そうして緋影は無事期末を通過し、森然へと音駒の送迎バスで向かっていた。
「いおりはポッキー食べる?」
『……食う』
「いおりクンぼんちあげ食べるよね?」
『ああ』
「部長! メルティキッスもありますよ!」
『ありがとう』
「……緋影先輩、ポテトチップス」
『頂こう』
バス内で部員からお菓子をいただく緋影にリベロ兼緋影いおりファンクラブ会長、常識人美少女、宮原玲(みやはら れい)は苦笑いした。いや宮原も混ざりたいらしいが。
いおりにお菓子を差し出したのは上から3年副部長綺麗系女子『坂先すみれ(さかざき すみれ)』、3年セッター可愛い系女子『神前和江(しんぜん かずえ)』、2年ライトウィングスパイカー能天気女子『枝並 佳名(えなみ かな)』、ミドルブロッカー無口系女子2年『雪村 葉月(ゆきむら はづき)』である。
揃いも揃って美少女なのだから困る。男子の競争率が一番高いのが女子バレー部である。そのなかでもトップはやはりいおり。
天帝と呼ばれる彼女は勉強は全くだが他は最強だ。中総体ではベストスパイカー賞を受賞し、狙った賞はバレーに限らず総ナメだ。
勉強以外で負けることを許さないいおりは隙がないと言える。
そうして着いた森然高校。既に音駒男子バレー部は集まっており、私達に気が付くと黒尾と夜久が「おーい」と叫ぶ。あああああ! と宮原は叫んだ。
「夜っくうううううううううん!」
「っ!?」
ぴょーんと跳び跳ねてそのままの態勢で夜久に向かって飛んでいく宮原の足を、いおりが無表情でがしっと掴んだ。
乗りに乗った宮原の勢いはストップされ、行き場を無くした宮原の体は地面へと叩き付けられた。
「いおりクンなにすんの!?」
『……うちの部で唯一無二の常識人にそないなことをされたら部を纏めるのが俺しか居らんなるやろうが』
「〜〜! いおりクン分かってるね愛してる!」
『夜久に言え』
「もちろん夜っくんを一番愛してるよ当たり前じゃない夜っくん!! 私の中のOnlyOneは夜っくんのみだよ夜っくん! 今日もちっさくって可愛いね夜っくん! あ、私はたとえ夜っくんが私より身長が小さくても愛し続けるよ夜っくん! 安心してね夜っくん!」
「ちいせぇ言うな玲!!! 夜っくん夜っくんうるせぇ!」
「夜っくん今日の蹴りもキレキレだねええええ!」
宮原に夜久の蹴りが炸裂したが、吹っ飛びつつもそう叫んだ。海が「良いのか?」と夜久に聞けば「いつものことだ、慣れた」とあっけらかんとして言う。
山本は言わずもがな真っ赤である。
「あ、孤爪。後でセッターの練習一緒にしよー」
神前が孤爪にバレーボールを投げ付けながら良い笑顔で言う。その可愛らしい笑顔の裏には「拒否権はねぇぞ」言っているような威圧感。はんぱない。
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