ーーーー妖精の尻尾ーー
賑わう建物内に、コンコンと、木の弾む音が二回響く。
いつもは聞こえないその音に、騒がしかった部屋が静まり返る。
誰が来たのか、とじっとしているが、ドアは一向に開かない。
そんな空気に痺れを切らしたナツがドアを思いっきり開ける。
「おい!誰だよ、早く入れっつーの!……っ!レビィ、ジェット、ドロイ!」
バーンとドアを開けたナツは、外で倒れるレビィ達に気がつく。
急いで駆け寄ってみれば、荒い呼吸が聞こえる。
すぐ後、ナツの声に反応した他のみんなも来るが、突然の出来事に軽く放心する。
三人をすぐに医務室へ運び、ナツ、エルザ、グレイ、ウェンディとシャルル、ハッピーがその場に残った。
「どうだ、匂いで犯人は掴めそうか?」
……どうやら、犯人の匂いを追っているらしい。ウェンディとナツは鼻をくんくんと働かせる。
しかし、どんなに鼻を働かせても匂いがつかめない。
あるのはここにいる四人と二匹の匂い。
ーーーー後、ポーリュシカによると、実在していない病だと。症状からは毒に近いそうだ。
「ふぁ、姫紅の洞窟ってここまでの道のりが長いから疲れる〜」
「それもそうよね。ワープとか設置する?」
「…もう姉さん。それってこの奥に何かありますよ、って言ってるようなものです」
「え〜、欲しいです〜」
姫紅(キコウ)の洞窟は、名前にある“紅”の通り、綺麗に光る紅色の宝石が散りばめられている。
三人は笑いながら建物、“巫女の涙”の拠点へと入っていく。
独立ギルドである巫女の涙は、どの闇ギルドの傘下にも入っていない。
「それにしても、イミテイシアの毒ってやっぱり凄いよね。」
「そうかしら?」
「そうですよ〜。もう、相手も一発でしたよね〜」
ルーシィが玉露(茶)と和菓子(茶菓子)を持ってくると、三人で仲良くお茶会をし始めた。
自分の好きな本とか、何が欲しいとか。仲良く話している。
「そうだ、依頼が来てたんですよ〜。」
「依頼、ですか?」
「そうですよ〜」
雑談していると、最中(もなか)を取りながらレイアロが仕事の話を引っ張ってきた。
「…どんな内容なの?」
「う〜んと、たしか…何かを買ってきて欲しい、っていうやつです。なんか、お店に出入り禁止にされた〜とかで」
「……本当なんですか?」
確かに、怪しい。お店が出入り禁止になったとは言え、なぜ闇ギルドの依頼掲示板に貼ったのか。
正規ギルドに頼まない辺り、裏の世界の関係者か何かだろう。
「……あくまでも、上辺ってことね。」
「…?どういうことです?」
ちょん、と膝の上に乗ってきたアルシアを撫でながらレイアロはルーシィを見つめる。
イミテイシアも、さっきまで寝ていたカーバラの髪を梳かしながら話を聞いている。
「だから、何かを買ってきて欲しいのと別に、もう一個依頼があるってこと。」
「例えば、どんなのです?」
「……、暗殺、とかってことですね。」
見事ルーシィの考えを当てたイミテイシアはカーバラの髪を梳かしていた手を止める。
「あ、なるほど。だから闇ギルドにお願いしたんですか。」
それにしても…とレイアロはつづける。
「この依頼、報酬がとにかく凄いんですよ。『1億万ジュエル』ですよ?」
この詐欺らしい価格にルーシィもイミテイシアも吃驚する。
「…胡散臭いですね」
「そうねー……一応行ってみるだけ行ってみよっか。」
ルーシィは立ち上がると、依頼主へ連絡をしに行ったーー