうなほど薄い
水面に映れば
揺らいで散った
朝の月は憂鬱だ
真っ赤っかな
足元の花火
飛んでひゅうひゅう
散ってぱらぱら
腐肉みたいな腕
皮肉な取り柄
掴んでぎゅうぎゅう
押してびゅるびゅる
ちっちゃなおくすり
喉から指先
水をぐるぐる
頭でじゅわじゅわ
うふふ、ふふふ
まことにざんねんですが あなたのじんせいは しっぱいしました
75:レミング◆yc:2019/12/22(日) 20:03 愛だけで
世界が満たされれば
良いのにね
みんな幸せに
なっちゃえば
良いのにね
これから先ずっと
誰も死ななければ
良いのにね
全人類が
私だったら
良いのにね
素敵な詩だね。
ぼくも書いてみていいかな?
>>76
どうぞお好きに書いていってください。
私が立てたスレッドですが、私一人では埋まらない気がしてきたところです。
ふわふわした言葉の羅列は思い浮かぶのですが、どうにも詩の形にならなくて…。
それとお名前、とても可愛らしいですね。
嫌なことが
ありました
育てていた花が全て
枯れてしまいました
嫌なことが
ありました
好きな人には
好きな人が
いるそうです
嫌なことが
ありました
欲しい本が
売り切れていました
嫌なことが
ありました
友達が減って
しまいました
嫌なことが
ありました
嫌いな人が
幸せそうでした
嫌なことが
ありました
傘を盗られて
しまいました
嫌なことが
ありました
好きだった人の
好きな人は
私の嫌いな人でした
良いことが
ありました
好きだった人は
恋人を亡くしました
瓦礫に轢かれる
白花は
風と雨を
憎んでいた
血溜まりを踏みながら
虚しいなって笑った
小さな虫がそれに止まって
赤に溺れて沈んでいく
一匹の生物の死が
新たな死を生んだ
ありふれたものだった
ただ、
今ぼくが作ったものだった
ぼくにはそれが
とてもくだらないように思えて
虫の脚が見えなくなれば
血溜まりの主への興味も失せた
思い出せることなんて
ほとんどないけれど
そのどれもが灰色で
貴方への気持ちも
そんなもんだったよ
さようなら、最愛だった人
うーん?やっぱりぼくが書くと文章っぽくなってしまうな。
あなたの詩も文章に近くて、なんだか親近感を覚えてしまったんだ。
物語を読んでいるようでとても引き込まれる、素敵な詩だと思ったよ。
それと名前…可愛いかな?ありがとう。
>>81
お返事が遅くなってしまってすみません。
無機質で虚ろ、そこに仄暗い美しさが宿った、まさに“厭世”な詩ですね。
文章的になってしまうことで悩んでいるのは私だけでは無いのですね。少し安心しました。
どんな形であっても、誰かが心を込めて描いたものなら、詩足り得るのではないでしょうか。
上から目線になってしまいましたが、貴方は貴方の書きたいものを書いてください。
それでは、良いお年を。
馬鹿みたいだ
勝手に作った
年なんて区切りを
大事に守って
丁度ぴったりに
何かをするのが
当然だと思ってる
国とかいう区切りで
微妙にずれているのに
時計がなければ
意味もないのに
それでも“年”によって
全てが動いているのを
誰も疑問に思わない
なんて馬鹿馬鹿しい
まぁ
それはそうとして
新年おめでとう
【初夢】
鍵穴に指を差し込めば
絡繰人形が踊り出す
糸車が廻り
緞帳も降り始める
舌切り歌姫が絶叫
熱狂
暗転
闇に揺らめく
白い焔に
吹きかける息
マッチ箱を置く
汽笛が鳴れば
鴎が墜ちる
愛逢い遭い哀
毒蛾の群れが
疎ましい
疾患
爛れた翅は戻らない
体の芯から
冷えてしまいそうな朝
アイスキャンディをかじる
少女に見つめられている
私の吐く息は
こんなにも白いのに
彼女の口元からは
水色の雫が滴っていた
「暑いね」
妙に感情の篭っていない声で
少女が言った
そんなわけがない
雪も降らない
空が伽藍堂なこんな朝は
底冷えするほど寒い
少女は何も言わずに
ただ私を見て
外れ棒を咥えて
笑っていた
どこか遠いところで
僕を呼ぶ声が聞こえる
それはあまりにか細くて
蝶が羽ばたくみたいな
軽く美しい声だった
振り向こうにも
どこから聞こえるか
分からない
呼び返そうにも
僕はその声が誰のものか
分からない
お願い
もっと近付いて
君の名前を教えて
どうか
呼ぶのを辞めないで
そのまま声を聞かせていて
僕が君に呼びかけるまで
僕が君のもとに辿り着くまで
僕が君を思い出すまで
「杏の甘い匂いがする」
ふと立ち止まって
君が言った
ジャムにしたら
美味しいでしょうね
辺りを見回し笑む君は
この間僕が言った言葉を
覚えているだろうか
いや
覚えていない方が良いな
君を無駄に
怖がらせたくない
君はいつ気付くだろうか
こんな時期に
杏は実らないことに
こんな場所で
鼻がきくはずもないことに
君が“それ”を
見つけてしまわぬように
落ち葉を蹴って“それ”を隠した
【人の屍体は杏の匂いがする】
溢れる涙で文でも書いたら
少しは気分も
晴れるだろうか
苦しくて
虚しくて
みっともない
このどうしようもない
気持ちのまま
誰にも気付かれず
消えていけたら
ぼくじゃないぼくを
消すことができたら
愉快でも呑気でもない
こんなぼくを
誰かが
許してくれるだろうか
希望も期待も未来でさえも
今のぼくには残っていない
全てを突き放してきたぼくは
誰に縋れば良いんだろう
ぼくを愛せないぼくに
救いはあるだろうか
屈折した感情の上澄みだけが
ぼくの最後の砦なんだ
薄いレースのカーテンを引けば
この町が無数の目に
監視されていると気がつくはずだ
黒くなっていく
罪を犯した僕の手が
指先から
暗くなっていく
何度も死顔を見た僕の目が
端から
白くなっていく
無垢だったときの僕の記憶が
古いものから
知らなくなっていく
昔の僕が
消しているから
ちょっと怒ってみようかな
どうすれば良かったんだよ
ってさ
真っ黒で小さな塊になった僕は
何もできなくなった
分からなくなった
僕じゃなくなった
どろどろどろと泥
泥水啜って
生きてきたけど
結局報われは
しなかったな
どろどろどろと泥
手足を取られて
動けやしない
このままずっと
沈んでくだけ
どろどろどろと泥
重くて冷たい
悪意が蝕む
もがくのももう
やめてしまおう
どろどろどろと泥
諦めた
どうせ最初から
助かる見込みなんて
なかったんだよ
風にさらされ雨に打たれて
白骨はふわふわ
夢を見ています
ここから見えるのはもう
青緑色の葉っぱだけに
なってしまった
人の声は遥か遠く
僕の耳には届きゃしない
あとどれだけ
僕は僕でいられるのだろう
乾いて腐って風化して
中身はもう
スッカラカンになった
潤んだ朝の水滴が
僕の顔を
涙のように伝うんだ
生身であれば
知ることのなかった感触だ
ずっとこの景色を
見ていたいな
ずっとこの感覚を
味わっていたいな
願わくば魂が擦り減るまで
どうか清らかな体のままで
願わくば飽きるまで
どうか白骨のままで
手元から逃げた包丁が
硝子テーブルの上に落ちる
その刃には
小さな肉片と鮮血が
べっとりと付いていた
取り返しのつかないことを
してしまった
私は罪人だ
きっともう手遅れだ
これじゃあ地獄行きは
免れないじゃないか
死体はどうしようか
どうにもならないか
掃除はどうしようか
どうにもならないか
喉元から赤を
まるで他人事のように眺めながら
そんなことを考えていた
>>93
誤字。喉元から(吹き出す)赤を です
>>94
誤字じゃない脱字です。
こんなところまで間違えるとは情け無い…。
あの人は私のことを
見てはくれない
たとえ
天地がひっくり返っても
蛙が喋るようになったとしても
私が死んでも
あの人が死んでも
どうしたって
あの人の視界には入れない
どうしたって
あの人の心には入れない
それならば
いっそ
あの人の目の前で
死んでみてはどうだろうか?
言葉にしてみて寒気がした
我ながら
なんて恐ろしく
魅力的な考えだろう
蕗の薹が咲いている
薄緑色の葉と花は
かわいい小さな
ドレスに見える
ほんのり苦い春の味
これを着るのは
どんな娘だろう
雪はまだ残っていて
白いかけらが
固まっている
もうすぐ冬が溶ける
>>97
【ふきのはなさく】
あの時の痕が消えないんだ
こんなに赤黒く見せつけて
風が撫ぜるだけで酷く痛む
今すぐにでも忘れたいのに
一瞬後には忘れていたいのに
触れるたびに思い出す
痛むたびに思い出す
苦しそうなあの人の顔を
きっとこの痕は一生残る
忘れられない記憶と共に
忘れてしまいたい私と共に
…もう幾十も無い。
本当に、もう終わってしまうのですね。
もっと貴方の詩に沈んでいたかった。
素晴らしい詩の集まりでした。
でも、この終わりはきっと、通過点に過ぎないのでしょうね。
私はいつまでも待っております。
又、会うときまで。
【見ている】
私は貴方を見てる
貴方の目を見つめてる
貴方の一挙一動が
愛おしくて
貴方の仕草を
一つとして
見逃さないように
ずっと見てる
【見られている】
僕は君に見られている
どこかをじっと見られている
君を見つめ返そうと思っても
君の目を見ようとしても
僕が視線を向けると
君は外方を向いて
しまうじゃないか
そろそろ見ても良いかい?
【さわみずこおりつめる】
雪が降っていた
雪が降って
そのうち雨になって
霙になった
まるで
シロップに溶けかけの
かき氷みたいに半透明
掴んで潰してみると
しゃらしゅらしゃらと
冷たいきれいな音が鳴る
沢にも分厚く氷が張って
稲光りが走ったみたいな
白い筋が四方八方伸びていた
ばきりと踏んで
破ってやろうか…
靴に水が入るから
辞めておこうか…
貴方はそれに
気づいてしまった
貴方はそれを
見てしまった
貴方はそれから
逃げてしまった
貴方はそれに
気づかれてしまった
貴方はそれに
見られてしまった
貴方はそれから
逃げられなくなってしまった
君は本当はどこにいるの
本当にいるの
ときどき分からなくなるんだ
目の前にいる君は
実は僕の作った夢幻で
本当はいないような気がして
口元に手をやったら
呼吸していないかもしれない
心臓に耳を当てたら
鼓動していないかもしれない
君に触れたらその手は
すり抜けてしまうかもしれない
この夜が明けたら
君はもう
どこにもいないかもしれない
それが
怖くてたまらない
キスをしよう
君が呼吸しているのを
確かめるため
抱き締め合おう
君の心臓が動いているのを
確かめるため
触れ合っていよう
君が存在するのを
確かめるため
夜も起きていよう
君が隣にいるのを
確かめるため
ずっとこのまま
醒めない夢に浸ったまま
永遠に君を生かすように
永遠に僕をころすように
【にわとりはじめてとやにつく】
鶏が卵を生む
ごろりと転がるそれは
まん丸では無い
子供の時分に
聞いたことがある
何故鶏の卵は
まん丸では無いのかと
間違って転がっても
お母さんのところに
戻れるようによ
と
母親は言った
いつまで転がり続けても
親から離れられることは
無いのだと
冗談では無い
私はどうしたって
逃れられないのか
卵を生み続けるか
肉になるか
私は母親と同じ運命を
辿るのか
次は私が母親になるのか
昔は憧れた白い羽毛が
今は憎くて仕方がない
【はるかぜこおりをとく】
東から吹くぬるい風が
頬を撫ぜる
少しずつ氷がとけ
大地を覆う白が
極彩色に染まるのだろう
積もるばかりの雪は
さらさらと
樹木華に吸われるのだろう
ああ
春が始まる
愛されたいと思っていたら
こんなことには
なっていないよ
僕は別に
愛されなくて良かった
嫌われる方が本望さ
あの子は頑固で
嫌いな奴がいない限り
意見を曲げようとも
しないじゃないか
じゃあ
本当はどうしたかったのか
って?
あの子に何かを
愛してやって
欲しかっただけさ
百を超える詩を書けましたね
おめでとう。
本当はもう少し早く御祝いを
したかったのですが、
遅くなって仕舞いました。
深河春淵と云う名は前々から
決めていた名なのです
とある文豪の旧居に置いてある
感想ノートにもそう書き残して
きましたもので
【うぐいすなく】
けきょけきょ
けきょけきょ
嗚呼
まだ上手く鳴けない
ほーっと伸ばして
けきょと続ける
たったそれだけのことなのに
何故か酷く難しい
今年はぼくが一番手
だから
一等張り切っているんだ
けきょけきょ
ほきょ
ほきょけきょ
あと少し
もうちょっと
ほーっほけきょ
あ、鳴けた
【うおこおりをいずる】
暗く冷たい薄氷を
抜け出したいと
一匹の魚が泳いでゆく
背びれを
ザラザラ削りながら
穴だらけの水面付近を
一心不乱に進んでいく
あと少しで
暖かい空に顔を出せる
あの白色に明るいところが
自分の目指していた空だ
そう心を躍らせて
疾く疾くひれを動かす
魚は知らない
薄い薄い氷のふちは
もっともっと鋭利である
ということ
すぱっと切れておろされて
あとには魚の半身だけが
氷の上で冷えていた
【つちのしょううるおいおこる】
しとしとと
さめざめと
雨は乙女の涙ように
ただただ土に落ちてゆく
土砂降ることなく
途切れることなく
大地を目がける
哀しき雫は土に落ちる
土が湿って黒くなる
土はそのうち虫の子を
育てる柔らかな寝床となる
水が空へ還っても
乙女はまだ泣き続ける
空の乙女は救われない
健気に優しく泣き続ける
隠している
潜めている
誰にも
見つけられたくないと
騙している
欺いている
誰にも
知られたくないと
笑っている
黙っている
誰にも
気付かれたくないと
分かっている
分かっていた
誰にも
信用されていないと
深夜の憂鬱
寝惚け眼で蛇口を捻る
グラスがやけに冷たくて
水分に浮腫んだ指先が
冷えて白くなっていく
切れかけの蛍光灯が
無機質に見下ろしていた
深夜の頭痛
眠気も何処かに
消えていた
年季の入ったソファに
投げ出す四肢
冷気が手足に絡み付く
ブランケットを
引き寄せて
テレビをつける
カラーバーと
劈く機械音
補色が混じり合い
目を逸らしつつ消した
深夜の現
珍しいことなど
何にも無い……
【かすみはじめてたなびく】
嗚呼ほらお前さん
見てごらんなさい
あの蒼黒い山は
美しい霞が纏わりついて
輪郭がぼやけて
見えるでしょう
私はあの中に
幽霊がいる気がして
ならないのです
ええ
笑うでしょう
きっと貴方も笑うでしょう
けれど考えてみてください
霞というのは近くに行くと
目には見えなくなるのです
極々小さな水滴と塵が
空中に漂っている
だけなのです
目の前にあるのに見えない
けれど確かにそこにある
そんなのまるきり
幽霊じゃあないですか
遠くから見らば白い雲
近くで見らば目に映らぬ
そんな霞の幻想の中
幽霊がいないと
どうして言えましょう
どんな物事にも
いつかは終わりというのがくる
幾度となく聞いた言葉
幾度となく唱えた言葉
それでも
いざ目の前に叩きつけられると
嫌でも思い知ることになる
心のどこかで
永遠を信じていた
心のどこかで
無限を夢見ていた
忘れられないのだ
人が
居場所が
思い出が
きっといつまでも
私の心を揺さぶるから
次はどうするべきか
終わったあとは何が残るのか
今はまだ考えたくない
もう少しだけ
呆然と感傷に浸ったままで
【そうもくめばえいずる】
未だ冷たく
固い地面から
黄緑色の芽が
顔を出した
とても小さく
名前すらわからない
雑草だった
けれどもこれは
冬を耐えた
長く凍える時を
過ごしたのだ
春に萌ゆ緑色たちは
ただそれだけで
価値がある
厳しい冬を
乗り越えたのは
それは
誇るべき偉業なのだ
【すごもりむしとをひらく】
ぼりぼり
長く伸びた爪で
頬を引っ掻く
爪を指との間に
皮膚片や頭垢が
詰まっている
ずっと前から
決めていた日が
来てしまった
黴の匂いのする
毛布を蹴り上げ
陽に照らされ昇る埃を
ぼんやりと見ている
薄暗いこの角部屋に
最初に入ったのは
いつだったか
最後に出たのは
いつだったか
昼間でも暗いこの部屋で
汚い毛布に包まっている
自分はまるで
来ない春を待つ芋虫だ
そんな醜い芋虫の蛹に
もう何度目の春が
巡ってきてしまった
いい加減
目覚めなくてはいけない
これ以上
惰眠を貪る
気にもならない
ふらつく足を
引き摺りながら
寝床から這い出る芋虫
異臭のするゴミ袋を
掻き分けて
ネジの外れた
ドアノブを握ってみる
少し回すと
がたがた鳴って
胃を握り潰されるような
緊張が走った
一度出たら
もう蛹には戻れない
暗く惨めな蛹には
戻れない
この先鳥に
食い殺されるとしても
この先太陽に
焼き尽くされるとしても
それでも
錆び付いて
耳障りな音と共に
蛹の殻は破られた
【ももはじめてさく】
どこからか
咲きたての花の
甘い香りが漂ってくる
なんだか
良い香りがするね
そう言って貴方は
くるりとこちらを
振り返った
貴方は今日も
こんな私の
側にいてくれる
私と貴方では
住む世界も
見る景色も
違うというのに
私にとって貴方は
寂しく冷たい日陰に射す
柔らかく暖かい光
けれどその光は
周囲の闇を
深くするだけだった
今ではもう
あの日陰が
怖くてたまらない
どこにいても
何をしていても
貴方の光を求めてしまう
私は貴方無しでは
生きていけないの
もうすっかり春だねえ
そう言って
花が綻ぶように
咲う貴方は
間違いなく
この世で一番
輝いていた
愛おしくて
眩しくて
私は少しだけ目を細めた
【なむしちょうとなる】
制服という名の
蛹を破り
青い春の終わりが来る
初めて足を
踏み入れたときと
なんら変わりなく
桜の花びらが
ひらひらと舞う
菜っ葉に穴を開ける
芋虫ではなく
花を愛でる
蝶になるのだ
自由縛るリボンを解き
青空に髪を靡かせた
無限にジョーカーが増え続けるトランプで
終わらないババ抜きをしている
【すずめはじめてすくう】
枝を集めて
葉で縫って
大きく立派な
お家を作るの
まだ顔も見ぬ
かわいいベビーのために
ベッドはふかふかに
しておくわ
あの人は未だ
帰って来ないのね
きっと遠くまで
丈夫な枝を取りに
行っているんだわ
なんだか騒がしいわね
ここは他の家族も
たくさんいるみたい
ご近所付き合いも
大切だものね
あとで挨拶
してきましょう
木を集めて
葉で縫って
きっと素敵な
お家にするの
この世界は全部、僕の見ている夢だったりして。
125:レミング◆yc:2020/03/27(金) 04:55 【かみなりすなわちこえをはっす】
空をも割るような
轟音が響き
窓際レースのカーテンは
真白き光を映し出す
雨が空の涙なら
雷は空の号哭だろうか
泣き叫ぶ空は
一体何を
嘆いているのだろう
風に身を切られるのが
痛むのか
地が離れているのが
寂しいのか
どちらにしても
これだけ激しく泣くのなら
今年の稲は安泰だ
嫌われたくない
嫌われたくない
期待の視線が
何より怖い
裏切られたくない
裏切られたくない
笑顔の下は
考えたくない
そんな考えが
脳を揺さぶるほど
恐ろしいから
いっそ
最初から
嫌われてしまおう
僕の方から
裏切ってしまおう
幸福なんて
知らなければ
不幸も存在しないに
等しい
嫌われたくない
裏切られたくない
いつでも人に怯えてた
だって
人に好かれて
いるからこそ
失うものも
多いのだから
【つばめきたる】
冷やり、と
肌に痛いほどの寒気
冷たくなった枕を退けて
布団から這い出る
この寝床も
暖かく柔らかかったけど
また同じ
冷たく硬いものに
なってしまった
どうしてだろう
私はもっと
暖まりたかっただけなのに
灰色と紫を混ぜたような
不気味な寝床
元はもっと
素敵な色だったのに
ああ
嫌な匂いもしてきた
次の寝床を探さなくちゃ
私1人きりでは
この世界はこんなにも寒い
べたつく身体を
綺麗にしたら
また新しく探しに行こう
次もまた
暖かいところが良いな
同情なんて
されたくない
「可哀想」なんて
大きなお世話
ああ、そうだ
私以外に私のことが
分かる人間が
居てたまるか
【こうがんきたへかえる】
暑いところは嫌いだ
ふんわりと柔らかい羽は
湿気でへたり
心地よく乾いた風は
じっとりとベタつく
ようになる
温もりなんていらない
ぼくはもっと
涼しいところが良い
暖かな日差しも
誰かの体温も
気味が悪くて仕方ない
ほら
今この瞬間も
ぼくの体の温度でさえも
ああ、気持ち悪い
【にじはじめてあらわる】
雨が街を洗ったあとに
大きな大きな虹が架かった
赤に橙
黄、緑
青藍と紫
あんまり鮮やかで美しくて
わたしはそれを
描きたくなった
赤に橙
黄、緑
青藍と紫
クレヨン使って
描こうとしても
絵の具を使って
描こうとしても
あの色合いは表せない
あの美しさは表せない
赤に橙
黄、緑
青藍と紫
早くしないと
虹が消えちゃう
いじわるしないで
ちょっとだけ分けてよ
空いっぱいに広がる虹を
筆の先ですくってみる
全部なんて欲張らないから
少しで良いの
ほんの少しで
赤に橙
黄、緑
青藍と紫
いつか絶対描いてみせるよ
あの鮮やかな虹のいろ
【あしはじめてしょうず】
葦は“悪し”と捉えられて
しまうことから
よしと読む
ことがあるという
あしと読めば
それは悪しなのか?
