暗殺教室〜もうひとつの物語〜Part5♪

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637:凪海◆L6 ( -.-)ノ ・゚゚・。dice1:2016/05/15(日) 20:07 ID:ySs

>>633

海「律」
律「はい」

 海が不意に律の名を呼んだ。

海「私に初めて話しかけたとき、君言ってたよね? 私から微弱な電波を感じるってさ」
律「はい」

 どういうことだろう。たしかあのときの話は、海が朝に食べたシリアスの中に誤ってICチップが入っていてそれを飲みこんだっていう結末だったはず。どうして今になってその話に?

海「あれの本当の意味、教えてあげるよ……」

 本当の意味⁉
 海は僕らに背を向けて、肩あたりまである髪をまとめて持ちあげた。
 そこに、あったのは……。

渚「何、それ……」

 半径3センチほどの小さな円盤が、海の首にはまっていた。よく見ると、液体が入っている。

海「0.001ミリリットル」
奥「?」

 海は円盤の正体が何かを言わず、謎の数字を言った。

海「……この中にある液体はね、触手細胞」
殺「⁉」
海「これが1日0.001ミリリットル、脊髄を通して流れ込む……。私の体はね、いわば半分触手持ちで半分人間ってとこかな」

 僕らは信じられない思いで海を見つめた。

海「ねぇ、律。これでしょ? 微弱な電波の正体って」
律「はい。間違いありません」

 律の単調な言葉に、僕らは衝撃を受けた。

海「これの本来の役割はね、発信機なんだ。……柳沢が、私に対してした、とんでもない贈り物……。あいつ、私が逃げたときにすぐに居場所がわかるようにしたんだ!」
渚「逃げたとき、って?」

 僕の声は、きっと震えていた。自分では、どうして震えていたのかよくわからない。12月の寒さのせいか、それとも。信じられない真実を明かされたためか。
 海はやはり、自嘲的な微笑みを浮かべる。

海「これが、私が話す、最後の真実……。私の、さいごの物語……」

☆(海side)

 ここ、どこだ? 時計もないから正確な時間もわからない。頭を殴られたときの衝撃がまだ残っているから、そんなに時間は経っていないはず。
 私はゆっくりと起きあがった。
 部屋を見渡すと、そこは畳・10畳ぶんくらいの部屋。狭い……。
 そこへ、ドアが開く電子音がした。

海「誰?」

 私は腰にまだウェストバッグがあることにほっとしながら、そこのファスナーに手をかけた。

?「あれ、もしかしてまだ小学生?」

 入ってきたのは、私をさらった男とも、または殺し屋らしい雰囲気も持ち合わせていない。女の人だった。

海「誰だ、あんた」
?「えーっと、雪村あぐりっていいます。あなたの監視を任されているのだけれど……、まぁ監視らしい監視はしないのだけどね。あなたのお名前は?」

 曖昧な発言に首をかしげながら、私もとりあえず名乗った。

海「本郷海」
あぐ「良い名前だね」
海「………」

 雪村あぐりはにこりと微笑んだ。警戒する必要のない微笑み方だった。どうやら、本当に殺し屋ではないらしい。
 気になるのは、1つ。

海「そのシャツ、気持ち悪い……」
あぐ「え、いきなり⁉」

 雪村あぐりはショックを受けたような顔をした。


凪海◆L6 (=゚ω゚)ノ ―===≡≡≡ dice2:2016/05/16(月) 18:42 ID:ySs [返信]


 私が連れてこられた場所は、国で非公式の研究所。そこで私はモルモットとして過ごすらしい。

柳「ただ、本命はお前じゃない。本命の研究をする前に、お前で実験をするんだ」
海「本命の研究をする前ってことは、本命よりつらい目に遭うってことね……」
柳「わかっているじゃないか」

 もし、仮に私がここで拒否すれば私の大事な人間に危害が及ぶ、か。

柳「安心しろ。本命の奴は監禁状態の予定だが、お前は週に一度くらいは外出を許可してやろう」

 こいつの狙いが読めない。
 私が部屋に戻ると、雪村あぐりが来ていた。

あぐ「お疲れ様」

 彼女は小さな丸テーブルの上で教材やノートを広げていた。

海「どうも」

 私はベッドに腰かけて、ウェストバッグから文庫本を取りだした。

あぐ「何読んでるの?」
海「……『友情』」
あぐ「えーっと……」
海「武者小路実篤が書いた小説。代表作は『お目でたき人』、『愛と死』」
あぐ「あ! あの難しい字がたくさんある人ね!」
海「そうだよ」

 雪村あぐりは、冷たい態度をとる私によく話しかけてきた。私がいくらうざがろうと、彼女はめげずに何度も何度も話しかけてきた。

海「何、この首のやつ」
柳「発信機だ。お前が逃げ出そうとしてもすぐに居場所がわかるようにな」

 その日から実験は始まった。正直に言ってしまうと、とても過酷だった。毎日のようにこみあげてくる吐き気。慣れない薬品が投与されたりするたびに辟易としてしまう。それでも、私の大事な人を守れるのならそれでもいい。それに、仮にここをでたところで行くあてもないし。

あぐ「大丈夫?」
海「……平気」

 こみあげてくる吐き気をなんとか飲みこんで、私はベッドに横になった。

 あの研究所へつれてこられて半年がたった頃、私はやっと初めて外にでる決心がついた。1月の寒さは体にしみた。

海「さっぶ……」
あぐ「どうぞ」

 研究所をでたとき、後ろからコートがかけられた。

あぐ「今日は雪が降るそうだから、温かくしないと駄目よ」
海「ありがとう、ございます」

 私は貸してもらったコートを着ようとして……、

海「着物の上にコートっておかしくない?」
あぐ「あれ?」
海「ま、いいけど」

 私はコートを着て街中にでた。どこへ行くでもなく、仮にどこか遠くへ行こうとしても、首の後ろにある発信機が私を追いかけてくるだろう。

海「……チッ」

 書店に行って本を買い、私は前に住んでいたアパートに寄ることにした。けれど、すぐに鍵を忘れてきたことに気づいた。

海「あーあ、結局。帰る家もなくなったってわけか」

 私は研究所への道のりを歩いていった。

あぐ「あ、おかえりなさい」
海「………」

 いや、帰る家がないなんて嘘だな。たとえ、つれてこられた場所でも。

海「ただいま」



柳「やはり本郷海は戸籍を持っていたか」
研究員A「どうしますか? このままでは行方不明扱いを受けてしまいます。この研究は非公式ですし、バレてしまったら……」
柳「何、大丈夫だ。俺に考えがある」


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