>>133
の続き
初校長に連れて行かれた先は初校長の私室だった。初校長は相変わらずの無表情で蜜柑に次の指示を命じる。
「危力で任務に付かせないと言ったがあれは建前だ。貴様には日向とバディを組んでもらう。日向は随一の炎の能力者であり、一番高い攻撃能力の生徒だ。なんとしても仲良くなれ。そして勿論、シングルとは言ったものの星階級の待遇はスペシャルと変わらないからそのつもりで動け。小遣いは300R。お年玉は600Rだ。」
蜜柑も無表情でそれに応じる。
「わかりました。」
彼らの間にはまだ数日しか経っていないのにも関わらず明確な上下関係が発生していた。
テレポートで部屋に戻った蜜柑の表情は暗かった。蜜柑は電気も付けずに部屋の床に体育座りで座り込む。
初校長によって手が加えられた蜜柑の部屋はシングルとは思えないほど豪華で、部屋には風呂まで付いていた。それは逆に蜜柑を更に虚しくさせる。
田舎育ちの彼女にとって、豪華なことは慣れないことであり、自分の置かれている環境がそうであることが、彼女の精神面に負担をかけていた。
「なぁ...蛍...どうなってまうんやろ」
彼女の呟きは部屋の闇に溶けて、消えた。
翌朝、初校長の命を実行すべく、彼女は危力の教室に向かう。
「おはよう!昨日は無視されたけど、今日は無視しやんで!仲良くしたいねん」
彼女は懸命に危力の生徒に話しかける。
「無効化なんていうゴミ能力でシングルなんてクソカスと仲良くする必要ある?」
「無効化は全ての能力に効くからクソカスなんて言わんといてや...」
そんな中、ある女生徒が彼女に反応した。
「ねえ、蜜柑?ちゃんだっけ、私たちのこと、怖くないの?」
「なんで?」
「だって私たちは力が強すぎるからみんなに避けられる...嫌われる...その矛先を向けると思われて怯えられる...あなたは入ってきたばっかりだから知らないかもしれないけど...」
「別に私は気にしやん。だってあなたはあなただよ、しかも可愛いし...よかったら初めての友達になってほしい...」
必死で食らいつく蜜柑に戸惑う女生徒。彼女は根負けして名乗る。
「私はのばら、茨木のばら。」
「うちは佐倉蜜柑、よろしゅうに」
のばらの心境は複雑だった。どうせ自分の能力がコントロール出来ないのが彼女に分かったら離れられてしまうだろうという諦念と、ぐいぐいくるタイプへの戸惑い、仲良くなれたような嬉しさ。全てを織り交ぜて彼女は微笑む。
「よろしく」
蜜柑は懲りずに他の相手にも話しかけに行ったが、全く相手にされず、しょげてのばらの席まで戻ってきた。
時はたち、放課後、のばらと二人っきりになった蜜柑は聞く。
「ねえ、のばらちゃん、日向?って人、知ってる?」
のばらは一瞬瞠目し、逡巡ののち、答えた。
「学園で一二を争う有名人の火のアリス使いだね。今日は来てなかったけど。でもそんなことを聞くなんて、どうしたの?」
「いや、ちょっと耳にしたから気になっただけだよ」
「そう」
彼女が耳にするほどのことを何かやらかしたのだろうか。のばらは心の中で首を傾げた。それを噯にも出さず、のばらは続ける
「」
「」
そうして初校長の命じたバディと会えずに蜜柑は1日を終えた。
夜も更けた頃、蜜柑は初校長の部屋に居た。
「すみません、日向とは会えませんでした。」
彼女は唇を噛み締めながら謝る。彼女の失態は蛍の安否に影響する可能性もあるからだ。
「別に構わない。あいつが自由奔放なのはいつものことだからな、明日の夜引き合わせる。
あぁ、あと任務のバディを組むと行ったが外界に行ってもらうため顔をアリスで変えるか面か何かで隠せ、特力との掛け持ちと任務に就かせない建前上、君のバディにも素顔を晒すな。」
「はい。」
「今日はもう帰っていいぞ」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
初校長の部屋から出た蜜柑はぶるりと体を震わせる、それだけあの男は他人に威圧感を与える。
「顔を変えるアリスストーンを使うか、面かぁ...どうしよう。」
そこで思い出したのは、白い猫の仮面。あの蛍が買ってくれた一番の宝物だ。
大事にしまっていた仮面を箱から出し、蜜柑は決意した。
ーこの蛍の思いが詰まった面があれば、心は蛍に守ってもらえる。そしてこの面を心の拠り所としよう。と。