人は考える葦である
それが悪しきものなのか
はたまた良きものなのか
言葉を鵜呑みに
することなく
ひとつずつ丁寧に
考えるべきであろう
考える葦である君たちは
あしであるかな?
よしであるかな?
何度呑み込んだ
憎悪と偽善を
また吐き戻して反芻する
くちゃくちゃ
噛んで
唾を浴びせて
「嗚呼、
やっぱり君は間違っている」
味がしなくなって
生温くなる
無意味な妄執
喉が爛れて
新しい味は
望むべくもない
げろり
とうとう
それを消化し切って
何にも出なくなったって
まだ罵詈雑言を
浴びせ続ける
虚を咀嚼
「嗚呼、
とっくの昔に気づいてた
間違っていたのは⬛⬛⬛⬛」
最近身の回りが忙しいので、七十二候シリーズは一旦打ち切りにさせていただきます。
勝手ですみません…。
ざわざわと
何かが擦れ合う
音がする
確かめようと
身動ぎするも
眠気と気怠さで
目が開かない
手足は胎児のように
畳んでいて
ときどきごそりと
揺れ動く
身を包む何かは
どこか懐かしい匂いがし
相変わらずざわざわと
鳴っている
空気はきィんと
冷えていて
それが余計に眠気を誘う
ああ、きっとこれは
繭だ
モノクロに褪せて
ひび割れて
振り返るたびに
はらはらと
崩れてゆく
空っぽの断片が
足跡のように
点々と落ちる
軽い音のする頭を
重そうにもたげ
引きずる
朝か夜か分からぬ
青黒い空だけが
私に付き添う唯一の
夏が足りない
ふと
口を溢した
ああ
夏が足りない
目が眩むような
日差しと熱気
どこまでも高い空に
響き渡る
割れんばかりの
蝉の合唱
あの
胸を焦がす疾走感と
流れる青
暑くて
眩しくて
もどかしい
夏が
欲しい
ここに
君の求めているものなど
ありはしないよ
ここには何も無いんだ
『何もない寂しい場所』?
少し違うね
ここでは『何も無い』すら
『無かったこと』になる
そして『無かったこと』も
そのうちなくなる
安心しなよ
もうじき君の存在も自我も
なくなるだろうから
この言葉がここにある理由?
それは僕がいるからさ
分からないならそれで良い
分かったのならそれが答えだ
あるもの全ては
なかったことに
なかったことすら
なかったことに
それはヴォイドか
悟りの境地か
言葉なんて必要ないだろ?
だって
聞くものなんかいやしないんだ
話す言葉もないだろう
私は歩いている
かけらも知らない街並みを
どこか懐かしい街並みを
建物はどこにもない
人の姿もどこにもない
あるのは白い歩道と
赤と緑の信号機
世界はずっと白だらけで
赤と緑が点滅してる
時々ごみ袋が置いてあり
中を覗くと虫がいる
黒いごみ箱いっぱいに
白い虫が詰まってる
空は晴れて白色で
太陽は照って黒色だ
モノクロの街並みに
信号機だけが赤と緑
赤と緑が点滅して
チカチカ
脳を揺さぶった
赤と緑が点滅して
ぐにゃぐにゃ
視界が埋まってく
赤と緑が点滅して
どろどろ
思考は腐ってく
足を止める
何かがおかしい
本当に歩道は
白色だった?
本当にごみ箱は
黒色だった?
白なんてなかった!
黒なんてなかった!
白色は赤と緑だった!
黒色は赤と緑だった!
このままじゃ
気が狂れそうだ!
どこもかしこも
赤と緑でいっぱい
赤と緑しかない
ここには赤と緑しかない
赤と緑 赤と緑
赤と緑 赤と緑
赤と緑以外何もない!
私は走っている
かけらも知らない街並みを
赤と緑の街並みを!
あれが足りない
それが足りないと
強請る私を
頭の隅に追いやる
無駄なんだよ
そんな惨めな行為
どんなに欲しがろうと
望んだものは
手に入らない
疾く走ったところで
黄金のメダルは
落ちてこない
強請るだけでは駄目なのだ
努力だけでは駄目なのだ
泣き喚けばもらえるなんて
そんな時代は赤子のうちに
終わったのだ
どうすれば良いか?
そんなこと私に聞くな
それが分かっているならば
わざわざ言って
聞かせたりしない
終わりが来るのが嫌で
信じたくはなくて
いつまでも夢に
浸っていたいと
駄々をこねる
終わりに気付かないで
中間に縋っていて
最後の頁をめくれずにいる
はつかねずみなんて、こなければいいのに
142:レミング◆yc:2020/06/17(水) 06:08 残されたのは鮮烈な青
過去と未来の淵に立って
消えゆく光を
ただ見つめている
感情が追いついたら
きっと泣いてしまうから
ひたすら無心で
言の葉をなぞっている
それでもやっぱり
涙は溢れて
指先の震えが止まらない
考えなくとも涙が出るなら
このまま
直視しない方が良い
今
それを受け入れるには
この心はあまりに
脆すぎる
笑ってなんて
いられない
涙もずっと
止まってくれない
いざ終わりを
目の前にすると
人はこんなにも脆弱なのか
残されたのは鮮烈な青
そして沢山の思い出たち
薔薇の花が
枯れるときは
花弁が散ったり
しないものだ
色がくすんで
からからに乾いて
静かに品よく
朽ちてゆくのだ
まるで
壊れてしまった
愛のように
うるさくて眠れないとき
僕の耳を削ぎ落とすのと
君の喉を掻き切るの
どちらが早いのだろうね
君が涙を流すなら
僕はそれを拭う手巾となろう
君が黒を望むなら
僕は何色をも黒に染めよう
君が凹を嘆くなら
僕の身を千切凸としよう
君が己を傷付けるなら
僕はその刃を手前に向けよう
君が夜に怯えるなら
僕が明日を殺んでしまおう
それでも君が俯くならば
僕は
…どうすれば良いのだろう?
どうすれば
君を救えるのだろう
暗くて鬱屈とした
部屋から出たら
空を満たす深い藍が
すぐ前まで迫っていた
底抜けな明るさが
苦しくて
これじゃあ笑えないと
目を細めた
後から湧く入道雲に
思考を追い越されて
しまいそうで
懐かしい名前を呼んでみた
聞こえないだなんて
分かっていた
聞こえないから呼んだのだ
伽藍堂の胸の中
青で一杯に染まって
無彩色には少しだけ滲みた
懐かしいほどに
過ぎてしまった
あの日々をまだ追いかけていた
見えなくなった
子守唄の色
探していたら
セピア色で迷子になった
鉛筆を落とした
白い紙には
低いドの色が残った
隣の家から聞こえるのは
積んだ古本の匂い
麻色の音
冬場の古い雨漏りバケツの音
翌日外から
翡色の音と
セピア色の音
やあ
死ぬには良い夜だ
ね、ダーリン
僕はひと言呟いて
淹れたばかりの
紅茶目掛けて
髑髏印の硝子瓶を傾けた
二つのカップを持って
君の元へ行くと
君はいつもと
変わらない顔で
すっかり寝こけて
いるのだった
随分呑気だ
ね、ダーリン
賭けをしようか
こいつらのうち
どちらか一つを選んでご覧
命の保証はできないさ
けれどこうでもしないと
気が済まないんだ
君は僕から見て
右側のカップを選んだ
…気がした
僕は右側の紅茶を口に含むと
君の口に流し込んだ
そして左側の紅茶を
ぐっと飲み干し
反応の無い君に笑むのだった
死ぬには良い夜だ
ね、ダーリン
もうすぐ僕も
そっちに行くから
二度と言葉を紡ぎはしない
薄い君の唇に
再びそっと
キスを落とした
もう少しだけ待っていて
ね、ダーリン
甘酸っぱい
熟れかけの果実の香りがした
雨上がりのだるい暑さも
一瞬吹き飛ぶように瑞々しい
それは
隣に立つ少年の
腕の中から漂っていた
透き通るほど白く華奢な腕に
抱えているのは
さくらんぼの入った大きな箱
私があんまり見つめるから
少年はふとこちらに気付いて
少し戸惑ったあと
おひとついかがですか
とひと組み摘んで差し出した
悪いとは思ったけれど
興味が湧いたのも事実なので
礼を言って受け取った
ぷちっと茎を摘み取ると
ころんと口に放り込む
柔らかな皮が弾けて
果汁と果肉が溢れて開く
美味しいです
と言うと
少年はふわりとはにかんで
何も言わずにお辞儀した
その可愛らしさに
思わず見惚れてしまい
種はそのまま飲んでしまった
止め処なく流れる涙
こんなつもりじゃ
なかったのにな
気を紛らわそうと
唇を噛む
身体の痛みが加わわるだけ
どうしてこんなに
苦しいのだろう
どうして自分は
泣いているのだろう
滲む視界に君は居ない
居ないのだ
どうしてこんなに
報われないのだろう
どうしてそれが
今更悲しいのだろう
分かっていたはずじゃないか
夜更かしだって?
星が煌々と
照っていることだし
まだまだ眠る時間
ではないだろう
蒼い星が身を潜め
赤い星が顔を出したら
ひぐらしが起きて鳴き
その音で草木が
目を覚ましたら
そのときは布団に
潜ろうか
その春初めての風
雨が止んだ後架かる虹
磨いたばかり希少石の煌き
冬に眠っていた蛹から孵った蝶
愛犬の産んだ子に初めて触れた瞬間
君と目が合う
ということは、
僕にとって
これほどの価値があるのだ
灯台は自らを
照らせはしない
遠く遠くの
知らない誰かに
道を教える
ことしかできない
誰かを探して
救ったのに
遠くを明るく
照らしたのに
灯台が照らされる
ことはない
あれが報われる
ことはない
誰かあれを
照らしておくれ
誰かあれを
救っておくれ
沢山の骸と薄氷の上に
成り立つ王座
骸の中から一つ
頭蓋を抜きとって
仕舞えば
あるいは
薄氷にひと筋
白い罅を入れて
仕舞えば
お前の座る椅子は
上から転げ落ちるのだ
幾つもの犠牲を経て
やっとその位置に
居られることを
ゆめゆめ忘れぬように
きみが僕を見てくれるなら
空に金貨を降らせよう
ここら一帯を花畑にしよう
瑠璃色の水を湧かせよう
全ての人に笑顔を与えよう
きみが僕を見てくれぬなら
空に血の雨降らせよう
ここら一帯を焼野原にしよう
溝色の水を湧かせよう
全ての人から笑顔を奪おう
愛されてしまったのだから
仕方ない
逃れられはしないのだから
諦めなさい
永遠を共にすると誓おう
愛しいきみよ
深く透明を
揺蕩っている
爪先では
光の粒が舞い踊り
頭の方では
黒い影が這い回る
海草が身体に
絡み付いてくる
振り解こうにも
気力がない
地上の喧騒を隔つ
揺らめきに身を任せて
ただ揺蕩っている
波に拐われ
引きずり込まれている
ああ
何も聞こえない……
なぁんにも……
それはある日唐突に
天から降って
気づいてしまった
生きているのか
僕は生きているというのか?
掌をじっと見つめてみる
僕が手を開いている
僕が瞳を向けている
なんてことだ
僕は生きているんだ
僕は今になるまで
自分の意思で生きてきた
朝食は麺麭にするか
白飯にするか
服は白いシャツを着ようか
黒いシャツを着ようか
今日は深夜まで本を読もうか
明日に備えて閉じるべきか
休日は遠乗りに出かけるか
それとも寝てしまおうか
いつまで
ここで働くのか
いつまで
この趣味に没頭するのか
いつまで
呼吸を続けるかさえ
僕は自分で
決めなくてはならない
恐ろしい
僕はなんて
浅はかで軽率だったのだ
今の今まで
僕はどうして決めていた?
人生を大きく
変えるかもしれない
小さな選択肢たちを
どうして切り抜けてきた?
もしや僕は
他の誰かのことだとでも
思っていたのか
僕は僕を生きて
いるのではないと
思っていたのか
なんということだ
僕は僕の人生を生きていた
この顔も性格も
僕が生きた結果なのだ
あと何十年続くのだろう
あと何十年生きるのだろう
僕はいつまで
僕でいるのだろう…
ああ嫌だ
誰かに
不幸になって欲しい
わけじゃない
誰かを
突き落としたい
わけじゃない
誰かに
押し付けたい
わけじゃない
幸せにしたい
笑って欲しい
ただそれだけなのに
美しい
鏡を覗き込んでふと思う
自慢などではない
俺の顔立ち自体は
至って普通だ
そんなものではなく
人の身体というものが
酷く完成され
酷く美しく思えたのだ
ただ寝て食って
生きるだけの身体に
虹を放つ
きらきらしい眼は必要か?
石榴色に
脈打つ"中身"は必要か?
考えれば考えるほど
気味が悪い
生物として完成されている
それがこんな風に
美しさを伴うとでも言うのか
艶の輪を作る髪の毛は
しなやかで器用な指先は
赤肉の下の白くかたい骨は
全てこの身体に
生を受けたときから
何故こんなにも美しいものが
動いている
血を通わしている
熱を持っている
生きている
人間風情が生きているだけのくせに
どうしてこんなに美しい
「私の方が」
思わず口をついてしまいそうになる
その娘は貴方を捕らえる檻なのよと
伝えたってきっと無駄だから
その視線の先にいたくて
貴方を想う胸が痛くて
嫉妬で狂ってしまいそう
貴方を拐ってしまいそう
どうして私じゃないの
どうしてその娘が良いの
私の方が
貴方を幸せにできるのに
私の方が
貴方だけを見ていられるのに
私の方が
貴方をずっと想っているのに
いっそ壊れてしまえば良いんだわ
貴方の心も身体も
ぐちゃぐちゃになって
私がひとつひとつ直していくの
壊れた心をひとかけら
ポケットに隠して
泣いて頂戴
満たされない空虚を抱えて
縋って頂戴
情けなく涙も拭わぬままで
喚いて頂戴
お前しかいないんだと
どうか言ってよ
すっ空かんの金魚鉢
なんにもいないさ
水も入っていない
それでもね
何故か時々縁のあたりに
波紋が見えるんだ
そこに銀いろの膜が張って
まぁるい円がギロギロ広がり
そのうちふいと消えていく
僕は一体
なにを飼っているのだろうねぇ
あまり
穏やかなものじゃないのは
確かだけれど
ほら見て御覧
金魚鉢に虫が近づくと……
汚い体液を撒き散らし
捻れたように潰れてしまう
ああそうだ!
君、ちょっと手を
貸してくれないか?
何もしないさ
僕はなんにも
いきなり突っ込んで来た
“侵入者”に
“そいつ”が何をするかが
知りたいだけだよ……
僕は
「月が綺麗ですね」
と言った
女は
「死んでも良いわ」
と答えた
僕は深く失望し
女の首に手をかけた
僕は
「月が綺麗ですね」
と言った
男は
「どうでも良い」
と答えた
僕は深く憂いを湛え
男を下へ突き落とした
僕は
「月が綺麗ですね」
と言った
貴方は
「今夜は新月じゃない」
とからから笑った
僕は貴方と
生きることに決めた
霧雨が降っていた
カウンター席の真正面
愛想の良い店員に
お茶をもう一杯如何ですか
と聞かれ
緩く頭を振ってみせた
右の客は
これはまた長くなりそうだと
洟を摩った
山を流れる白靄が
蒼黒い木々の輪郭を溶かし
滑らかに線を消している
左の客は
いゝえもう直きやみますよと
珈琲を呷った
忙しなく脚を組み換え
布擦れの音がする
窓を敲く雨粒が
ぱっと拡がり散り散りなって
つうつう転がり落ちてゆく
先程右の客が鳴らした
呼び鈴の余韻が
微かに耳に残っていた
考察途中の脳が揺れた
ふと見ると
両手には何も
残っていなかった
ああこれじゃあまた
最初から
私はきっと
貴方のことを1番知らない
最前層の薄皮さえも
剥がせない
わざわざ教えてくれる
わけはないから
考えるしか
ないじゃあないの
考えて考えてまた考えて
それでも貴方が分からない
まるで万華鏡のように
見るたび色も形も変わる
本当の貴方を教えてよ
張りぼてじゃない
姿を見せてよ
貴方は本当にそこにいるの
貴方は本当に生きているの
熱を感じてはため息を吐く
貴方の鼓動さえも
聞こえてしまいそうなのに
貴方の髪の一本一本も
覚えてしまいそうなのに
それでも何も分からない
思考の一つも読めないの
ずっと昔からそうだった
貴方のことを
愛していたかも
いつか教えて頂戴よ
本当の貴方を聞かせてよ
人魚が溺れて死んだ
らしい
カラカラに乾涸びた死骸が
真夜中の海
光る洞窟に
閉じ込められていたのだ
人魚がどこでどう死のうと
変わりないだろう
とは思う
それでも不思議で堪らない
人魚は生まれて死ぬまで
ずっと泳いでいるのに
何故溺れるようなことが
あるのだろう
死んだ人魚は
最期に何を
思っていたのだろうか
最期に何を
見ていたのだろうか
人魚が溺れて死んだ
らしい
息のできない
陸という場所で
透き通るほど白い
陶器のようにうつくしい肌
それを惜しげもなく
曝け出して
貴方はベッドに縛られている
期待と緊張に潤んだ瞳で
貴方は私を見つめるの
可愛い貴方
もう少しだから
そんな捨て犬みたいな顔
しないで頂戴
もちろん縛ったのは私
今から貴方を沢山たくさん
かわいがってあげるわ
取り出したのは
一本の蝋燭
所謂趣好向けのもの
ではいけないの
あれだと温度が低いから
“痕”に残り辛いでしょう?
