切ないのを作りたくなった。
「…メリオダス。お前とはもう…居られないんだ」
----頼む、1人にしないでくれ…!
「大丈夫、お前はもう1人じゃない」
----お前が居なくなったら…俺は、俺は…!
「…元気でな、メリオダス」
ひたすら手を伸ばしても、彼女に触れることはなかったーーーーーーーー
「…ッ!」
あれ、夢…か?
どう見てもここはベッド…だよな。
「あ、メリオダス様、おはようございます。今縄を解きますね…」
「おう、頼む」
…俺は1人じゃない、か。…そうだよな。
エリザベスもいて、ホークもいて、今は仲間も集まってきている。
「え、あ、あの…痛かった、でしょうか…?」
大好きな、高めの綺麗な声。
その声につられて下を見ると、エリザベスは瞳に涙を浮かばせてこっちを見てきている。
「おーおー、エリザベス。何処でそんな仕草を覚えてきたんだー?」
若干…いや、かなりニヤけてしまう。前はこんな仕草をしなかったしな。
……そう、前の“彼女”は。
「あの、その…泣いて、いらっしゃいます」
「…ん?」
頬を伝う熱い滴り。エリザベスに言われて初めて気づいたな。
…これは、涙か。だとしたら、やっぱあの夢が原因か。
「…い、痛かったですよね!すいません、もう少し気をつけます……」
しどろもどろになり、視線を泳がせるエリザベスをそっと抱きしめる。
「…悪りぃ、もう少しこのまま…」
「は、はい!私で良ければ…」
なぁ、エリザベス。お前は分かってない。“私で良ければ”なんて…
お前だから、良いんだ。
「もう、俺から離れないでくれ…」
「…?は、はい!ずっと、メリオダス様のお傍に居ます。」
頼む、もう一度チャンスをくれ。俺に愛する資格を。
エリザベスと…愛し合える期間を。
「私は貴方の、特別になりたい…でも、いつまでも、リズ様の代わりなんですよね…」
>>8のエリザベス視点
「リズ…!」
----メリオダス、様…?
メリオダス様の駆けていく先には私とそっくりな女性。
…そう、リズ様。
「リズ!お前、心配したんだぞ…」
「メリオダスなのか…?ようやく、会えた…」
リズ様…私がメリオダス様の傍に居られたのは、リズ様の代わりだったから。
確かに、私にそっくりです。でも、リズ様の方が…とても、とても綺麗。
----あ、のっ!メリオダス様ーーーーーー
「じゃあな、エリザベス。」
幸せそうに笑いあう2人が去って行ってしまいます。
嫌、嫌よ…私はもう、貴方に必要ないんですかっ?
----そうですよね。
だって私は、彼女の代わりなんですから。
「…ッ!」
ここは…いつものベッド?あぁ、あれは夢だったのね…
もしあれが予言だとしたら…?……彼がいなくなったら、私はどうすれば良いのかしら。
時計を見ると、今はまだ5時頃。
「お水でも飲もうかしら…」
そうと考えたら、すぐにベッドから出ます。
出るときに見える、縄で固められたメリオダス様。
それと共に、今まで堪えていた涙が溢れてしまいます。
「うっく…」
もし、このまま彼を縛りつけることが出来るのならーーーーーーー
…いいえ、考えるのはやめましょう。私は、私に出来ることをやります。
水を飲んで部屋に戻って、ゴウセル様から借りた本を手に取ります。
少し読み進めると、隣のベッドからもそもそと何かが動く音が聞こえました。
ベッドを見ると、汗だくになったメリオダス様が目を開いていました。
…少しだけ、呼吸が荒いです。
「あ、メリオダス様、おはようございます。今縄を解きますね…」
「おう、頼む。」
先程の悪夢が蘇り、メリオダス様の顔を見て話せません。
…だから、縄を解き、誤魔化してしまいます。…そんな時でした。
「…っ、」
彼が、涙を流したのは。
痛かったのかな?…なんて考えましたが、きっと違います。
彼女を--リズ様を、思い出したのでしょう。リズ様を思うときの彼の顔は、とても優しいのです。
今も、ほら。切ないのに、優しい…そんな顔をしているんです。
それでも、私にはリズ様の話に触れる勇気はないから、誤魔化します。
「え、あ、あの…痛かった、でしょうか?」
今度はきちんと、彼の顔を見て。
「おーおー、エリザベス------」
よく分からないことを言っていますが、今はきちんと笑っています。
無理した笑顔でなく、いつものメリオダス様の笑顔です。
『泣いて、いらっしゃいます。』
そう伝えたとき、彼は目を見開きました。
そんな彼に見入っていると、急に優しく抱きしめられました。
「…悪りぃ、もう少しこのまま…」
…そんな事言われたら、私は舞い上がってしまいます。
でも、私はリズ様の代わり。リズ様ではない私がメリオダス様を独占して良いはずがありません。
「は、はい!私で良ければ…」
貴方は私じゃ、満足できないでしょう。でも、それでも、少しは役に立ちたい…
この言葉を伝えた途端、私を抱きしめる腕に力が入りました。
「もう、俺から離れないでくれ…」
あぁ、またです。また、私をリズ様と勘違いしています。
私は貴方を愛しているから…貴方のリズ様への愛を見せつけられ、苦しくなります。
「…?は、はい!ずっと、メリオダス様のお傍に居ます!」
でも、もし…彼に必要とされなくなったら?
少しの時間でも良い。貴方に、我儘を言います。
「私は貴方の、特別になりたい…」
ドアを出てから紡がれたこの声は、貴方に届かないでしょう。