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そこへ、後ろからゆっくりと中村さんが近づいていった。そして、おもむろに渚のヘアゴムをとった!
「うっわぁぁ。マジで女子じゃんっ!」
……たしかに、髪長いよね。転校初日も思ったけどさ。
「って、あれ。渚くーん」
あれ? いつもの渚だったら「やめてよ、中村さん!」とか言いそうなのに。渚はボーッとしたままだった。
そのまま、歩きだして。
「え?」
私の腕を、がっちりつかんでいた。
「みんな、ちょっと出かけてくるよ……」
「はぁ⁉」
「え、待って、渚ってば!」
私は渚にずるずると引きずられるようにして山を下っていった。
中村side
うーん?
なぁんか今日の渚くん、おかしくない??
「ねぇ、カルマ」
「俺に聞かれても困る」
「ですよねぇ」
カルマも困惑してるみたい。まぁ、こんなこと滅多にないもんね。
「どうする? 追いかけてみる?」
「面白いかもねぇ。あんな渚くん、滅多にお目にかかれないし」
よし、それじゃあ行きま……。
「ねぇ? 誰か私のお酒知らない?」
って、ビッチ先生……。
「お酒ってなんのことだよ」
前原の問いにビッチ先生は私たちにボトルを突きつけてきた。
半分くらい減っていた。
「これよ、これ! 家庭科室の冷蔵庫の中に入れておいたのにぃ‼」
「って、そんなもん。冷蔵庫に入れとくなよ」
言えてる……。
「! まさか」
カルマ?
カルマはコップの中身をかいでいた。
「‼ うっわ、これ強すぎじゃね⁉」
「何、どうしたの?」
「これ、渚くんが使ってたコップだよ……」
「それって、つまり……」
私たちは、叫んだ。
「はぁぁぁぁ⁉」
「おい、お茶係誰だよ!」
「た、たしか茅野さんだったはずです!」
「急いで追いかけるぞ!」
「ちょ、何なのよ!」
私たちはビッチ先生を置いて、山を駆け下りた。
カエデside
渚、大丈夫かな?
なんか、足元ふらついてるし。ときどき、痛そうに頭おさえてるし。
「渚……」
「何、茅野」
声も、なんだか張りがない。
「さっき休むって言ってたでしょ。寝なくて平気なの?」
「へーき、へーき……」
ぜ、絶対平気じゃないでしょ!
山を下りきっても、渚は私の腕をつかんだままだった。
い、いい加減に離してくれないと、し、心臓がもたないっっ。
「あ、のさ。渚」
「うん?」
「手、離してくれない?」
「やだ」
や、やだって……。
しかも即答……。今、明らかに私が言い終える前に言ったよね。
渚は私を引っ張りながら、町なかにやって来た。
い、いったいどこまで行くのやら……。
「渚、どこまで行くの?」
「うーん……。そういえば考えてなかった……」
渚はそう言って立ち止まった。というか、やっと止まってくれた。
今の時刻は20時。外を出歩いていてもぎりぎり補導はされないと思うけど……。
「……あー、頭痛い」
「大丈夫?」
「うん……」
そこへ。
「おーい、渚、茅野ー!」
「あ、みんな」
よかった、みんな来た。
「行くよ」
「え?」
渚が私を引っ張って走りだした。
「え、ちょっ!」
「待て、渚!」
そこから、私たちの追いかけっこが始まった。
「ス、ストップ渚……」
あちこち滅茶苦茶に走り回って、私は体力が限界だった。体力には自信あるのに……。今日の渚はどうかしちゃってんじゃないのかな……?
女装してるのに、恥ずかし気もなさそうだし。まぁ、下は短パンだから走りにくいことはないと思うけど。
「渚さん、茅野さん!」
「あ、律……」
私はスマホを取りだした。
「無事で何よりです。急いで皆さんに連絡を」
律が言い終える前に、渚が私の手からスマホを取り上げた。
「ちょっ!」
そして、そのままスマホの電源を切っちゃった。それから渚は自分のスマホも取りだして、電源を切ってしまった。
おそらく、GPSで探知されないようにしたんだろうけど……。
「な、渚、携帯返して……」
「やだよ〜」
そう言って自分のポケットに私のスマホと自分のスマホをしまってしまった。
「ねぇ、渚。やっぱりみんなのところに戻ろうよ。渚、体調悪そうだよ。それにこんな時間でうろうろしてると補導されちゃう……」
「うるさい、黙って」
そう言うといきなり、私の唇を奪ってきた。