かしゅりと燐寸を擦ると
貴方は期待に身動ぎするの
もう少し静かにできないの
と嗜めると
貴方は動きをぴたりととめて
待ちきれないと息を荒げる
いいこね
じゃあ始めましょう
肌を指でなぞって
右手の蝋燭を傾ける
貴方の白い肌に
もっと白い蝋燭の滴が
丸くしたたる
突然の刺激に痩躯は
びくりと跳ねて
その振動で蝋がとろけていく
小さな滴はその場で冷えて
中途半端に半透明で固まった
貴方は痛みと熱さ
そして歓喜に打ち震え
喉をつまらせながら
喘いでいるの
ぽたぽたしたたる蝋燭を
見つめながら想像してみる
この丸い蝋燭が剥がれると
そこは同じくまぁるく
きれいな桃色に変色してるの
輪切りの腸詰めみたいなそこを
優しく口で吸ってあげると
そんな微かな刺激で
信じられないほど痛みが走るの
そのとき貴方は
極上の顔を
見せてくれるでしょうね
しばらく楽しめそうだわ
私が思わずくすりと笑うと
どろりと一気に蝋がこぼれて
貴方は再び嬌声を上げた
レミングさんがこのスレッドを立てて一年経ったみたいだね。おめでとうございます。
ぼくも書いてみてはいるけれど、どうしても気恥ずかしくなってしまってね…きっと読むだけの方が向いているんだね。
これからも貴方の詩を楽しみにしているよ。
>>167
ありがとうございます。
ここに来て、もうそんなに経つのですね……。私が一番はじめに詩を書き込んだのは別のスレッドなので、詩を書き出したのはもう少し前からですけれど。
四月うさぎさんは所謂“読み専”というやつですね。
主張するばかりが創作ではありませんからね。頭の中に新しい世界を作る、それだけで創作者になれます。
書きたくなったならいつでも来てください。私はいつでも待っています。
「どうせ私は愚図だもの」
少女はそっぽを向いて
吐き捨てた
どうしてそう思うのと問うと
少女はぐっと押し黙り
はらはら涙を流し始めた
どうせどうせ
私は期待なんて
されてないんだわ
誰も私を望まない
誰も私を愛さない
誰も私を見ていない
私なんて生まれない方が
良かったんだわ
死んでしまった方が
良いんだわ
そう喚いてまだ泣いている
私はもう
うんざりしていた
自分を最底辺と位置付ければ
それを下回る評価を
されることがない
自分を卑下していれば
いつか誰かが励ましてくれる
そう思い込んでいる
どうせなんて言いつつも
不相応なほどのプライドを
影に隠して
いつも必死で宥めている
こんなことを言っていても
死ぬ気なんざかけらもなくて
ただ慰めて助けてくれる人を
待っているだけなのだ
自分で動く気も無いくせに
他人ばかりを非難して
肯定の言葉を否定して
否定の言葉も否定して
自分のことなんか
誰も分かっちゃくれないと
ひたすら蛹を固めているだけ
そんなことないと声をかければ
根拠は無くてもそうなのよ
と喚く
その通りだと声をかければ
そうでしょう
どうせみんなそう言うの
と喚く
助けて欲しいと願いながら
この少女は
己の手で首の縄を引いているのだ
私はもう
うんざりしていた
なんて迷惑なんでしょう
なんて矛盾してるんでしょう
過去の私は
なんて愚かなんでしょう
………影響されてるなぁ(笑)
171:レミング◆yc:2020/09/19(土) 02:27 >>170
影響されているとは、自惚れでないなら私の詩にということでしょうか。
嬉しいですね、身に余る言葉です。けれど、私の詩もある方にとても影響を受けています。
あの方は本当に、どんな人をも虜にするのですね……。
遠い沖合の方に
大きな暗い漁船が
見える
漁船の周りは何やら
キラキラ光るものが
群がっていて
漁船はそれを
釣っているようだった
しかし今夜は
嵐が来る
ということで
船は全て
仕舞ってあるはずだ
いつの間にか
人だかりが出来ていて
がやがや騒ぐこちらを
気にもせず
得体の知れない
その漁船は
朝まで
光る何かを
釣り続けていた
蝶よ花よ
お前はほんとうに美しいね
蝶よ花よ
人目に触れてはいけないよ
蝶よ花よ
ずっとここにいれば良いんだよ
蝶よ花よ
私の言うことを聞いていれば良い
蝶よ花よ
それがお前の幸せなんだ
蝶よ花よ
どこへもやらない絶対に
蝶よ花よ
お前だけは
私の側にいておくれ……
切る
赤く細いそれは
これまでの繋がりなど
無かったように
ふらりと落ちた
嫌な人だった
自分で何もしないくせ
一丁前に他人を否定し
それだけで自分の価値を
確かめているような人
邪魔な人だった
行く先々で顔を見た
初対面にべらべら喋り
自らの思想を押し付けて
反論は絶対に認めないような人
勝手な人だった
突然喧嘩をふっかけてきて
一方的にまくしたて
こちらが一言言葉をかければ
被害者面をするような人
嫌いな人だった
全てが合わない
全てが神経を逆撫でる
全てが尺に触る
全てが嫌いな人
切った
切断面から血の滴るそれは
ずるりと醜く音を立て
尚も縋ってくるのだった
気づいていないとでも
思っているの?
私はそんなに
馬鹿でもないの
貴方が言う“君”
貴方が言う“あのこと”
全部気づいているからね
全部分かっているからね
あのときは
濡れ烏ではなく黒だった
とか
あの話は
二等辺三角形ではなく
三角形だった
とか
そんなことで
誤魔化せるわけ
ないじゃない?
私はね
貴方が思っているよりは
頭が良いの
期待されても困るけど
勝手に失望されるのは
もっと困るわ
もうやめにしましょうか
もうさよならしましょうか
きっと貴方は最後まで
私の本当が分からないんだわ
私はそいつが嫌いだった
私の何も知らないくせして
私の全てを否定して
私もいい加減飽きてきて
うざったいと距離を置けば
堪らず走って縋ってくるのだ
いやだなぁ
消してしまいたい
ずっと前からそうだった
どうして私は今の今まで
我慢を続けていたのだろう
きっとそいつが縋ってくるから
可哀想だとでも
思ってしまったのだ
さておくも
私はそいつに飽き飽きしていた
すぱんと首を切ってしまいたい
それとも脚か胴体か
手っ取り早く消し去りたい
まだ聞いていたのかい
とっとといなくなってくれ
今度は私が
そいつの全てを否定したいんだ
秋風が肌を撫でる
それは上着をすり抜けて
そのまま熱を奪っていった
思っていたより冷え込むな
乱れた髪を適当に整え
身震いをして洟をすすった
もう少し着込んでくるべき
だったなあ
寒さで震える足を
精一杯に動かして
道路の端を歩いている
ときどき真横を車が通って
新たな寒風を巻き起こす
嚔をひとつ
確か家には梨があったな
家に帰ったら炬燵も出そう
そんなことを考えながら
今日も家路に着く
忘れようにも思い出せない
忘れてしまいたい
人がいた
忘れてしまいたい
過去があった
はずだった
忘れようにも思い出せない
あの顔は覚えてない
確かとても醜かった
あの頃のことは覚えてない
確か恥ばかり気にしていた
覚える前に忘れてしまった
恥じる前に消してしまった
最初から
顔を見ようとなんて
していなかった
始めから
記憶に残そうとなんて
していなかった
忘れようにも思い出せない
忘れたかった思い出は
元よりここに存在していない
ぎゃんぎゃんと煩い
人間風情が盾突くとは
吾が天罰をくれてやろう
ほら
目が見えなくなるぞ
お前の世界は
闇に閉ざされた
ほら
口が聞けなくなるぞ
お前の意思は
亡きものとなった
ほら
立っていられなくなるぞ
お前が今更怖気づき
逃げることも敵わぬな
ほら
手足も動けなくなる
思考もできなくなる
世界もじきにお前を見捨てる
終ぞ終ぞ
お前の自由は無くなった!
お前の命は無くなった!
灰と藍が
混ざり合う空
見上げて吐くため息
乾かない瞳
一番星を見つけて
はしゃぐ君の横顔
今も鮮明に覚えていた
冷え切った空気が
頬を掠めて
流れていって
空気よりも
もっと冷たい髪が
喉元にへばりつく
君の絶叫
君の身体
君の中身
フラッシュバック
脳を侵してく
知らない奴の
下卑た笑み
永遠に奪われた
君の笑顔
あのとき消えた
私の⬛⬛
折れたヒール
べたつく手のひら
鉄の匂いのする紙切鋏
今も覚えているんだ
これからもきっと
ずっと
嫌われていると
気付いて
しまった
何が駄目だったのだろう
?
性格と口が
よろしくないのは
自覚がある
それでなければ
私の顔だろうか
交友関係だろうか
?
兎にも角にも
私は嫌われていた
嫌われているらしい
そして
何年か振りの
感情を得た
嫌われるのが嫌だ
嫌われるのが怖い
と
弱くなって
しまったのだろうか
?
あんなところに
閉じこもっていたから
傷口を塞いで
只管縮こまっていたから
否
弱くなったのではない
傷口が
塞いで
見ないようにしていた
傷口が
膿んで
腐って
しまっていたのだ
私は他人に恐れをなして
もう
外に出られない
戻るしか無いのだろうか
あの暗い部屋の隅へ
戻るしか無いのだろうか
あの
音に光に
怯えていた頃に
意を決して開いた
壁の外側は
どうしてこんなに恐ろしい
?
どうして恐れる
ことがある
その引き金を引くだけだ
さすればたちまち
鉛の弾が発射され
標的に命中
全生命活動を停止させる
それだけのことなのだ
さあ引け
指先を曲げろ
その指先ひとつで
鉛の何倍も重い
命を砕け
滴の落ちる音が
響いていた
あいつは
ぐしゃぐしゃの顔で
感謝の言葉を
君は同じく
ぐしゃぐしゃの顔で
優しい言葉を
そんな空気が大嫌いだった
僕は見せて良い顔が
分からなかったから
影の壁に背を凭れていた
僕がいない方が
良いみたいだ
そこは綺麗な空間で
不純物など無かった
それが嫌いな分際で
不純な僕は息を潜めた
自分だけが
絶対悪であれば
そんな臆病な厄介者は
当然疎ましがられ
僕はもう
いなくて良かった
雨が上がって
水たまりに写る
白々しいほど澄んだ空
赦し合って
頬に残る涙の跡と
力の抜けたような笑顔
今でも鮮明に思い出す
涙を堪えたあいつが嫌いだ
泣き笑う君が嫌いだ
ひどく醜い僕が嫌いだ
僕のことが一番嫌いだった
ねえ
もっとよく見て
僕の一番痛いところ
昔々にできた傷
気付かないうちに
膿んで腐って
それでも触れると
痛くて苦しくて
たまらない
でも君には
知って欲しいんだ
僕の弱くて深くて
触れられないところ
君の手で触って
もっと僕を知って
痛くても良い
苦しくても良い
僕の全てを知って欲しい
君のことを愛してるから
許さない
って
震えない鼓膜を
破るような
魂の絶叫
澱んだ空気に
よく響く
私はお前を許さない
たとえ神が
見過ごしたって
私だけは
お前を呪い続けると
ごめんなさい
ほら
言ってみろよ
許してやらないから
謝って
後悔して
くたばって
乾涸びた死体を
蹴ってやる
好きな人ができた
それは
恋愛だけでなく
親愛に近くもあった
何はともあれ
私は
初めて人を愛した
喜び
私は嬉しかった
次に会うときは
どんな顔を見せて
くれるのだろう
声を聞くのが楽しみだ
顔を見るのが楽しみだ
手を繋ぐのが楽しみだ
哀しみ
私は悲しかった
私が好きな人は
私のことが好きとは
限らないのだ
なんと残酷なんだろう
私は
知らないやつに恋する君を
見なくちゃいけないのかも
しれないのか
そいつは
君を愛している
などと宣うが
きっとその愛は
私の愛の
千分の一にも満たないのだ
それでも
他ならぬ君が
そいつを選ぶというのなら
きっと私は
泣いて
泣いて
泣いて
泣いて
この世界すら憎むのだ
ぎこちない夢
手足は
自由の身であった
醒める流動体
人であったもの
蛋白石のリキュール
見世物の釣り糸
となるには些か早い
世捨て人
××××
?
これは失礼
天から昇る漂流物
記されたもの
或いは異教徒
或いは悪夢
ついこの間まで
暑かったのに
もうすっかり
寒くなったね
まるで
秋を飛ばして
冬に入ったみたいだ
と
ぼんやり呟く
君の足元に
小さく揺れる
秋桜のつぼみ
悲しみで
痛みで
恐怖で
弾けて飛び立った
貴方の
心の破片
金剛石のように
きらきらと輝いている
私はそれを
大切に集める
丁寧に
丁寧に
ひと粒ずつ
宝物を拾うように
貴方の心には
ぽっかりと
穴が空いてしまっている
蹲る貴方のそこに
かけらをそっと流し込む
一度割れた心は
もう
元通りにはならない
二度と
屈託なく笑う貴方は
見られないかもしれない
それでも良いのだ
貴方を埋める何かになりたい
だけの私だ
変わりたい
変わりたかった
代わりでないもの
昨日の私
泣いていた
悲しくはなかった
ただ姉さんが
泣いていたから
今日の私
笑った
楽しくはなかった
ただ怒られたく
なかったから
明日の私
きっと変わらない
代わりから
変われない
笑っていても
泣いていても
怒っていても
それは私じゃない
私だから
だから変われない
変わりたかった
代わりでないもの
私でない誰か
腐ったカブに
ゴースト・ダンス
灯りを点けているのに
お菓子をくれないの?
そんな家は
井戸にヘドロをぶち込んで
暖炉に揮発油を撒いちゃうわ!
甘いケーキが食べたいの
カボチャのランプに
ゴースト・ダンス
私はどうせ亡者なのだもの
何をしたって許されるわ
今更我慢なんてしてあげない
死人に口無しとかいう戯言
言ったのはどこのどいつよ
砂糖漬けのドールに
ゴースト・ダンス
でっかいキャンディを
落として割ったひとかけら
それが私よ
どうせこんな世の中だもの
死んだ後くらい思うまま
楽しんだって良いじゃない
チョコレートチップを
がりりと噛んで
今宵もふわりと更けてゆく
生者のみなさまご機嫌よう!
おちんぽ
193:レミング◆yc:2020/11/02(月) 01:30禁止ワードの狭さを見せつけてくれましたね……
194:レミング◆yc:2020/11/02(月) 01:34 切ってしまいましょうか
頭が良いですか?
それとも"それ"を?
わざわざこんなことしなくとも
町へ出て服を脱げば
同じ欲は満たされるでしょうに
どうしようもない変態さんですね?
天使の涙を溶いたインクで
貴方への恋文
僕の気持ちは伝わるかな
貴方への愛は届くかな
鼓膜に響く胸の高鳴り
指先に染む恋の高まり
乗せて
虹の橋に渡して
ミルクの河に流して
貴方の元に届きますように
どうか
僕の愛を
その
汚れを知らない
無垢な手で
この
一枚ぶら下がった
首を
絞めて
折って
切ってくれ
よ
良いじゃないか
これくらいが癖になるんだ
壊して
イんだよ
愛するんじゃ
もう
足りない
終わらしてくれなきゃ
閉じきらない
痛め付けて
犯してくれよ
どうしようもないんだ
どうなったって良い
この
下らない生を
あんたにやるよ
星の数ほどあるなかで
どうして僕は
貴方を希ってしまったのだろう
貴方も貴方だ
どうして貴方は
僕を選んでしまったのだ
この激情を
閉じ込めることなんて
できやしない
喚いて縋って地を這ってでも
僕は貴方を求めてしまう
邪魔ならそうと言ってくれよ
この心と共に消えるから
けれど
魂は決して逃れられない
それほど僕は貴方の虜
いずれ水泡に帰すと
分かっていてなお
こんなにも美しい恋なのだ
亡くした昨日
を
何度
追いかけた
見つかり
はしなかった
追いつかれた
憂い
加齢
してゆく悲しみ
も
大切
だとは思えない
無いの
自分は
居ないの
心の中
身が
騒つくの
明日を拒んで
籠って
縋って
潜って
抉って
掬って
笑って
いたい
な
狂気とは何ぞやと自問自答し
乖離的現実逃避を模索する日々
逃げたとて追いつくものでも無く
追いかけたとて届くものでも無く
こちらから介入しなければ
その姿を見せることも無い
果たして狂気とは理解するものなのか
必然でなくとも偶然ではなく
砂に落ちる石を拾うように自ら手を伸ばしたのなら
それは果たして手にしたと言えるのか
それすら曖昧である
一介の人間ごときが得て良いものではないのだ
欲して良いものではないのだ
さしずめ神と呼ばれるその存在は
愚かにも狂気を望む人間を
嗤っているのだろう
大路を走らばとは言うものの
その狂人とて狂気を理解しているとは限らない
いくら同じ路を走ったところで
オリジナルの狂気というものに追いつけはしないのだ
ハイ・ファイのレコード式に狂人を演じようと
そこにあるのはただ狂ったふりをした凡人である
マトモではなくとも狂人でも無く
私は何と中途半端なことだろう
これは私の詩である
これは狂気になろうとしている愚か者の詩である
遠目見回り
隠れて根を張って
心臓は変形
刺激でドクドク
僕の目を見ろ
声を聞け
ぬるま湯に浸かった脳を
滅多刺しにしてやる
煌然と登場
歴史をひっくり返すのは
僕だ
愛を願って真っ逆さま
罰を食らって地獄ゆき
愛想と吐き気を振りかけて
今夜もネオンを浴びている
花束抱えて日陰の方へ
売っているのは油ばかり
そんな顔をしないでよ
他人が勝手に悲しまないで
嗚呼お願いよ触れないで
“それ”が恋しく
なってしまうから
この目が光に
冴えないうちに
さっさとどこかへ
消えて頂戴
憐んでくれるのね
でも私には必要ないの
優しい言葉に心が痛む
痛みと恥に慣れてしまえば
もう元には戻れない
たったひとしずく
川に猛毒を流した
強い強い毒を
ぽとりと落とした
岸の草は全て枯れ
魚は死んで浮いていた
水を飲んだ者の
喉は焼けた
水を被った者の
皮膚は爛れた
それをただ
じっと見つめていた
どうして苦しむのか
分からなかったが
苦しむ姿は滑稽だった
毒だと思っていなかった
だがしかし
それは善意などではなく
興味と押し付けに
よるものだった
今に罰が下る下る
たちまち喉は
焼けるだろう
そのうち皮膚も
爛れるだろう
そうしてやっと
己の罪に気付くのだな
嗚呼悪魔よ
お前のことだよ
あーそうかい
あんたもまた諦めんのかい
黙って離れんなら文句は無いさ
だがこれ以上ゴミを
増やさないでくれ
笑ってられんのも今のうちだぜ
もうじき僕が全てを変える
諦めねぇよ
下手の横好き極めてやんだ
秀才に正論で圧されて
奇才に話題掻っ攫われて
鬼才にねじ伏せられようと
知る人は好む人に敵わない
好む人は楽しむ人に敵わない
天才様のお言葉だ
そんならどうせそうなんだろよ
今に僕が証明する
正しいものじゃなくて良い
生まれ持ってなくて良い
どれだけ頑張っても
いずれ踏み躙られる
ものだとしても
それでもきっと構わないから
今ここで一番になってやる
モノクロームの銃撃戦
ぶち込む鉛
弾けろシナプス
喧嘩祭りの
お囃子が鳴る
鉄塊同士が眩んで
clash clash
頭も吹っ飛べ思想ごと
石頭どもを
均してやんの
子供みたいに
無垢なテのまま
無邪気に亡くせよ
break break
幾十幾百交えた末に
出来上がりましたは
我楽多の山
ウザいか
憎いか
虚しいか
どれもこれもが
これを望んだ
アンタのせいさ
かつての仲間を
踏んづけて
涙を呑んで
嘆いては
拳を打ち付け
敗けを噛む
次の機会があったなら
弾にソイツを
込めてみな
きっと俺が相手してやる
……マジになんなよ
遊戯のハナシだぜ?
君が心から笑えなくなって
一体どれほど経っただろう
何度も何度も同じ傷口抉られて
最初に付けた
だれかはきっと
顔すら覚えてはいないのだ
大丈夫だよって声をかけても
返ってくるのは曖昧な引き攣り
そして赤を隠す君を見るたび
どうしようもなく
苦しくなるんだ
いつか報われるなんて
無責任には言えないけれど
もう一度
あの微笑みが見たい
痛々しい傷を優しく拭って
「辛かったね」と
ひとこと言いたい
なんて
そんなお節介な願望だ
だからこの手を離さないで
今までもそうしてきたじゃないか
どんな道でも
きっとふたりで
乗り越えて
「生きてて良かった」
って思わせてみせるから
いつも通り見慣れた
灰色の雲に覆われた空
ある日突然
ひび割れのような隙間に
ほんの少しだけ差した
蒼
自由とはそれだと思った
それに気付いてしまったら
何だか急にものすごく
窮屈な気持ちになった
なんとなく
その蒼をてのひらで隠して
ぎゅっと握り込んでみた
息が止まる気がした
いつの間にか
鼓動も早くなっていて
蒼が潰されるのを
じっと待っていた
恐る恐る
手をどけてみると
先程と変わらずに
鮮やかな蒼が
そこにはあった
どれだけ無彩色に
邪魔されようと
空は
ただただ蒼く
そこに広がっていた
こんなに美しい色を
妨げるものなら
全て剥がれてしまえば良い
……とも信じ切れなかった
こんなに長く
邪魔され続けた空は
果たして蒼いままで
いられるだろうか
この分厚い雲が
全部流れて無くなったとき
空は蒼いまんまだろうか
赤い糸なんていらないの
指に絡まる糸なんて
いつ途切れてしまうか
分からないから
鉄の鎖でも足りないの
いくら頑丈な鎖でも
遠く離れた貴方に
触れることは
できないから
ほんの少しでも
離れたくない
貴方にずっと
触れていないと
怖くて怖くてたまらない
手を繋いで
抱きしめて
もっと強く繋がって
肌と内臓で触れていてなお
それでもやっぱり
足りないの
何が何やら初の朝
冷たく爽やかな空気が
頬を撫でる
薄っすら漂う雲はまるで
不透明にゆらめいて
牛の乳のように仄白く
それが遮る日の光は
紡ぐ途中の糸みたく
太陽を中心に
縒っている
曖昧な年という概念に
さほど興味はないが
初のものと思うと
なるほど
いつもより一層
美しく見える
明けるだの
初まるだの
言い方はまるで
わけがわからないが
それでもそう
目出度くはあるのだろう
天罰を
嘲笑を
惜しみない喝采を
君が死んだ
やりたいことは沢山あった
言いたいことも沢山あった
それでも君は
死んでしまった
この時世
死という言葉は軽く軽く
いのちよりも重かった
そんな憂き世で
君だけは
喪いたくなかったのに
やり足らない気持ちは
どうしたら良い?
伝えられていない言葉は
どうしたら良い?
最期の最後
たった一つ口から飛び出た
それは
無事君の耳に
届いただろうか
それとも
間に合わなかったの
だろうか
届いていて欲しい
何なら返事も
寄越して欲しい
ありきたりな
別れの言葉でも
薄っぺらな
感謝の言葉でもない
ただ
もっと君と生きたかった
と
金網に手を掛ける
隣の空は色づいて
モノクロの僕に
茜色を塗りたくる
風が脳に心地良い
冷えた血液を
身体中に巡らす感覚
足元に目を落とす
一歩先の空中は
人の匂いがうるさくて
僕は一瞬息を止める
下に下に下に
視線は徐々に
下界に降りて
そのうち
空と平行になる
もうじき
落ちる
……けれど
いつもすんでの所で
足がすくむ
ずるずると
重い体を引きずって
鯖まみれの取っ手を
指先で回す
また今日も
鮮やかな茜に
背を向けて
無彩色の日々に
吸い込まれていく
椅子から
立ち上がろうとして
失敗して
座り直した
この重い腰はどうにも
自立する意思は
無いようだった
誰かのように
幸せになりたかった
そんなことを
夢想するだけで
動く気なんざ
さらさら無かった
気付いた頃には
もう遅く
人に見せられる顔は
持ち合わせて
いなかった
ただ
絞り出すような
嗚咽が漏れるだけで
不安だとか後悔だとか
そんな言葉で
片付けたかった
希望に縋って
裏切られるのが
恐ろしく
絶望して
全て失ってしまうのも
恐ろしかった
何もしないで
何もできないままで
そうしてここで
腐っている
落胆に近い
灰色の道を
下を向いて歩いている
一番星にはしゃぐ気にも
なれなかった
今まで積み上げて来たものは
とか
これからも信じていたかった
とか
そんなのは所詮希望論だった
何も残らなかったわけじゃない
ここには確かに
僕らの歴史が刻まれている
だから
もう良いのだ
良いんだろう?
虚空に向けて問うてみても
かつて輝いた憧憬の抜け殻には
響くはずもなかった
「幸福とは何だと思う?」
自分とよく似た声が
反響して聞こえる
棒立ちで俯いている
足元は暗くて
透明な水面に澱が黒く沈んでいる
水面に
自分の姿は映っていない
「嫌いだ」
おそらく私が言った
長い時間喋っていなかったのか
酷く掠れた声
「幸福になりたくないのか」
何故か愉快そうに
自分とよく似た声
ようやく視線が前に向く
鏡があった
鏡の中には私が映っていた
きっと
覗き込めば
あちらの私の全身が見える
きっと
私は映っていない
「幸福は嫌いだ」
「お前が幸福になるのなら」
続けざまに私が言う
鏡の中の私は
ヒッヒッと気味の悪い
引き笑いをする
「お前は本当に馬鹿だな」
人を不快にさせる引き笑い
人を苛つかせる挑発的な視線
人を見下した言葉選び
全ては私の癖だった
私は無感情だった
「私のことが嫌いか?」
鏡の中の私が言う
私は何も答えない
鏡の中の私が
居心地悪そうに身じろぎをする
「何とか言えよ」
焦りのような
屈辱のような声色
私はやはり何も答えない
ただ
鏡の中の私を
じっと見つめている
長い静寂が流れる
私の
鏡の中の私の口が開く
「お前なんて大嫌いだ」
返ってきた白紙にレイ点
何にも手につかないや
空想ばっかり
もしも話の繰り返し
何やったって空回って
頭は地についている
天地逆転
足は天を目指してる
突然だけど
今日から世界は
裏返しになってしまった
みたいだ
宇宙に堕ちてゆく
嗚呼
きっと僕は
間違えたから
この世界の
ことわりにさえ抗って
このまま君のもとへ
逝けたらな
私が一番でいられないのなら
玉座なんて無くて結構
見知らぬ誰かを褒め称えた
その口は
せめて蝋で固めておきなさい
失望した
言わなくても伝わるだなんて
思い上がらないで頂戴
もう二度と
私の作品を見せてなんてあげない
せいぜい後悔することね
貴方なんて大嫌いよ
群青の泡
弾けてしまえば
空に登るだけ
回る虹の表面に
映る
木の葉の陰
追いかけて
両手で掴んで
壊してしまう
ふいと強い風が吹き
屋根まで逃げた
神秘色のたま
もはや味も無い反芻を
また今日も今日とて
繰り返す
何度も何度も
追い求めたはずだ
この灰色の景色に滲むまで
次第にふやける
輪郭なぞって
剥がれる破片を
必死で集める
生傷だらけの指先を
冷え切った空気が
切り裂いてゆく
砕けた硝子も混凝土も
行く先々に散らばって
美しい記憶を写すだけ
取り戻したい
どうにもならない
知っていた
けど諦めきれない
どうにもできない
見上げた空は飽きもせず
まだ色を失っている
足元の緩衝材が
ざらつく地面を叩く音
だけ耳障りに響く
煩いくらいの雑音が
恋しく感じる時が
来るなんて
苛つく脳を掻きむしって
無駄だと分かって
いながらも
また手を伸ばす
足を踏み込む
視界の外にはいつも
彩度の高い
君の笑顔があると信じて
冬は嫌いだ
熱が恋しくなってしまうから
銀の空を舞う
白く小さな雪の粒
始めは綿のように
柔らかに積もるが
募ればそのうち
重く
かたく
痛々しく
冷えて凍える心身は
もうひとりでは暖まらない
だから
冬は嫌いだ
君が恋しくなってしまうから
現実にも満たない幻想なんか糞喰らえだ
221:レミング◆yc:2021/02/08(月) 09:23 泣きそうな歪な笑顔で
あなただけは
どこにもいかないで
って
馬鹿だなぁ
僕はとっくの昔から
君と生きると
決めているのに
いいよ
僕も一緒に落ちてあげる
喜びも苦しみも
分け合おう
病めるときも
健やかなるときも
君の隣にいると誓おう
君がこれから
どれだけ惨めな
姿になっても
僕だけは
馬鹿だねぇって
隣で笑っていてあげる
大丈夫
離れないよ
君のこと
一番想っているのは
僕なんだから
何年先も
ずっとずぅっと
私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
籠った想いを計りましょう
インクの匂いの染みついた
郵便局が私の仕事場
ほらまた今日も
紙がかさかさ
人がばたばた
手紙が届く
赤い綺麗な蝋封の
恋人同士の手紙が二通
「愛してる」
ってあつい言葉も
小さい錘がひとつ分
「また明日」
って薄味だけれど
大きい錘がみっつ分
酷い男ね
可哀想な女
お節介はご愛嬌
私も何分趣味が無くって
私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
愛の大きさを計りましょう
黴びて汚れた茶封筒
何やら錆の匂いがするわ
「必ずこんど返します」
なんて軽い言葉なの!
一番小さな錘が
ひとつ分にも
満たないじゃない
お節介も手に負えない
呆れてものも言えないわ
私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
決意の緩さを計りましょう
あら?
これは
宛先の無い
簡素な手紙
「ありがとう
忘れない
いつか、また」
たった
21gの手紙
……嗚呼成る程
届くはずよ
きっと、きっとよ
お節介も程々に
無力さが遣る瀬無いわ
私はしがないレター・スケヱル
手紙の重さを計りましょう
籠った想いを計りましょう
貴方からのお手紙を
心よりお待ちしてますわ
改めて気を遣るまでもない
読みかけの小説の表面を
ふらふら目線が滑っていた
意識はうわの空を向いている
言うなら今だと知っていた
それはきっと
私の望まない結果を
生むことも
貴方はこちらを見遣って
愛おしげに微笑んだ
ああやっぱり
言わない方が良い
こんな話をするときは
どうせなら貴方に
珈琲を淹れて
終わりの無い世界
がらんどうの居場所の無い街
繋いだ記憶を語り明かそう
どうせ明日も来ないのだし
2人だけの空間で
君しか見えないよ
笑えないね
濃紺から溢れた星が
煌めく
仄めく
さんざめく
つうと尾を引く
流れ星を見て
「僕らもじきにああなるんだ」
本当に冗談じゃない
憎たらしい君の顔
今にも泣きそうに笑う顔
どうにもできない
緩やかな苦しみ
矛盾した窮屈さが
胸を締め付けるから
一瞬のうちに
消え去ってしまうのも
悪くないかな
車道側を僕が歩く
意味なんて無いけど
喉に閊えた言葉
意味なんて無い
僕らだけが残された
意味なんて
淀みの無い痛覚で
ひしゃげた前足
おたまじゃくしの
泣き声は
誰の耳にも届かない
飛んで火に入る
野次馬どもが
あらあら今更
大層なこと
意味の亡いこと
叫んでは
明けに暮れる
窓越しの殺人
君に流れる鉄の鎖は
千年前の誰かの溜息
貴方はこれ以上
醜いものを
見なくて良いのよ
光の差す窓辺で
自嘲する君
僕の人生の中で
一番美しいのは君だ
どんなに汚い世界でも
君さえいれば
こんなにも
美しく見えるんだ
なんて言えたら
君はどんな顔を
するだろうか
その双眸は炎天下
慈愛のないショウに
苛立っていた
割れてゆく
人工的なダイヤモンド
慌てふためく子羊
リノリウムを滑り落ちる
気味が良いな
笑ってろよ
こうやって
色も冷め
際立つナイフの鋭さに
ただ延々と
脈動を抑え込む
役に立たない心電図
傷跡の痛々しさが
チャームポイント
衝動性の症
口角の鋭さに
ただ延々と繰り返す
無機質
診察券はお持ちですか
?
独り占めしたい
君の視線
君の心
聞かせて頂戴
君の声
君の鼓動
君の呼吸音
私だけが
知っている
君の過去
君の寝巻き
君の黒子の数
そばに居させて
お願い
見せて頂戴
君の本心
君のなかみ
見て頂戴
私の本心
私のなかみ
こんな現実を
生きるくらいなら
夢の世界に
閉じ籠っていたいの
ローズマリーの
花に埋もれて
有刺鉄線が
肌に食い込んで
緩やかに緩やかに
死を迎える
世界でいちばん美しい屍
鉄の匂いで満たされた
レースカーテンの内側
冷たい雨が
霧のように吹き込む
ワイン色の浴槽
夢の領域
目覚めたくはないの
この瞳を開いたものなら
すぐにでも
腐った果実のような
穢れた現実が押し寄せる
気持ち悪い
体温から逃げたい
目蓋をかたく閉じて
外側に線を引いて
世界とはもう
お別れしたい
結末は分かっていた
分からないふりをした
きっと
私は幸せになれないこと
貴方は幸せになれること
貴方の幸せに
私は必要ないこと
寂しい夜に枕濡らして
貴方の隣を夢見てみたって
薄い月に嘲笑われるだけ
満天の星が俯くだけ
それでも
貴方が幸せなら
なんて
そんな風に
思える筈もなくて
妬ましい
貴方に愛される
あの子が羨ましい
私の方がきっと
貴方のこと愛してるのに
意味もなく美しい夜空に
たったひとつのお祈りを
私は貴方の幸せを
喜べない
願えない
どうか貴方とあの子が
不幸になりますように
どうか傷を負った貴方が
私に救いを求めて
くれますように
どうか
私と貴方が
幸せになれますように
もし賢くなって
世界を楽しめなく
なるのなら
馬鹿のままで良い
幸せしか
知らないままで
この世界を
生きていたい
もし夢を手放して
希望を失くして
しまうのなら
夢追い人のままで良い
限界なんて
知らないままで
暗闇の中を
走り続けたい
もし君に告白して
心に傷を負うのなら
片想いのままで良い
優しい君を
好きなままで
ずっと君だけ
見つめていたい
もし
生きるのが辛くなって
この世を
発ってしまうのなら
本物の幸福も
心からの愛も
確かな生の実感も
全て知らぬまま
死ぬくらいなら
今はまだ
辛いままで良い
だって
癪じゃないか
せっかく世界に
生まれ落ちても
幸福も
愛も
命の重さも
なんにも知らずに
終わるだなんて
だから
今はまだ
苦しいままで
悲しいままで
いつか絶対
不幸を楽しむ無粋な神に
脳無く嘲る愚かな人に
この
未だくだらない世界に
復讐してやる
そんなに
遥か遠のいて
君はどこへ
向かってしまった
嘘だって
縋って
泣いて
抱き合った
あの夜の出来事は
忘れてあげるから
きっと
逝く笑も
知らぬまま
僕らは離れて
しまうんだろう
広げた腕を
差し伸べた手を
素知らぬ顔で
すり抜けて
もう二度と
出会えないんだね
視界を奪う
散りゆく翅も
きっと
君のもとへ
運んでくれや
しないのだ
温い風が
ぐるりと渦を巻いた
足元に俯いた頭を
目の前のベンチに向ける
古ぼけた街灯の下
腐りかけのそれの端に
女が座っていた
人を
待っているんです
手に持った花束に
顔を埋めたまま
くぐもった声で
女は言った
異様であり凡庸
返事をする気も起きず
ただ黙っていた
街灯の照らす円形に
女の当たる凹凸は無い
横切る間際
女は小さく舌打ちをした
花束は全て枯れていた
生臭い匂いに身震い
踵はとうに失くしたのだ
心の
一番柔らかいところに
誰かの声が
割れた硝子の
破片みたく
深く鋭く突き刺さる
一度痛みに
触れたなら
傷を増やすのが
怖くなって
保身ばっかり
上手くなる
歯の浮くような
臭い台詞を並べ立て
真っ黒なインクで
虚ろな表情を隠す
本心を
悟られないことだけ
考えている
それでも君は
僕に
笑いかけるんだろうな
屈託の無い笑顔で
輝くばかりの瞳で
「信じてる」なんて
こんな僕には
過ぎた言葉だ
ああやっぱり
私じゃ駄目なんだね
君は笑って泣いていた
薄紅滲む春空に
逃げ場を
塗り潰されていく
言いたいこと
伝えたいこと
きっと君に
見透かされている
だろうから
きっと今更
意味は無いから
浮かんでは消える
言の葉たちを
膨らむ蕾を眺めてた
咲ききる前に
離れてしまえば
良かったな
花はいずれ散って
地面に落ちて
汚く朽ちるだけなのに
そう言って涙を溢す
君は淡い桜いろ
そこで私は絶望した
明け方の空
夜の帳上がり切らぬ四畳半
脱色した毛先
そこで私は絶望した
旧校舎の北側
ボール紙のようにしなる床
4-4の片隅
そこで私は絶望した
通院先の花壇
アイスの棒の金魚の墓
日陰の葬式
そこで私は絶望した
コーポの404号室
冷え切った壁際の写真立て
アルコールの匂い
そこで私は絶望した
三面鏡の44番目
剥がれ掛けのアルミ箔
蝶番の断末魔
そこで私は絶望した
クレヨン塗れの両手
繊維のささくれ立つ紙粘土
こびり付いた着色料
そこで私は絶望した
そこで私は絶望した
白昼
蝉の声に似た絶叫
潰れた夏野菜
勝手口のドアノブ
中廊下前の古い振り子時計
片方の落ちた物干し竿
大広間の掛け軸
ホルマリン漬けの兜蟹
点滅する蛍光灯
衣装箪笥の四段目
勉強机の鍵付きの抽斗
羽毛の飛び出た掛け布団
埃の浮いた湯呑み
西側の窓
腹を見せたまま動かぬ錦鯉
ばねの伸びた鼠取り
乾いて間もない万年筆の先
羽の折れた扇風機
客室の穴だらけの障子
××の
そこで私は絶望した
そこで私は絶望した
そこで私は絶望した
そこで××は絶望した
そこで私は絶望した
君の後ろ
予備の予備の予備が無いと
安心できない
目覚めない朝が怖くて
眠れない
脳を侵す毒に取り憑かれて
食事ができない
噛み合わぬ会話が億劫で
声が出ない
醜悪さを直視するのが嫌で
鏡と目を合わせられない
視線の水圧が苦しくて
息ができない
拒絶ももはや頂点に達して
家から出られない
すり減る自我を捨てたくて
今
麻縄を首にかける
翳る眼差し
高架下に佇む
街灯に示す熱
反撃は難航
窮地に立つ学舎
井戸水に八咫烏
七並べで灯台の上
遮る眼差し
炎天下に斎く
人道に反す夏
観劇は断行
碌な言葉は無く
乞うもにべも無く
死戦の甲斐無く
散々たる通り雨
蜻蛉の二つ名
一人部屋にて
翻る眼差し
急降下に毒吐く
正答に絶えず放つ
惨劇の残響
それはまさしく
晴天の霹靂
突如
平和な世界に降り注ぎ
全てを薙ぎ倒した
その中心に君臨した
君は雷
君がふらりと右を向けば
皆も一斉
右を向く
君がひと言声を発せば
皆は一斉
耳を澄ませる
全ての争いのもと
全ての救いのもと
全ての始まり
全ての終わり
世界はまるで生まれ変わった
色も形も在り方さえも
僕の心を引っ掻き回し
声も目線も奪い攫った
僕の全てを変えてしまった
それら全ては
たった一瞬の煌めき
君は神なり
夏の空に
塗り潰された標識
寂れた駄菓子屋の前
撒いたばかりの水が
青色に滲む
サイダーの泡のような
夏だった
空中を舞う青い春に
目を凝らしていた
ふと振り返ると
君は鞄と
朝顔の鉢を抱えて
泣きそうな顔で
僕を睨んでいた
滲む汗を拭って
昔の二倍重い
登り坂を歩いた
耳を劈く
ひぐらしの聲が
煮詰まった感情を
掻き回す
水面まで上り詰めて
弾けたら
それで終わる夏だった
錆付いたベンチから
もうずっと
離れられない
蝉の鳴き声が
頭を反響している
送電塔の落とす影が
遠い遠い正義の手が
僕から君を
奪っていった
生ぬるい風が
頬を撫ぜる
届くはずのない
瓶の底のような
透き通った硝子色に
触れたくて
思い出の淵で
身悶えしている
死にかけに駆ける風
遊ぶ春の柔らかな陽射し
ハートの形の
小さなかけらが
地面も水面も
覆い尽くして
見上げてもいないのに
確かな存在を示している
いっそ僕も花弁に紛れて
跡形残さず
散ってしまいたい
ねえ愛おしい君
君の好きな春が終わるよ
連れ戻したいなんて
思っていないから
せめて君とお揃いの
白い箱に
入らせてはくれないか
春の朗らかな陽気の中
君に最期の口づけをして
そのまま
逝ってしまいたい
甘い香りが
涙を誘う
草花萌ゆる優しい季節に
世界で一番
残酷なお別れを
薄桃色が包み込む
白と黒の人の列
思い出すのは
桜舞い散る中で微笑む
君の横顔
もう二度とは見られない
ああ
と嘆息
足りない
私には
夏が足りない
何も考えずに遊ぶ時間こそ
私には一番必要なものだった
それなのに
靴を泥だらけにして
運動場を駆けた記憶も
田んぼで虫やら蛙やらを
捕まえた記憶も
なぁんにも無い
何にもないまま
大人になってしまった
あの頃
なんていうものは無い
何も
私は教室で本を読んでいた
校庭の笑い声には目もくれず
内容もほとんど覚えた本を
ただ何度も繰り返し読んだ
後悔している
もっとするべきことが
あったはずだ
本を閉じろ
そんなものはいつでも読める
驚け
その本は10年後もずっと読んでる
靴を履き替えて校庭へ出ろ
いつまでもチーム分けの
ジャンケンをしている子たちに
「仲間にいれて」
それだけで良い
みんな良い子だったろう?
夕暮れまで遊んで
疲れてくたくたで家に帰って
どろどろの服を怒られて
それで
鬼ごっこはいつも
真っ先に標的にされる
花一匁ではいつも
最後の最後まで残る
それで良いんだ
それで良かったんだ
蝉の声に
逸る気持ちを
目いっぱいに抱えて
自転車のベルを鳴らして
靴の底を焦げ付かせて
日に焼けた顔で
水道水をがぶ飲みして
道路に落書きして
空き缶を蹴っ飛ばして
汗だくで
遊んで
ふざけて
怒られて
笑って
走って
夏を
ああ
と嘆息
こんなに
感傷に浸るのが
上手くなるはずじゃなかったのに
奈落の螺旋階段は
緞帳と共に降り立った
ワイングラスを傾けて
腐臭を発す
アジのフライの
面倒を見てやる
さあ酔いも醒めぬ内に
ちり箱に頭を突っ込もう
軟膏を食器棚に
塗ったくってやろう
天使の梯子を
外したお前は
もう誰からも救われない
永遠の中を歩けよ
大地の奴隷よ
紳士淑女と
その他有象無象の皆様
今宵もどうぞご静聴ください
世にも悍ましい
大衆劇でございます
X県在住のAさん
彼は今日も草臥れた顔で
原稿に向かっております
兎にも角にもネタが欲しい
闇夜を照らす光のような
つまらない日常に紛れる
不可思議な事象
knock knock!
窓の外を
何者かが呼んでいます
「やぁ“ロマンチスト”くん
僕と一緒に遊ぼうよ
そんな窮屈な部屋ん中で
一体何が思いつくのさ?」
Aさんは
ぱっと目を輝かせます
そりゃあそうだ!
こんな埃だらけの部屋で
碌なことを
思いつくはずがない!
がらりと窓を一気に開けて
夜の澄んだ空気を
タールの染みた肺
いっぱいに吸い込みます
濁った視界で見る星空は
この世のものと
思えないほど美しく
まるで煌めく大海のよう
あの光に飛び込みたい
そして泳いでみたい
あの美しい波間を縫って
藻屑にでもなってしまいたい
そうすれば
そうすれば……
Aさんは
いてもたっても居られず
机を乱暴に横に倒して
部屋の隅から助走をつけて
たった今
星空へ飛び込んで行きました
いえ
窓から飛び出して逝きました
彼が最期に会話したのは
窓に映った自分自身でした
あら
紳士淑女と
その他有象無象の皆様
どうして笑わないんです?
とびきりのジョークでしょう!
刹那の浮遊感
のち急降下
空を蹴る
宙を舞う
空気の抵抗に暴れる長い髪
背後の誰かに焼き付ける
とびきり廃れた
このどうしようもない世界に
手を振る
さらば世界
さらば青春
生憎去った後には興味が無い
この目で見ぬ色に意味は無い
揺れる
ガラス張りの高層階
手繰る見えぬ命綱
乱反射する生命の葛藤
刹那の浮遊感
のち急降下
溢れ出す丸い雫が
重力に従って落ちてゆく
さらば人生
さらば
目の前の一面の白が
空っぽな頭の中が
それが私の行く先だ
インクに浸したまま
紙の上を滑らないペン先
渇いたインクの塊を見て
やるせなさが込み上げる
指一本たりとも
動かす気が起きない
ただベッドの上で
死を待ちたい
電話口から聞こえる
締め切りを訴える
切羽詰まった声
何日も風呂に入っていない
ことによる
全身の痒みと悪臭
それが余計
生きる気力を削ぐ
もう
目を開けていることすら
億劫だ
何なら
呼吸をするのだって……
ドクドク脈打つ
君の心臓が
まだこの手のひらの中に
遺されているから
なんだか
勘違いしてしまいそうだ
君がまだ生きている
なんて
気のせいでいたかった
君のせいにしたかった
思い出したくもないのに
あの藍が
忘れさせてくれない
君の側にいたかった
君のせいで痛かった
切り取ったような
わざとらしいくらいの
快晴で
君はそうだ
泣きそうな顔で
「また明日」
って
ジクジク焦げつくような
君への執着が
まだこの胸の中でに
存在してしまうんだ
なんだか
信じられそうもないや
君がもう笑わない
なんて
それは
無意味な排気ガス
廃れた街中に
蔓延する憂鬱
吐き出されては
灰色に濁る
また吸っては
肺を蝕んでゆく
何度も繰り返し
吐いては吸って
吸っては吐いて
溶けては沈んで
登っては降りて
私の幸福を
連れてゆくもの
私の人生を
曇らせるもの
感染る
病む
所謂それは
ため息というもの
夜明け前の
透き通った空気の匂い
隣で眠る君を見て
ふと思う
君は果たして
本当に幸せなのだろうか
君の何もかもが狂った日
あの日が訪れなかったら
君はどうしていたのだろうか
きっと
たくさんの人に
愛されただろう
たくさんの努力を
たくさんの成功を
たくさんの名声を
そして
その全てを愛しただろう
世界が君から全てを奪った朝
それが来なければと
いつかの君は
思ったのだろうか
空っぽになった君が
中身を埋めるために
手にしたものは
僕と
僕に対する執着だけ
それでも君は言うんだ
貴方がいれば幸せだと
後悔など何も無いと
そして笑うのだ
嘘偽りを
疑う余地も無いような
この上なく幸せそうな顔で
何も望まない君のために
不幸になれない君のために
僕にできることは
あるんだろうか
ぬるい風が頬を撫ぜて
レースカーテンの外は
俄かに明るくなり出した
人は愚かであるかもしれない
全て無駄になるかもしれない
例えそうだとしても
否
そうであるからこそ
諦めたくない
ひたすら真面目に生きた
罪の無い人格者は
今朝通り魔に刺されて
死んだ
人を騙して貶した
どうしようない屑は
天寿を全う
幸せそうに逝きやがった
不平等だけが平等で
報いも救いも狂いもしない
どこまでも残酷で
やるせない世界
それでもそれを
嘆いていたい
それでもそれに
歯向かいたい
時代と共に変わりゆく
曖昧な倫理を
守っていたい
それが現実の常だとしても
バッドエンドを
憎んでいたい
来るかも分からぬ
ものだとしても
永遠の明日を願っていたい
人はいずれ朽ちて逝く
逃れられぬ定めとしても
それでもそれに抗いたい
人間風情でいたいのだ
自販機でコーラを買った
YESかNOか
虫眼鏡を踏んで割った
YESかNOか
三角コーンを裏返したら猫がいた
YESかNOか
水溜まりに落ちた洗濯物を拾った
YESかNOか
角砂糖を取り落とした
YESかNOか
油の浮いた池を眺めていた
YESかNOか
入道雲に手が届く気がしていた
YESかNOか
ビー玉をポケットにしまった
YESかNOか
リビングに死体が転がっていた
YESかNOか
冷え切ったコンビニ弁当を食べた
YESかNOか
イヤホンのコードを切った
YESかNOか
泥塗れの靴を持って立ち尽くした
YESかNOか
虫籠の中身は空だった
YESかNOか
鉛筆の芯を折った
YESかNOか
インクを倒した
YESかNOか
頁を破いた
YESかNOか
YESかNOか
私は貴方が好きだ
YESかNOか
私は貴方が嫌いだ
YESかNOか
自他の境界線が
薬のせいで潤んでいく
水に落とした墨のように
結んでは解ける思考回路
それはいずれ混ざり切る
自由の効かぬ
声帯と舌はべらべらと
出鱈目を並べ立て
その内容に気を取られて
余計に脳が溶けていく
純度の高い狂気の中で
一握りの正気を求めて
喘いでいる
感情と思考の逃げ場が欲しい
それは依存か執着か
はたまた愛か憎しみか
飴の舐めすぎで
擦り切れた口内
湿度が高く低い気温は
ひどく不快で
舌打ちをした
唇の端が切れていた
ぼんやりと街灯を眺める
鮮烈な光に目を奪われた
哀れな虫の亡骸が
光を僅かに遮って
胡麻粒のように
貼り付いていた
黴と生ゴミの匂いのする
部屋から出ても
世界はこんなにも
変わらないのだ
それに何故か安堵して
それに何故か憎悪する
洟を啜って踵を返す
用など端から無かったが
用が済んだ気がしたのだ
私はどうして生きている?
ふと我に返って思う
私のような人間が
ひとり生きたとて
世界が変わる
わけでもない
ベランダの向こうでは
思想をひけらかしたい集団が
これから襲う大惨事を
見ているだけで良いのかと
言葉にしなくて良いのかと
声を上げろと
唾を飛ばして叫んでいる
対岸の火事は楽しい
画面の向こうの非日常
止まぬ雷鳴、暴風雨
顔も知らぬ誰かの語り
それら全てが
面白くて仕方ない
意味を成さない
全てが可笑しい
言葉にならない
全てが愉しい
口角が下がらない
これが愉快という感情か
嬉しや今世
楽しや人生
僕と君の間
穏やかな凪のそれは
沼
綺麗なのは上澄みだけで
底にはへどろのような
醜い悪意が渦巻いている
君と手を取り合ったとき
触れた温度の不快さに
思わずぎちりと
力を込める
すると君は
にこりと微笑み
余計に強く握り返す
互いに血が滲むほど
握り締め合い
振り払った手の中には
赤い鮮血と
黒く煮詰まった因縁が
べったりとへばり付く
へどろのような
君との縁は
とっくのとうに
腐り落ちて
僕の心に膿を残した
どこまでも続く晴天に
思い出さなくていいことが
ふいに脳裏に
浮かんだ気がした
まだ
諦めていないのかと
嗤う自分の首を抑え付ける
まだ
許しはしないのかと
呪いを吐く口を縫い付ける
そうして変わらない朝が来て
絶望しながら布団を這い出る
きっとまたその繰り返し
それでいい
じわじわと血溜まりを
広げるように
本心さえも押し殺して
血が吹き出すことの
無いように
その日が来た時には
もう血が尽きて
壊れてしまえるように
ああそれでも
嫌がって目を背けていても
いつかは
分からなくちゃいけない
その日はきっと今じゃない
と渋る脳に
言い聞かせて
そしてまた
ひとりの世界に閉じ籠もる
永遠に
その日が来ないことを願って
ふと捲ったページ
君の名前が目に入る
その途端に胸が高鳴る
ああ
君はなんて魅力的なんだ
君はなんて人気者なんだ
君は美しい
君は賢い
君は恐ろしい
君は可笑しい
君は強い
君はとにかく素晴らしい
こんなに魅力に溢れている
のにも関わらず
君のその不思議な雰囲気は
見る者の警戒を溶かし
芯に触れ
その全てを狂わすのだ
手を伸ばせば
届いてしまいそうな気さえする
それだから
僕みたいな人間が
一瞬でも
勘違ってしまうんだ
君のことを真に理解するのは
自分だと
ね
全く馬鹿らしいな!
君の目は
誰も何も映しちゃいないさ
君の目に映るのも
君の心にあるのも
全て君の世界だろう
君には誰も触れられない
君には誰も近付けない
麗しき高嶺の花だ
恐るべき異常の華だ
誰も彼もが
血を流す思いで
君の気を引こうとも
君は毛ほども気にしない
それでこそ
毛高き孤高の君だ
ああ
愛おしい君よ
どうか僕から
逃げ切っておくれ
いつまでも
手の届かない君でいてくれ
やたらと喉が渇く
陽はとうに落ちきって
冷えた空気が
足元を抜けていく
最後に君を歌ったのは
いつだったか
もう覚えていない
確かあの日は
目に沁みるような
遠い遠い青空で
昔のことを
思い出していた
まだ純粋に笑えた頃
隣に君だけがいた頃
それが辛いと泣いていた頃
名前を呼びたい
君の名前を
僕の周りには
人が増えすぎた
誰かに聞かせるために
呼ぶんじゃないのに
この声に応えるのは
お前たちじゃないのに
元より
答えは求めちゃいない
ただ
音に君を感じたくて
液晶に映る君も
インクで描いた君も
僕の中の君でさえも
ほんとうの君ではないのだ
夜の空は暗くていけない
涙で滲めば星もぼやける
全てが曖昧でくだらない
青が恋しい
君が恋しい
嗚呼
今日も今日とて
君に会いたい
怒りにも嫉妬にも似た
どす黒い感情が
ぶわりと神経を逆撫でる
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
どうしてあの人は
私以外の声で
呼ばれるのだろう
どうしてあの人は
私以外の声を
耳に入れるのだろう
あいつに
あの人の何が分かる
あの人の名前を
ノートいっぱいに
書き綴ったことは?
あの人を理解するため
月夜の晩土砂降りの中
立ち尽くしたことは?
あの人への愛に悶えて
精神に異常を
きたしたことは?
私はこんなにも
あの人に恋焦がれて
いるというのに
あの人はそんなこと
微塵も興味を
持たないのだ
しかし
それは当然のこと
自然の摂理と
いっても良い
あの人は
こちらに介入しない
それで良いのだ
問題はあいつだ
そんな軽い気持ちで
あの人の名前を呼ぶな
あの人の何も
分かっていないくせに
あの人を本気で
愛したこともないくせに
声に出してふと気付く
私は
あの人の何を知っている?
私は
あの人の何なんだ?
あの人なんていないのに?
期待されても迷惑
失敗して失望されるくらいなら
最初からそのままでいい
チェケラ!!おぽーーー!
>>260
キリ番、取られてしまいましたね。
最後の奇声に全ての感情が詰まっていますね……。
貴方のその
言葉を発した後に残る
氷の粒が転がるような
涼やかな吐息の余韻が
貴方のその
太陽に照らされて煌めく
柔らかな毛先の光沢が
貴方のその
低いテーブルに
窮屈そうに折り曲げられた
長い両脚が
貴方のその
退屈そうについた頬杖が
笑みを湛えた薄い唇が
危うく輝く瞳が
酷くがさつな動作をする痩躯が
瞬きの度に音のしそうな睫毛が
大袈裟に開かれた
口から覗く獰猛な歯が
演技がかった態度に隠した
底の見えない本性が
そして何より
貴方は心の底から
貴方であるという
その自我の全てが
私を狂わせる
やるならとことん
大袈裟に淑やかに
威風堂々と謙虚に
本心なんて柄じゃない
最後まで飾らない
中々ままならない
しかしそれで構わない
さァ
賭けよう
fifty-fiftyなこの勝負
切り札はジョーク
または言わば漁夫の利
死角から飛び出せ
誰も見ちゃいないか
それも今のうちだ
どん底通り越して
裏っ側さえも目に
焼き付けた
生半可じゃない覚悟
決めて
放り投げた賽の
目は見ずに
今
飛び立ってやんのさ
他人の心に唾吐いて
震える手でチャカ持って
喧嘩腰のダサい虚勢
煩い
黙って騙されろって
汚い
寄って来ないでって
我儘も大概にしな
奈落の底で藻掻いた
っていつまで
縋ってんの
手首の傷は生命線
強めのお薬増やして
鍵付きの部屋でしか
生きられない
惨めにならない?
ああそうか
感性もランダムで
売ったんだっけ
哀れな姿
見せびらかして
ノータリンから
金巻き上げて
挙句の果てには
孤独です
笑わせんなよ
まるで新興宗教
信者は盲目
倫理なんかは
とっくに捨てた
玉座に凭れた教祖様は
今日も
安全網の中から吠えてら
君のいない世界に意味はない
ありふれた言葉だ
君がいる世界は
君が笑う
君が呼吸をする
君が僕を見つめる
君がいて
そこで始めて意味を持つ
それなら
世界が先に壊れたとしたら?
回ることをやめた星
進むことをやめた物語
生きることをやめた人々
それでも君が
そこにいるなら
無意味に鋭利な言葉に
心底嫌気が差す
機嫌取りは得意じゃないんだ
そう一斉に叫ばないでくれよ
他人が信じられない?
正義は思考停止の象徴?
悪こそが真理?
もう生きていたくない?
この世の全ては金?
この世の全ては嘘?
人間に価値などない?
知らねえよ
わざわざ足を運んでまで
言うことがそれか
ご苦労なこったな
可哀想な人生
ため息と共に煙を吐いて
逆さまの十字架を
薪に焼べた
カーテンを揺らす
初夏のぬるい風が脳を梳く
全身を覆う柔い熱が
気怠くまどろみを誘う
四畳半の空洞に
秒針が時を刻む音だけが
響いていた
夢を見た気がする
天国の庭師が枝を落とした
鋏が溢れて星となる
願いを聞けば鋭く刺さる
そんな夢を
貝殻の中から覗く眼差し
見つめ合うは新海の姫
目が合ったことは一度も
そんな夢を
幽霊さえも躓かせる石
何度も躓いてしまうから
死んだことさえ気付かずに
そんな夢を
命の砂時計は角砂糖
甘い夢を見て眠りにつく
落ちても溶けても同じこと
そんな夢を
操り糸とピアノ線が絡まる
操られなきゃ動けずに
操られれば四肢が飛ぶ
そんな夢を
夜花が今更泣いている
朝露になるには遅すぎた
そんな夢
鳥の声さえ聞こえない
淡い眠気に囚われていた
昼下がりは憂鬱とともに
邪魔なほどに
飛び交う賛辞に
目が眩む
成功は枷だ
どれだけ
煌びやかな宝を
渡されようが
重みに耐えられぬ
脆弱な身体に
変わりは無く
きっとそのうち
身動きが取れなく
なってしまう
湧く有象無象の足元に
踏み潰された花を見て
私は思わず嘔吐した
心臓を穿つ
衝動に悶えながら
今日も
脂汗の滲んだ
笑顔を作る
手は振ってやらない
そんな動作に意味はないから
そっと本を閉じた
目を瞑ると涙が
溢れてしまいそうで
口を開けば嗚咽が
漏れてしまいそうで
放心したように
ただぼうっと手元を眺めた
それでもやっぱり
視界は歪み
喉がつかえる
あと一歩で泣いてしまう
そんな時
“終わらない”と
声が聞こえた
私達に終わりなどない
忘れるのが怖いなら
見に来れば良い
会いたいなら
会いに来れば良い
私達はずっとここにいるから
狡いじゃないか
そんな優しい声色で
そんな優しい眼差しで
私の心を撫で付けるなんて
ついに
ぼろぼろと涙が溢れる
それは想定より
ずっと暖かく
ずっと晴れ晴れとしていた
本の匂いがする
埃を被った古本のような
新しく刷られたばかりのような
それはとても心地良く
どこか刺激的な匂い
今日も私はノックする
新しく古びた
懐かしいようで新鮮な
通い慣れた部屋のドア
開けば
きっと貴方がそこにいて
紅茶を淹れて待っている
“ただいま”と言えば
本から顔を上げて
“おかえり”と返して
“さあ今日は、どんな話が聞きたい?”
と
手は振ってやらない
これは
さよならなんかじゃないから
空がやけに遠いから
見上げた首が逆さに落ちる
水面を蹴る
底の灼けたサンダル
弾けるように
飛沫が上がる
行き場の無い感情に
囚われたまま
何処へも行けず
燻むほどの青の中心で
立ちすくむ
意味もなく
胸が痛むから
助けを求めて
手を伸ばすけど
青にも白にも
手は届かずに
透明でいて空を切る
染まるのが嫌だった
僕は僕のままでいたかった
けれど今
手を見ると
ぐちゃぐちゃに混ぜた
欲張りな色が
細胞の奥まで潜り込んで
もう一生
拭えない
いらないのに
いらなかったのに
無ければ
生きてゆけないのだ
誰の声も
誰の歌も
灰色の雑踏にしか
聞こえない
あんなに鮮やかだった
君の声ももう
あの灰色に紛れてしまった
守りたかった
とっくに色を見失った
僕を守って欲しかった
目も眩むような壮大な夢を
胸が躍るような壮大な色を
いつまでも
大事に抱えて
けれど
幻想は
目を離した隙に掻き消える
汚されてしまった
いつのまにか
居なくなっていた
汚い僕が居るだけだった
空は綺麗だ
どこまでも青く透き通って
救いもせずに
ただそこにある
一面の絶景に
僕だけが
蟲のように醜く
未練がましく
貼り付いていた
どれだけ言葉を
飾ってみたって
それが届かないことに
変わりはなくて
眩しいくらいの幻想を
空っぽの心に
詰め込むだけ
煩いくらいの高鳴りを
両手の奥深くに
仕舞うだけ
酸いも甘いも
そこには無くて
ただ血のような
生臭い苦みが
口の中いっぱいに
充満していた
笑顔も真顔も変な顔も
全て等しく
緩やかに
残酷に
心を掻き乱す
怒りも憂いも喜びも
全て等しく
たった一つの視線で
面白いほど
操られる
どれだけ屁理屈を
並べたところで
それが恋なことに
変わりはなかった
足元が
波に浚われ崩れるような
感覚
削り取られた
角があったはずの場所を
てのひらでなぞり
爪先に吐いた
“そういうのはもう
恥ずかしいから”
その言葉を聞いて
また胃液が込み上げる
ぞわぞわと
全身に鳥肌が立ち
膝が震えて
立って居られない
素晴らしい夢物語を紡いだ
その口で
そんな
つまらない現実を
吐かないでくれ
美しい美しいその毒は
水なんかにならないだろう
禍々しく鋭いその刃は
今更溢れはしないだろう
自ら滴る猛毒を呑んで
自ら手に持つ刃で刺して
挑発的な笑みを引っ込め
無理矢理人の良い演技をして
個性を殺して
それは
そんなのは
貴方じゃないだろう
見ている世界が
あまりに狭いのだ
私はただ
箱庭を覗き込んで
生きた気に
なっているだけ
井戸ですらない
水溜りの底を浚って
光る砂利を見つけて
喜んでいる
滑稽で
愚かで
どうしようもなく馬鹿だ
そうだ
始まりはいつだって
突然で
そして終わりは
ひとつじゃない
いつまで閉じ籠っているつもりだ
いい加減
現実に目を向けろ
開き切った瞳孔を
引き絞れ
無理にでも光を見つけろ
苦しくても肺で息をしろ
そうしないと
人は生きられないのだ
倦怠感と微熱に囚われて
眠れない
このどうにもならない
感情の澱を
消して、ブルー
凭れたいだけだった
ただ
少しだけ体重を預けて
淡い安堵に浸らせて
酩酊感と哀傷の板挟みで
眠れない
脳内にまで染み付いた
薔薇の香りを
消して、ブルー
貴方に酔っていた
背中に回る腕が
熱く
私の理性を溶かしてゆく
焦燥感と未練に苛まれて
眠れない
甘く思考を鈍らせる
唇に乗った体温を
消して、ブルー
幸福と温もりは
一瞬の煌めき
私をすり抜ける雑踏
貴方は明後日を向いて
瞳を輝かせて
私の瞳を曇らせて
ああ
ブルー、
滑稽なほどに恋をした
哀れな私の身と心を
消して、ブルー
知らない子供の
噂で聞いた
夏が死んだらしい
幾ら何でも
早すぎるだろう
僕は信じていなかった
ドアノブを引いて
外に出る
風が吹いていた
青空が広がっていた
夏が死んでいた
風はただの風だった
空は青いだけだった
ぶわりと
吹くだけで
息が止まりそうな
風が死んでいた
目に沁みるほど
鮮やかで透明な
わたあめ雲を乗せた
青空が死んでいた
耳元で生命の絶叫をする
蝉が死んでいた
茹だった意識の手を引く
熱が死んでいた
景色を指で擦ったような
陽炎が死んでいた
夏が好きだった
僕が死んでいた
夏が死んでいた
これで最後だ
グラスに残る
ひと口を見つめる
身体が火照るような
ぼやけるような感覚
本当は
君に見せたかった
命の灯る美しい夜景も
静かに見下ろす星空も
それなのに
約束したじゃないか、
この
この、
嘘吐き
宛ての無い悪態は
視線の先の
真っ赤なそれに
溶けてゆく
徐に力が入らなくなり
椅子から転げ落ちて
のた打ちまわる
生理的かもしれない
涙が流れる
吐き気がこみ上げる
吐くな
まだ
まだ
駄目なんだ
空の小瓶の注意書きが
歪んで見える
これで最期だ
震える四肢を
無理矢理伸ばし
テーブルの前に
這い戻る
グラスを引っ掴み
底の一滴まで飲み干す
これで
また、
君に会える
ああ
苦くて苦くて
吐き出してしまいそうな
人生
みんな妥協のカプセル
飲み込んでくのに
私だけが往生際悪く
底を掻いて
水を吐いて
お綺麗な言葉も
出てきそうにないから
とっとと醜く
くたばっちまいたい
宵闇は別に怖くない
嘘怖い
けどそれよりずっと
醜い私を照らしてしまう
光が怖い
はずでした
理由はこの際どうでもいい
とにかく私はお前に会った
出逢った
お前は
サーチライトみたいな
凶暴な光で
私の目を潰しやがった
それ以来
そうさ知ってんだろ
そんで今
このどうしようもなく
ぐちゃぐちゃなテーブル
片付けてみようと思うんだ
嫌だね
今度は
甘くて甘くて
しょうがないのに
吐き出すわけにいかなくなった
食器棚が開いていた
透明な羽の虫が飛んでいた
風邪薬の箱が落ちていた
ペットボトルを踏んだ
画鋲が取れかかっていた
盛り塩が崩れていた
スマホのカバーを割った
サプリのチラシがはためいた
飴の包みを破いた
花壇が掘り返されていた
リモコンの電池が切れていた
近くの川で子供が溺れた
整髪料が切れていた
カレンダーをめくり忘れた
君が死んだ
蜂蜜が白く固まっていた
靴箱に蜘蛛の巣が張っていた
ウイスキーのグラスを買った
キッチンの小蠅を潰した
昨日の新聞を踏んだ
君が死んだ
空き缶が水を弾く音がした
イヤホンが絡まっていた
鞄の底のレシートを捨てた
ゴミ箱がマスクで一杯だった
枕から綿が飛び出ていた
牛乳パックが干してあった
時計が埃を被っていた
蚊取り線香が終わっていた
炬燵を出したままだった
乾麺が散らばっていた
饐えた匂いが充満していた
君が死んでいた
腐った水が飛沫を上げる
肺を覆う
生温い虫の吐息
頬を伝う
溝色の倦怠感
綱渡りから落ちている最中
足を進めるごとに
首のロープが
締まってゆくような
時間をかけて
積んだ石を
目の前で崩されて
いるような
そんな
錯覚
虚しくて
馬鹿らしくて
辛くて
もうこれ以上は
生きられない
いずれ土に還るものならば
それが今であっても
同じこと
ふと
頭上に確かな質感
借り物の言葉を安く飾って
表面だけの声で汚して
本当の言葉の意味を
分かっているのか
目先の流行りに
飛びついて
リスペクトの語彙で
泥を塗りたくり
雑音で想いを掻き消した
ダブルが主なスタンダード
機械には人権は無い
深ければ良いのだ
評価が全てだ
見られる価値しか
見てはいない
浅はかな考えだ
浅はかな人生だ
それに騙される奴らも
みんな揃って大馬鹿どもだ
どうせ
こんな想いは届かない
最初に言葉を生んだ者の
気持ちなど
雨のにおいがする
水溜りに跳ね返った
クラウンが
今日の王さま
傘が飛沫を上げて
逃げ出すまえに
停留所に辿り着く
赤いランプが水滴に
飾り立てられている
何を、
待っているんだっけ
ふと
我に返る
青ばかりが目立つ
まるで稚拙な
絵画のような
眼球に映る景色
レンズ越しと
何が違うんだ、
そう不貞腐れて
水が這ったあとを
指先で伸ばす
ずぶ濡れのスカートは
いつもよりずっと
綺麗に見えた
空に
地面に
逆さまに落ちていく
球の鏡と私の心
誰の唯一にもなれない
私は乾き切った
汚い愛の器であった
私が血を吐くほどの
愛を捧げようと
持つ者には到底敵わず
いっそ笑えるほどに
ちっぽけな
掌に残る愛のかけらを
見つめるばかり
愛されなくてもいい
ただ愛したい
だが
こんなにも穢れた愛を
誰が受け取ると
いうのだろう
毒にも薬にもならない
醜いだけのそれを
私が愛した者は
きっと
受け取りはしない
だからといって
嘆いても喚いても
死んだとしても
その時ですら
何者にも
看取られることはない
誰かの心に
ちいさな擦り傷を作って
この惨めな愛の一生を
ああ狂気よ
美しき異常よ
私を助けておくれ
私を
この感情の澱から
救ってくれ
狂気よ
私はそれを
否定しないよ
狂気の果てに
殺めようと
くたばろうと
それが醜くても
許せなくても
消したくても
否定しない
だから
この手を取って
疲弊しきった
この脳を
底の無い
思考の檻に
閉じ込めておくれ
陽だまりの真ん中
淡い光に溶けていって
しまいそうに
君が僕に
手を振っていた
はやる心臓を抑えて
君の名前を呼ぶ
いや、叫ぶ
消えてしまわぬように
拐われてしまわぬように
全速力で駆け寄る
まさか会えるだなんて
思わなかった!
喜びに震え
汗でびっしょりの手を
差し伸べると
君はそっと受け取った
あまりの感動に涙を流す
僕を見て
君はくすりと笑い
いつでも会えるよ、
__がそう望むなら
と言って
消えた
呆然と立ちすくむ僕
手元にはひと束の紙
それは途中までかいてあって
完成はしていなかった
僕はしばらく
それを見つめて、
踵を返す
すぐにでも
続きをかかなくてはならない
望まなくてはならない
だって僕がかかなければ
君に会えないのだ
貴方は特別な人じゃない
それは正しく
確かな事実で
しかしあくまで
世界にとって
私の世界は
貴方を中心に回っている
私は
貴方が起きるであろう
時間に起きて
貴方が食べるであろう
ものを食べて
貴方がしたであろう
姿をえがく
そうして夜も
貴方の夢を見て眠る
貴方という存在が
貴方という言葉が
私の目覚める理由であり
心臓を動かす理由である
貴方という世界は
今日も今日とて
歯に沁みるほど
甘ったるく
私の脳を侵してゆく
その痛みは
苦しみは
もどかしさは
もはや
恍惚ですらあるから
きっともう手遅れだろう
もしも貴方が
今更実在を否定したとて
私の
哀れに暴走した愛は
止まるわけがなかろうが
飛ぶネズミの騒めき
ひゅうと喉を通る
湿った風
子供が誤って手放した
色とりどりの風船は
灰色の空によく映える
横転したバス
火薬の匂い
冴え渡る笑い声
招待状
弾む心音
浮き足立つ胸ポケット
歩調は早歩きからスキップ
スキップからのターン
重々しく
聳える廃ビル
嗚呼
それもあと僅か!
盲目なんだ
白昼夢の隨に
薄れてしまうような
それなら
乱反射した
青色さえも
今は忘れていたい
湿気った
あの日の憧憬
釣り針に指先を
夕焼けに葛藤を
剥き出しの心臓を
宥めて
愛して
惨い
そんなのは反則だ
お前は
泣いている
ばかりじゃないか
鏡を殴って
怒鳴りつける
ああ
世界はこうして
終わるんだろうなって
人の死に
意味があってしまう
それは酷く単純な
須く消えたいような
これだけ
ぶつくさ言ったって
きっと誰の耳にも
届いてやいないんだ
ならば
さらば
さらば
夏の風
夜はあげられない
君は
苦笑いをしてそう言った
私は沈む太陽で
登る月だから
月が沈んで
太陽が登ったら
私のものじゃなくなるの
紫色の煙を纏って
無限の光を引きずって
君は夜になる
月の鐘が鳴るたびに
君は眠りの糸を紡ぐ
私はきっと夜だけど
夜は私のものじゃない
だから、
そう繰り返して
一層悲しげに笑う
いらないことを
言ってしまったと
今更悔いたところで遅い
こんなにも熱く
激しい季節が
物悲しいのは何故だろう
呑み込まれそうな
入道雲は儚くて
目に刺さるほど鮮烈な
青空は涙を誘う
刺激的なのと同じくらい
夏は寂しい
夏は悲しい
青が全てを浚ってしまう
波の音で霞んでしまう
ひりつく暑さに胸が高鳴る
それはきっと
夏に恋をしているから
ふと視界が翳る
闇を引き連れてきた
それは
涼しい顔で
私の人生を
踏みつけていった
私が死ぬほど欲した
それを
いくつもいくつも
掲げていた
血反吐を被る
天才とは
それは
凡人にとっての
絶望そのもの
凡人が
人生をかけて
作り上げるものを
凡人が
人生をかけて
理解することを
凡人が
人生をかけて
遺すものを
もうすでに
掌のなかに
なす術もない
劣等感
敗北感
今までに無い
焦り
妬み
憎しみ
憧れ
吐瀉物で溺れる
私は貴方の
慰み者
私は貴方の
癒しの木陰
冗談じゃない
その煌びやかな
足の下の
泥まみれの努力
知らないとは
言わせない
いつか膝をつかせてやる
いつか寝首を掻いてやる
笑顔は威嚇と
同義だという
今日も私は
微笑んで
皮膚の一枚下で
牙を剥く
明日を夢見ては崩れゆく
灰色の廃遊園地な脳内
そうかい
そんならここで
くたばろう
三、二、一で
トんでやろう
自傷にすら疲れた
愚民どもが今
恩を仇で返しやがる
ナメクジをピストルに
詰めて応戦しよう
ジョークは常套句だろ
ほら
ClownはCrownになり得る
からこそ
継ぐのが難しいんだろう
忘れ去られた夢の国の
我が王よ
悲劇の夜を笑おうよ
革命前夜に何を思うか
なぁ、どうよ?
無い
何もかもが足りない
大切だったものはすべからく
掌から溢れていった
欲しいものは
時間が経っても
金を積んでも
決してこの手は
届かない
妬みに嫉み
僻みに怨み
まずは
邪魔なこれらを
捨てなければ
目の前にあったとしても
手に入れられない
できたらとっくにそうしてる
一生手に入ることはない
一生離れることはない
もう本当に
いやになる
目に刺さるような晴天で
泡立った雲は際限なく
縦を横を白で埋め尽くす
ああまったく、
どうしようもない人生だった!
日は昇ったばかりと見えて
暗がりを抜けた尊い光は
そのうち燃えるような
赤に染まって
再び闇に溶けてゆくのだ
つまり、
全盛期なのだ!
青は歓喜と涙の色だ
目尻にたっぷり涙を溜めて
大笑いする
最高の夏だった
身を焦がす青空を前にしても
薄れないほどの夏だった
本当に
本当に、
最高の人生だった!
ああ、お前はまた
泣いているのか
忙しないな全く
いつまで頁を
広げてるつもりだ
さっさと閉じろ
いいや違うな
終わりなんかじゃないさ
おしまいなんかじゃない、
言うべき言葉があるだろう
ほら
めでたしめでたし
ゴミクズみたいな人生だった
黴と埃で濁った世界は
足元も見えなくなるほど
嫌いなものが溢れてた
劣った人を見下した
本当に最底辺だったのは
僕の方だった
自分より下を浚って漁って
不安と嫌悪が纏わりついた
粗探しをして時間を殺した
誰も彼もに見放された
何より自分が大嫌いだった
全てを悔やんでいた
そんなことすら
どうでもいいほど
脳内はとっくに
腐敗しきった
どこを見ても
泥と闇でいっぱいだった
生きた心地はしなかった
死んだまま生きていた
そこに
手が、差し伸べられた
暖かかった
光っていた
希望の色をしていた
笑っていた
いつのまにか
笑えていた
今も、
生きることは未だ苦痛だ
全部変わったわけじゃない
けれど
もう諦めない
明日を信じられるから
ありがとう
なんて言葉で表せない
きっと忘れない
終わらせなんかしない
ずっとずっと、ここにある
長いような短いような
例えるなら
闇を照らすには充分な
刹那の煌めき
思っていたより随分
呆気ないな
なんせ
エンドロールも
カーテンコールも
無いのだもの
惜しみない拍手を
君へ
君たちへ
ああ
ごめんねやっぱり
笑顔だけじゃ
済まなかった
でも涙を湛えたままじゃ
心が伝わらないだろう?
惜しみない拍手を
愛おしき物語へ
退場したあの子へ
君へ
それではまた、
いつか出逢う日まで。
貴方は言った
「刺激が足りない」と
貴方に嫌われたくなくて
私は刺激を作ることにした
椅子の底を抜いてみた
貴方は底が抜けても驚かないで
空気椅子で本を読んでいた
部屋を一面赤く塗ってみた
貴方はひと目見回して
「センスが悪い」と毒づいた
紅茶に塩を入れてみた
貴方は少し眉を顰めて
そのままぐっと飲み干した
カップを爆発させてみた
貴方は破片を放り投げ
新しいカップを取り出した
貴方は何をしても驚かない
ここに連れて来たときも
そうだった
声色ひとつ変えないで
「哀れな奴め」と
たったひと言
どうしたら貴方は
満足してくれる?
どうしたら貴方を
引き留められる?
私はあの娘になれないのに
貴方は笑いもしなく
なってしまった
どうしてよ
どうして私はダメな子なの
頭も悪いの
センスも無いの
愛し方も分からないのよ
私は貴方を幸せにできない
貴方を幸せにできるのは
あの娘だけ
私はあの娘にはなれないの
なれないのよ
それでも貴方は
あの娘じゃないと駄目なのね
私は貴方を引き留められない
きっと貴方は
あの娘のもとへ帰ってしまう
でもそれまでは
ほんの泡沫の夢を見させて
私は貴方を愛していたの
私は貴方と幸せになりたかった
私は貴方を幸せにしたかったのよ
本当よ
愛していたの……
乱入失礼いたします
とても素敵で、惹き込まれます…
ファンになりました。
>>298
ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。
自己満足のつもりでしたが、褒めて頂いて更にファンにもなって頂けるとは、とても嬉しいです。
きっと、詩も喜んでいます。
貴方が何か見るたびに
貴方が何か言うたびに
血反吐を吐く
思いがする
それのひとつひとつが
私に向けられたものなら
どんなに良かったか
そんなふうに
考えていることすら
吐き気を催す
自己嫌悪を呼ぶ
ああ気持ち悪い!
汚らわしい!
愚かしい!
私はこんなにも
醜い
汚い
惨めったらしい!
私は愚かな邪魔者だ
私は当て馬
かませ犬
泥棒猫だ
私さえいなければ
貴方はきっと幸せになれる
私さえいなければ!
けれども今更
貴方への想いを
捨てられない
部外者の自覚はあるのに
それでも貴方を愛していた
貴方を愛している
それだけは確かだ
それだけ、
私にはそれだけしかない
それさえあれば
別に良いんだ
貴方に愛されなくとも、
最後の恋だった
惨めだけどまっすぐで
淡くて長い恋だった
あなたへ渡すラブレターを
書いていた
可愛く見えてくれるように
少し気取って
いつもはあたしと書くところを
わたしと書いたの
あたしがわたしになった瞬間
結局渡せはしなかったけど
あたしをわたしにしたのは
確かにそれはあなただった
あなたのせいで変わったこと
食べ物の好み
字の癖
シャンプーの香り
沢山たくさんあるけれど
1番覚えているのは
それなの
ただの女の子が乙女になった
あなたのせいで
あなたのために
あんまりじゃない、
マイハニー?
あたし貴方の愛の奴隷よ
貴方だけの籠の鳥よ
三歩後ろを歩いたのは
貴方の落とし物を
拾うため
貴方と食事を摂らないのは
貴方の残したものを
食べるため
お喋りせずに
黙っていたのは
貴方の話をよく聞くため
貴方と目を合わせないのは
貴方に吐かれた毒の言葉に
耐えるため
貴方への称賛を
貴方への感情を
貴方への愛を
全て言葉にして伝えたわ
全部全部ほんとうだから
貴方の暴言を
貴方の嫌味を
貴方の愚痴を
全てまじめに受け止めた
全部全部我慢したのよ
これが愛じゃないと言うの
あたしだって
貴方への怨み辛みを
詩にしたって良かったのよ
それをしなかったのは
何故だと思う?
それがあたしなりの
愛だったのよ!
それら全部を
独り占めしたかったの!
いくらあたしでも
“ご褒美”が無きゃ虚しいわ
今までずっと
あたしなりの愛を
伝えたつもりよ
けれどそれも
意味がなかったと
そう言うのね
ああ、悲しいわ
マイハニー!
そこらの女とは違うから
あたしだから
耐えられたのよ
ほしがりさんも
度が過ぎると
可愛くないのよ
だから、ねぇ?
分かるでしょう?マイハニー
光も心も失って
どうしようもない
ド腐れ生命
酸素も水も無駄なんです
寝るのも動くのも面倒です
横たわった敗れた夢とか
輝いたはずの日々とか
失ったから
見落としたから
もう戻れはしないから
やるせなさを噛み砕いて
苦い味が舌に残って
息が詰まる
後ろめたさを振り解いて
それでも未練が
張り付いて
逃げる体力は残ってない
遂げる気力は残ってない
永遠に生きるなんて
無理ならもう諦めよう
僕が死ぬか
世界が終わるか
そうでもしないときっと
変わらないんだ
震えた声で虚勢を張ろうが
ひび割れた傷口を隠そうが
いつまで経っても臆病な
心が拒む
「まだ癒えない」と
駄々をこねる
いつまでこんな風に
目を逸らせば良いかな
ああでも
駄目だね
まだ
動けないや
あぁ
僕はいつまで
トミカを拝めば気が済むのだろう
気づけばトミカコーナーで
新車を探してる
もう中3だから
トミカなんて
と思うけど
不思議と拝むのが
いちばん安らぐんだなあ
レミングさんのポエムは世界観が通っていて良いと思います。
テンポも良くて読んでいて気持ちが良いです。
>>305
ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。
一人ひとり別の思想と感性があるように、詩もそれぞれ別の世界があると思って書いております。その一つひとつが混ざり曇ってしまわぬように気をつけているので、そこに着眼して頂けてとても嬉しいです。
挑戦者さんの詩、拝見しました。
挑戦者さんの詩は随筆のような現実感と鮮明さがあって、どこか他人事でないように思える、とても良い詩だと思います。
穏やかな笑みを浮かべ
寝転がるきみ
まるで死人みたいね
まるで!
それじゃあ
お葬式をしてあげなきゃ
棺桶に入れて
死化粧をして
黄色い薔薇を
手向けてあげる
後悔してね
たくさんたくさん
いいえ違うわ
これは恋じゃないの
恋になれなかったの
愛してもないくせに
可哀想にね
人は呼んであげない
きみには
お友達がいたものね
たくさんたくさん
私以外に
一輪だけの
黄色い薔薇が
色とりどりに
汚されてしまう前に
きみを
きみに
妬いてあげる
後悔してね
たくさん
夏の風が吹かなくなって
煙る熱気が息を潜めて
「夜が長くなったね」と
君が言う
夜は嫌いだ
君に会ってしまうから
鉛のような僕を放って
射干玉の世界を
君だけが
白い月と軽やかに踊る
僕を放って
朝は嫌いだ
君が離れてしまうから
何も知らずに君は
笑うんだ
汚い僕に無邪気に
淀んだ僕にふわりと
涼やかな微熱
手は届かない
僕は醜い感情で
重たくなっていくのに
暗く深く沈んでいくのに
君だけ綺麗なままなんて
ずるいや
今日死したあなたたちへ
心からの労いを
熱い抱擁を
破れんばかりの喝采を
その死には
意味があるでしょう
その過去には
価値があるでしょう
その功績は
讃えられるべきでしょう
白花を添えて
心からの労いを
熱い抱擁を
破れんばかりの喝采を
揺れる触れる
気がふれる
きっと
貴方もそうして
しまっていたい
でしょうから
もっと
私の分だけ
抜き取ってしまえば
楽でしょうから
私
貴方じゃなくていいの
貴方
いつまで
そうしてるつもりなの
ねえ前後不覚
念も深くその
『さらば』に意味を
塗りたくって
思い出よりも
浸っていたいのなら
ずっと
心酔しちゃってる
ことでしょうから
私
気付いてしまったの
貴方
いつまで
そこにいるつもりなの
ねえ意味無くなる
息が詰まる
ほら
馬鹿みたいでしょう?
って
そんな
ただのうらみごと
「夜を奪ってやろうか?」
慈愛に満ち満ちた目で
あなたは
そう語りかける
一寸先は目を焼く光
足元は腐って今にも抜ける
返す踵は擦り切れた
私は迷う
返答に
道に
ずっと前から迷っていた
夜は停滞の温床
寝床で『朝』から
目を逸らす
光に晒されるのが怖くて
自らの醜い姿を
見たくなくて
絶望するのが怖くて
希望を掲げる
勇気もなくて
ずっと
夜で腐っていた
空想の出涸らしを絞って
頭痛の擦り寄る
惰眠を貪る
呼吸をする糞袋
それが今の私
このままではいられない
分かっているけど
「だから」
あなたは再度笑みを深める
「意気地なしの代わりに
俺が追い出してやろう」
__夜から。
君はよく言っていた
「やりたいことが多すぎる」
生きてる間に
やり切れると良いんだけど
そんなお決まりの冗談
やりたいことがたくさんある
いつでも君は言っていた
世界一周してみたい
激辛料理を完食したい
本を出してみたい
ウユニ塩湖に行ってみたい
スリーポイントシュートを決めてみたい
お米だけ山盛りで食べてみたい
夢の世界を誰かに見せたい
山を買ってみたい
髪を真っ青に染めてみたい
漫画のキャラクターになってみたい
超能力者になりたい
誰かの恋人になってみたい
家を建ててみたい
鏡の奥の世界を知りたい
猫を飼ってみたい
お化け屋敷を攻略したい
「ここまで全部ください」って言いたい
虫に名前をつけて飼い慣らしたい
崖から飛び込みしてみたい
ピンヒールを履きこなしたい
誰かと入れ替わってみたい
刀を振り回してみたい
拾った傘を持ち主に届けたい
奇跡の一枚を撮ってみたい
バイキングでスイーツだけ食べてみたい
ヴォイニッチ手稿を解読したい
幸せで泣いてみたい
100人を泣かせてみたい
100人を笑わせてみたい
そんなやりたいことを
いつまでも思いついていたい
やり切れなかったことは
救いだったのだろうか
君はもっと
カラフルな服が好きだったのにな
モノクロのスーツを見て思う
「trick or treat?」
可愛い君が囁いてねだる
相も変わらず
かび臭いマントで
私をすっぽり包んで
笑う
月の光に照らされる
君は特別美しい
でも残念
私はお菓子を持ってないんだ
冷たい冷たい君の手を取る
熱い熱い情を声に乗せて
ねえ可愛い君
私に“いたずら”してみてよ
背後から驚かせる?
冷たい水を浴びせてみる?
……違うでしょう?
ほら首元をくつろげた
見えるでしょう?
青く脈打つ私の命が
分かるでしょう?
それは君にとって
最高のデザート
釘付けになった君の瞳に
仄かに赤が灯りだす
笑みの深まりと共に
剥き出す牙が
銀色の月明かりを浴びる
あどけない表情
しかし想いは
ひどく熱っぽい
君、昔から何も変わらないなあ
……分からない?
でも良いんだ
それで良い
君にとっては
trickもtreatも同じだったね
好きにしなよ
今日は君が主役なんだ
切り裂く木枯らしに
目を瞑れば
美しく絶望を運ぶ
純白の雪にも気付けない
刹那主義でいこう
所詮は馬鹿のキリギリス
つまらない言葉に
耳を貸せば
泡沫の夢も見ずに死ぬ
人生は冬
死ぬまでに打ち立てた
虚像だけが
春を迎える種となりうる
何も無い
何も得られない冬に
騙し盗み奪ったものだけが
命の証となる
傷を負いつつ
醜美を焼き付けるか
身を惜しんで
半端な風に屈するか
何の為に生きる?
遺るものなど皆無と言うに
それでもと手を伸ばすもの
全ては雪のように
儚いと知って
それでもと希う望む
愚かであれどそれがひと
厳しい冬を超えられなければ
春はやっても来ないのだ
夜が晴れない
せめぎ合う感情が
クロゼットを浸してゆく
朝を纏えない
透き通るほどの感傷が
未だ舌に残っている
笑わないで
こっちを見ないで
僕が生きてるって教えないで
カメラほど精密じゃない
日記ほど正確じゃない
ただ仕舞われた
ただ遺された
傷
冷たい秋風
紅葉狩り
虫食いのない葉を
ふたりで探して
集めて
視界が真っ赤に染まった
綺麗な綺麗な赤だった
「もったいないね」と笑う
君の鼻も頬も真っ赤で
それがとても可愛くて
何だか私も笑ってしまった
そんな記憶を
掘り起こしてしまうほど
赤い
君のくちびる
どうしたの
なんて聞かなきゃ良かった
知らない声
知らない名前
知らない顔
知らない君
綺麗だよって
ごめんね、嘘だ
透明な季節を過ぎて
大人の赤に色づく君は
この手も届かないほど
遠くなってしまっていた
舞い踊るか狂気
なんと美しい、と息を飲めば
次の瞬間首が落ちていた
刹那の夢幻
逃避行
眼と魂を焼く燦々たる光に
心臓に
鋲を打ち込んで
嗚呼暮れない
日の落ちたあとの感傷が
止まない
完全なる悪意をもってして
たった今罰が下った
後の祭りの延長戦
それを諌めるコールドゲーム
潮騒のような歓声
目も当てられぬ惨状
メサイアすらもかぶりを振った
それは愚痴かと問われれば
否と答える他無かろう
洗脳だと気付いている
気付いていることに
あなたは気付いていない
「愛してるよ」
今日も今日とて
投げかけられる言葉
その瞳は私を見つめていて
それでいて空虚
知っているの
擦り減るほど唱えた愛
私を縛るための嘘
気付いてる
ここに愛なんか無かった
あなたから私への愛なんて
最初から
だから返す
「私もよ」
あなたを信じているんじゃないの
あなたを傷付けたいの
これは愛?
わからない
わからないけど、わかってる
これはほんの執着のたまご
知っているけど
知らせない
気付いてることに
気付かせない
そして
いつか咲かせる逆転の華
それが私のあなたへの復讐
ざらつく舌をなぞった
その嫌悪すら決して
知らせないままに
濁った瞳
見ていないのね
狂った日常
気付いていないのね
対象になる気概も無いくせ
likeでは済ませないのね
俯くことすら許されない
首を捻ることも
応えないことも
君の息の根
止めてしまわぬ様
怨みごとを全部
吐き出してしまわぬ様
今日を明日にするため
今日を終わらせるため
深く深く息を吐いた
夢見たのは私のいない世界
私がいなければ
上手くいなかった
こともあるでしょう
私がいなければ
上手くいったはずの
こともあるでしょう
私がいなければ
この世界は
それはつまらないでしょう
私がいなければ
この世界は
それは平和になるでしょう
私がいなければ
君がここに来る
ことはなかったでしょう
私がいなければ
君はここを去る
ことができたでしょう
私がいなければ
君は
幸せになれたかもしれない
私だけがいなければ
不器用な愛を
どうか受け取らないで
この手を
どうか握らないで
君が君でいるために
いつかきっと
君のいるべき場所へ
帰ることができるように
いつかきっと
こんな私のことを
忘れることができるように
淡い蒼いろの街をあるく
日はおちて
月がのぼって
金星がひかっている
透けてしまいそうな指先を
ぎゅっと握り込む
私はどこにいるのだろう
君はどこにいるのだろう
私はなにになるのだろう
君はどこに行くのだろう
探してみたけど
見つからない
追いかけてみたけど
追いつけない
空虚な先をすすみながら
振り返ることもできない
君の姿を確めるのが
怖くて
後ろに伸びた影を
見ないふりして
くらくなるのを待つ
まちがいを
見なくてすむように
正さなくて良いように
さてその仮定
この惰性で続けた
こんにちまでの日
憧れ妬みに嫉みに恨み
それらも全ては
愛ゆえの狂気
その視線の先が
何処へ向かおうと
きっと迎えに行くからね
私はアナた
挿れるためじゃなく
落ちるための
さぁ堕ちて頂戴
目指すは将来
分かっているでしょう
逃げさせはしないの
この手をどうぞ
どうか取って!
恐れていた病魔が
たった今目を覚ました
重く首をもたげた
膿の詰まったつま先が弾けた
燻ったままだった
腐りかけの生まれかけの
心臓を穿った
目を焼く光に心ごと焦がれた
その妄念に手を伸ばしていた
触れたが最後
触れたが最初
堕とされていた
生きていた
自覚していた
笑っていた
狂っていた
救われていた
届かない手なら
いっそ折れてしまえと哭いた
ただ目指した
誰に褒められようが
謗られようが
関係なかった
ただ目指した
目も霞むような天の頂を
ただ
ただ
それだけを見据えていた
けれど
ほんのひと刹那
その光のかたちを
捉えてしまった
それは到底
皆を照らす光などではなく
昏きに誘う闇などでもなく
思考を奪い心を焦がし
ソラに昇らせまいとする
光を知り
脚を掬い心を惑わし
奈落の底に留めんとする
闇を知り
それでもなお
震える脚で立ち上がり
眩しいほどに輝く
それはまさに
“偶像”
ああ
それは
そんなものは
魂が凍りつくのがわかる
冷静になれば気付いてしまう
まともになれば分かってしまう
研いでいる刃は
内から腐っていると
生を受けた時点
発った場所が違うのだと
この生には限界があり
そして
終点に辿り着いたとて
その頂点に届きはしないと
ああ
それならばと
声が涸れるほど
ただ
手よりも先に
折れてしまった心臓を
未練がましく抱えていた
空を見上げていた
右には地獄が広がっており
左には虚無が広がっていた
後は誰かが隠してしまった
前には何も無いというのに
青は
思わず竦むような群青は
進むしかないのだと
叱咤した
橋が落ちていた
空き家が連なっていた
森が燃えていた
道が塞がれていた
死体が転がっていた
誰もいなくなった
それでも
時計の針が止まっても
時間は進むしかないのだと
頬を伝う
それが傷に沁みる
過ちを
違えてしまった真実を
憎みながら
ただ足だけは
止めてはならないと
青が
誰かが
僕が叫ぶのだ
それはまるで
在りもしない夢物語のような
美しい情景
寄り道にもならない
そんな刹那に
酷く心を惹かれてしまって
まばたきよりも早く
目の前を通り過ぎていった
極彩色を
追いかけたくなった
その夢の
続きを描くのはあまりに無粋で
ifを書くのはあまりに虚しい
それでも
惜しいと思ってしまった
鮮やかで
ふざけていて
無意味で
それでいて愛おしい
幼稚でも
確かに素晴らしき
ひとつの世界
そんな
不安定で曖昧なものに
枠線で形作られた自由に
望むべくもないはずの希望に
一瞬の永遠に
あなたに
恋をした
貴女は何になりたかったの?
答えて、メアリー・スー
貴女は彼に愛されたかった
貴女は彼を愛していた
貴女は彼に愛されない
復唱して、メアリー・スー
貴女は彼に愛されたかった
貴女は彼のために偽った
貴女はエゴのままに偽った
答えて、メアリー・スー
貴女は彼に愛されたかった
貴女は貴女のかたちを捨てた
貴女は貴女の名前を捨てた
復唱して、メアリー・スー
貴女は彼に愛されたかった
貴女は彼に愛された
貴女はもう、貴女でなかった
答えて、メアリー・スー
貴女はそれで良かったの?
貴女はそれを望んだの?
貴女の望みは叶えられたの?
貴女は彼を愛していた
心の底から愛していた
彼が愛したのは貴女なの?
彼に愛されたのは貴女なの?
彼を愛した貴女はどこへ?
答えて、メアリー・スー
何もかもを捨てたもの
何もかもを失くしたもの
何もかもを忘れたもの
何者でも無くなったもの
誰でもない私
ねえ、メアリー・スー
君の本命になりたいな
君の本命になりたい
君から香る
知らないシャンプー
スクロールしきれない
新着メッセージ
ポストからはみ出た
ラブレター
サイズの合わない
汚いTシャツ
君から溢れる
知らないだれかの
どろり
君の本命になりたいな
最近ほんとに思うんだ
君の本命になりたい
どうしても
君を嫌いになれない
君を殺せない
贅沢は言わないからさ
せめて
君がその厚化粧を
落とす日が来たら
君が君でいたく
なくなったら
そのときは
君を繋ぎ止める術なんて
知らないから
ずっと傍にいたい
なんて言わないからさ
せめて
死ぬ時くらいは一緒がいいな
私が満ち足りない世界
握りしめる燻んだ一色
見上げるだけの虹
両手に掬い上げる誰かが
憎くてしょうがないけど
汚い薔薇色の吐瀉物
搾り出して
握り直す古びた鉛筆
残されたただひとつの道
何も無くて成すことなんて
到底出来やしないけど
完成しない
ハッピーエンド妄想癖
現実を見ろと何度
バッドエンドを突きつけられた
何でもない
言葉なんていらない
変わり映えなんてしなくたって
日の目を見ない
浮かばれやしない
劣等感に押しつぶされたって
マイナスで終わらせたくはないんだろ
何だかんだ奇跡を期待したいんだろ
下劣最低見苦しくても
これこそが私の最高点だって
最近
空が青くないんだってね
ざまぁないって思ったよ
今更お前に
興味なんざ無いけどさ
どうだい?
承認欲求を塗りたくった
自我を見せびらかして
裏切られた感想でもひとつ
溝でも浚って探してみなよ
唾飛ばして語った理想とやらを
ああ良い夜だね!とびきり
このご時世じゃ珍しいくらい
救われたい自覚があるから
救われない覚悟しといてよ
救われない私を笑って
救った気になってた愚かなお前
随分と平凡に生きたものだ
なんて自分で思う
気怠い生ぬるさの中生きている
死ぬ気なんかひとつも無いまま
悔いのない生涯なんて不可能だ
だって時間が足りないのだから
何を成すにも
造るにも
終わらせるにも
人生はあまりに短いのだ
納得のいく幕切れは
どうやら期待できそうにない
しかし
それでも
限られた時の中で
満足なんて夢と知って
悔いのまま死ぬとしても
無駄に無力に生きるとしても
それでも足掻くのが
人間というものなんだろうか
それならば
なんて素敵なことだろう
形だけの心臓なんて
いらないわ
真っ赤に脈打つ中身なんて
とっくのとうに当の貴方に
盗られてしまっていたんだもの
雨風に晒される
冷え切った身体
きっときっと明日こそ
そんな期待を踏み潰されてきた
初めて触れた確かな温度
それがたとえ
幻であったとしても
ええ
好きなようにすると良いわ
心は此処に
貴方と共に
今
視界に広がる浮ついた目
後悔に怯え震える眼が
それでも良いと迫るのならば
心臓なんていらないの
ああ、きっと今
たった今失くしたの
傘を
肩にぶつかる水の弾丸
冷たくて
染み込んで
もう二度とは拭えない
救えない
ええ、分かっている
防げない
寒さも不快さも
笑えない
笑えないの
あなたがいなきゃ
私病んでしまうわ
雨に打たれて生娘のように
咳をしては愛を吐いて
嚔をしては哀と泣いて
それでも駄目なの
あなたはもう
傘をさしてはくれないの
もう、何度目かの恋をした
彼には大切な人がいる
私よりも
誰よりも
自分でさえも二の次なほど
とってもとっても大切な人が
私はどうしたって一番になれない
いつもそうだ
ずっとそうだ
今までの全ての恋は、
恋以外のなにかに破られて
私はいつだって
蚊帳の外で
視界にすら入れない
思考にすら入れない
私の存在は埃の一粒に等しい
見た目を磨こうと
内面を磨こうと
何もかも、
意味はないと知っている
知っているのに
また、恋をした
それはまるで、
寄生虫のような
蠢く恋
意志など端から無かったように
あなたのために生きている
わたしの中で
あなたが生きている
脈動している
支配される身体
侵されていく
すべて
あなたを離さない
寄生する恋
心臓に絡みつく脈動
あなたの
細胞のひとつまで
足元をすくわれたように
一転する視界
ぐらりと揺らいだその先に
眩しく煌めく光のかたまり
それが何だか
ものすごく美しく見えて
ものすごく哀しく思えて
ものすごく欲しくなった
追憶するは在りし日の夢ごと
あの頃はただ虚しくて
纏わり付く光の粒が妬ましくて
瞬きさえも鬱陶しくて
涙も枯れるほど
恋焦がれていた
人生の根本から
すくわれてしまったように
あなたに出会って
変わり果てた人生
それは存外、悪くない
ヒーローになんてならないで
偶像になんてならないで
誰かの理想が貴方を汚す
誰かの想いが貴方を縛る
誰かの祈りが貴方を×す
ヒーローになんてならないで
誰かを救おうとなんかしないで
御伽に騙られた貴方は まるで傀儡
あんなに輝いた過去は
今や曇り硝子の向こう側
差し伸べた手は千切れてしまった
掬い上げた腕は捥がれてしまった
守ろうとしたものは
何処
ヒーローになんてならないで
笑いながら泣かないで
きっと貴方も救われたかった
ねえねえねえ
あなたにわたしは救えるの?
ねえ
あなた わたしを救ったつもり?
ママはわたしに優しいの
嫌なことなんにもしないのよ
良いこともしてはくれないけれど
それでもわたしはしあわせよ
パパもわたしに優しいの
上手くできたら褒めてくれるわ
失敗したらきつく叱られるけど
それでもわたしはしあわせなのよ
ねえ
しあわせなのよわたし
しあわせだったの
知らなければ
知らなければしあわせだったの
ねえ
ここに愛が無いだなんて
どうしてそんなこと言うの
どうしてそんなこと
どうしてそんな ひどいこと
幸せな夢から引きずり出して
汚い現実に顔を漬けさして
『お前のいた場所はこんなにも』なんて
ねえ
ねえねえ
愛してくれるわけでもないくせに
救ってくれもしないくせに
どうしてくれるの
ねえ
後悔しています。
340:レミング◆yc:2023/01/17(火) 22:55 月が綺麗だね
今日はどこまで行こうか
昨日より遠くへ行こうよ
空気がつめたくて気持ち良いね
鳥がとまってるよ
水辺がキラキラしてる
風が吹いているね
雨の匂いは久しぶりだ
花が咲き始めたみたい
街灯が無くてもよく見えるよ
いつからだろうね
星が瞬いているよ
いつからだろう
月が欠けないね
いつから?
君はどこにいるの
太陽が昇らなくなったね
人の声が聞こえなくなったね
毛布がないと寒いね
光が眩しいね
君はいつから喋らなくなったの
君はいつからここにいたの
昨日はないよ
明日もないよ
君とずっと今日のまま
ずっと消えない夜のまま
変わらない景色に歌でも唄おう
君が寂しくないように
僕が消えてしまわぬように
またいつか
君と笑って出会えるように
ああ!
全くもって許し難いねその愚行
反撃も意図してない?
それこそ愚の骨頂!
売られた喧嘩は高く買おう!
さぁルーラー、
すぐさまレートを上げてくれ!
是非最高値で買ってやるから
言い訳は無用?
正当防衛まで割愛かい
ああまるでやってらんない
幸先はお前の屍のその向こう!
突然の暗転
お涙のヒステリー
ほら次第にメランコリー
聞くも語るも失笑まじり
散々な人生なんです
デバフなんかも盛っちゃって!
平均以下を誇っちゃって!
さてそろそろ競りは終わった?
感性マグロちゃん!
あんたのいない寝覚めが嫌いだ
呟けば
一秒待って へらりと笑う
気に食わない
緞帳は降りている
最初から
ここはぼくらの独壇場
誰にも邪魔されない
誰にも見つからない
星が舞う
雨がふる
それを見ている
たにんごと
あんたの隣でしか
息が吸えない
カーテンが揺らめく
真空
ブルーサイダーの夜
闇夜を照らす
あなたの微笑み
その輝きを閉じ込めた幾億の宙が
今夜もあなたのためだけに歌う
星々の瞬き 交響曲
それらを指揮するのは私
あなたという光に導かれて
無粋に彷徨う陽光は
やがて喪われるのでしょう
白夜の微睡み
永遠の彼方
繰り返す音色に身を委ねて
朝の来ない儘
夜に囚われた惑星で
いつまでも
あなたを歌っていられたなら
狂える綺羅星の煌めきに
網膜を焼かれた者同士ならば
あなたの創る私の旋律が
この宇宙の全てを彩る
美しい夜に祝杯を
明けないように鍵をかけて
永遠の真似事をしよう
金星を醒ます歌声を
君だけに聴かせてあげる
緞帳を降ろして
カーテンを閉めて
この舞台は僕らだけのもの
拙い演技などやめてしまって
僕は君の小夜曲になりたい
迷える仔羊に暖かな光を
眠れぬ君に甘ったるい闇を
穴兎の白昼夢
恍惚と憂鬱
紛い物の救いをもう一度
星座のパレードを眺めながら
片手間の愛でも語り合おう
どうせこの世界は終わるのだし
神様ぶった僕の仮面を
どうか君だけが撃ち抜いてしまって
あなたがあなたという光であり続ける限り
私の世界はずっと美しいままだ
『アッブルパイの唄』
・おいしいよな
アッブルパイ
大好きなんだよ
美味しいのに
理由なんかないさ
単純に好きなんだよ
大好物さ
甘ずっぱい
カリッコリッの
毎日たべても
あきない
アッブルパイ
『三つ葉の付箋』
・ボクの三つ葉の付箋
三つ葉の付箋
ボクのだよ
すごく大切にしてるんだ
あの机の上の本に
挟んでいる
付箋だよ
ボクの付箋
>>346 >>347
無邪気な子供のような、可愛らしい詩ですね。
真っ新であどけないようでいてどこかノスタルジーを感じ、ふと子供の頃を懐古してしまいます。
空中ブランコで宙を蹴った
土星が泣いている
君が玩具を取り上げたから
沸き立つ雲は
燃える快晴は
みんな君を責め立てていた
被害者だった
そんなような気がしていた
帰り道には飴を買って
水銀製の蛇口で手を洗おう
ひとり多い遊戯場から目を逸らして
ちゅうぶらりん
インスタントカメラには映せない
焦燥 懐古 狂悦
二度と帰ってこないでね
虹が滲んだ雨上がりは
もう全く煙ってしまっていて
君の顔はわからなかった
青と藍の境目を探そうか
斑模様にピントが合わないうちに
夏と冬の境目を探そうか
飽きが来ないうちに
浮かばれない声が
聞き取れないうちに
貴方だけを見ていてあげる
鍵穴の外側から
孤独な貴方を
惨めな貴方を
大好きな貴方を
亡霊なんかに盗られた貴方を
怨嗟と呪詛が聞こえてくる
鍵穴の向こうから
私はそれを子守唄に
今日も眠りにつこうと思う
貴方は夜な夜な吐き出している
切らなくても擦らなくても
吐き出されるそれは
紛うことなき血の想いだ
飲んであげる
苦くて酸っぱくて
嫌な匂いのするそれを
全部残らず飲みほして
私の喉を焼いてあげる
ね
貴方 私を好きだと言ったのにね
月明かりに夢見てしまったのね
可哀想な人
ねえ
まだ許してあげるから
少しだけ私を見てちょうだいよ
まだそこに戻ってあげるから
みんなみんな忘れてあげるから
ねえ
ねえ……
貴方が死んだら
そうしたらきっと私
貴方のお家に行って
貴方の嫌いな人を
みんな残らず殺してあげる
棺桶に眠る貴方を見て
鼻で笑って
攫ってあげる
空っぽの底に
菊の造花を一輪残して
だからね 今日も見守ってあげる
鍵穴を覗いて
饐えた匂いの箱庭に
たったひとり閉じ込められた貴方を
ずっとずぅっと見ていてあげる
桜の樹の下には
今日に至るまで
何度繰り返された詩だろう
桜の樹の下には死体が埋まっている
憂鬱の彼は考えたのだ
満開の桜があまりに美しいから
それには対価があるに違いないと
桜の樹の下には死体が埋まっている
では、
桜を前にしてなお輝くばかりに美しい
あなたの足元にも
死体が埋まっているのだろうか
桜の樹の下には
あなたが踊るように歩む
全ての道の先にも後にも
死体が埋まっている
それを足蹴にしておきながら
養分を吸いさえしない
あなたの完璧な美しさは
あなたのみで完結する
あなたの下には
淡い花曇りの空の下
咲き誇る幾万の花の下
死体が
色素の薄い虹彩が
全ての輪郭を溶かす
埋まっている
桜の樹の下
その上に立つあなたの足元には
死体が埋まっている
風に乗って運ばれる微かな香りに
満開の桜さえも霞むようなほほえみに
あなたの足元になら
埋まってやってもいいとすら思った
あなたの下に
あなたの
花弁を踏みつける足取りの
なんと軽いことか
救いの無い因果だと吐き捨てた
安酒の酔いは未だ醒めやらず
洗浄しきれない橙が
喉の奥に溶け残っている
盛り立てた奇跡は
感謝さえ取り溢して
水溜まりに映る空中庭園にすら
希っていた
明る日の後悔が呼んでいる
帰り来る憧憬が死んでいる
投げ出すこともできず、
ただ百年後の白夜に怯えている
砂粒ほどの結晶が
空気を圧縮した白色が
あの日からずっと
俺を責め立てている
双葉はもう芽を出さないよ
お前が摘んでしまったから
レコードは音を紡げないよ
お前が初めを壊してしまったから
あの子はもう戻って来ないよ
お前があの子の匙を奪ってしまったから
お前があの子の朝を奪ってしまったから
救いは
あったはずだった
お決まりの因果だと吐き捨てた
朝の次には昼が来て
昼の次には夜が来て
起きれば朝になっているのだから
それらが地続きなのだと
てんで疑いもせずに
例えば
雨の夜にワルツを踊るとか
ふたりでドレスを着るだとか
一度死んでみたりだとか
あなたとしかできないようなことがしたい
あなたとしか分かり合えないことがしたい
甘い甘い瞬きは
まるで永遠みたいに感じられて
子どもの頃みたいに笑いたい
恋するみたいに死んで生きたい
そんな
そんな ふたりだけの箱庭
屋根裏部屋より微かな光
糸を紡ぐより微かな音
ただ流れ合う時間だけを
あなただけを いつまでも見つめていたい
カーテンを閉め切って
光さえも締め出してしまって
無粋な言葉なんかも無くて
今更何を言ったってきっと
あなたに似合いの言葉なんて
存在しやしないのだから
ただ
私があなたの名前を呼んで
あなたは何も言わず
そっと心音を寄越すような
そんな
ふたりだけの箱庭
昨日昇っていたはずの
太陽の色が思い出せない
最後に空を見上げたのは
いつだった?
最後に眩しさに目を細めたのは
いつだった?
最後に、あの青色を見たのは
鉛筆で描く空には
綿のような雲があって、
歯車のような太陽があって、
夜空には三日月が浮かんでいて、
五芒星をいくつか散らして、
その全ては
一体いつから記号になったんだろう
今日昇っていたはずの
太陽の色が思い出せない
明日はまた見られるだろうか
まだ間に合うだろうか
あの歯車でない太陽を
熔岩の星でない太陽を
まだ、私は、私のこの目は、
太陽好きっすね✋️
356:レミング◆yc:2024/11/07(木) 17:01 >>355
同意していただけるのですね。
私は太陽が好きです。私の愛する世界の全ては、太陽の反射光で構成されているので。
いっぱい文字書けてえらいね😅
358:レミング◆yc:2024/11/19(火) 00:42 >>357
ありがとうございます。
一行以上文字をしたためると心が落ち着きますよ。どうか試してみて。
あなたは秋が似合うね
郷愁って、ほら
秋が入っているから
私きっと
あなたの胎から生まれたの
だから還りたくて私
あなたを見ると悲しくなるの
疑ったことなんてなかった
あなたのいない人生なんて
思ってもみなかった
考えたこともなかった
だって私
あなたの腕の中じゃないと
息ができないの
落ち葉を踏む
私は今外にいるんだっけ
それとも心の中にいるんだっけ
なんだか夢みたいなの
平衡感覚も失って
もうてんで現実味がなくって
女の心は秋の空、とか
ねぇ、嘘みたいね
だって私の心は生まれてこの方ずっと
変わったことなんてないのに
ぐらりと視界が回って
ねぇ、私泣いているの?
それとも転んだの?
教えてくれないとわからないの
あなたが教えてくれないと
なんにも
終末を過ごすなら
あなたと一緒だと思ってたの
花が落ちたのを報せるのは
葉が舞うのを隣で眺めるのは
目が覚めて最初に見るのは
目を閉じる前に最後に見るのは
生まれ変わっても出会うのは
純白のドレスを着るのは
一生をかけても誓えるのは
おはようを言うのは
おやすみを言うのは
この人生のタイトルになるのは
鮮やかな紅葉が散らばる
赤いままで朽ちていく
色づいたまま
褪せないまま
きっといつまでも
このままずっと
ねぇ、私
ずっとあなたの一番だと思ってた
あなたが死んで未だなお続くこの世界の、
なんと情緒のないことでしょう
美しい色彩を放ったそれは
今思い返してみると全てが純白で
だってあなたの光を反射していたから
あなただけが極彩色だった
あの日誓った出鱈目な夢は
愛は
永遠は
白昼夢は
きっと今日も床に横たわっているままで
見向きもされないまま
美しいまま
私が取り零したまま
あなたに忘れられたまま
いつか花になってしまうのでしょう
テーブルクロスのような
洗いたてのシーツのような
カーテンのような
それを被ってふたりきりで笑っていた
誓ったはずだった
私は本気であなたに誓った
私は本気であなたに永遠なんかを
抉れて血の滴る傷あとを舐めないで
その足元が汚れてしまうから
その純白すらも守れなくなってしまうから
だってあなたの光を反射していたから
あの日々が輝いて見えたのは
あなたのせいで
だってあなたの光を反射していたから
だから私は間違えた
あなたのいる方が太陽だと思っていた
あなたのいる方がソラだと思っていた
あなたのいる方が
ああ、
そんな、
だって、
その身勝手な信仰を押し付けたのは
私の方だというのに!
灰色の泥を被ったあなたは
見たことがないほど綺麗で
美しくて
見たことがないほど
それで、
私は世界という嘘に気がついたのです
世界は丸くて太陽に生かされているなんて
まるきり嘘っぱちで
世界はあなたに生かされているんだと
世界の全てはあなたの
反射光でできているんだと
そんなふうにぐしゃぐしゃに握りしめた
真実に気がついた
気でいた
それは世界の一番最後の夢でした
あなたを永遠に