ポン、とミラさんに手の甲にフェアリーテイルのギルドマークを入れてもらう。
「これでもう、あなたもフェアリーテイルの一員よ。」
「わぁ〜…」
じ、とギルドマークを見つめる。ずっと憧れていたこの紋章が、今自分にも入っている。その事実が、あたしを浮かれさせた。
「ナツー、見て見て!フェアリーテイルのマーク入れてもらっちゃった!」
「あっ、そう。良かったなぁ、ルイージ」
「ルーシィよ!!」
興味なさげに適当に相槌を打つナツ。
何よ、あんたがあたしをここに連れて来たのに。ちょっとはあたしと一緒に喜ぶとかなんとかしなさいよね。
「お嬢さん」
「…さっきの変態」
「変態やめろ!」
なんて思ってると、さっきの変態に声をかけられた。あたしは言われるがままに、変態とカウンター席に座る。良かった、今度はちゃんと服着てるみたい。
「さっきはぶつかって悪かったな」
「いやそれ以上に全裸だったことに謝って?」
「お詫びとしてはなんだが、なんか奢ってやるよ。好きなもん頼め」
「あ、無視なのね…って本当?」
「おう。お詫びだって言ってんだろ」
あたしはさっそくミラさんに、オレンジジュースを頼む。なんだ、こいつもいい奴なのね。
「あ。あたしはルーシィ」
「俺はグレイだ」
「グレイね。それと…」
チラ、とだけあたしの隣に座るサングラス野郎を見る。顔は整っているが、ずっと鏡を見ていて、所詮ナルシストというものだろう。
「あんたは?」
「僕はロキ。君の王子様で、フェアリーテイル1のイケメンさ」
「自分で言う?それ…」
「ロキはそういう奴だ」
あくまで王子様キャラを突き通すロキに呆れながらツッコむと、グレイが隣でうんうんと頷く。
「ルーシィ、僕がフェアリーテイルのこといろいろ教えてあげるよ。もちろん、夜に僕の家でね」
「いやいいからそういうの!」
さっき頼んだオレンジジュースが来たので、頬を膨らませながらストローからチビチビ飲む。ロキはその間もあたしをニコニコしながら見ていた。
「そういえばルーシィ。お前、なんの魔法を使うんだ?」
「あ、そういえば言ってなかったっけ」
グレイが魔法の話を振ってきた。あたしは、ケースから銀色の鍵を出す。
「開け、子犬座の扉!ニコラ!!」
チャイムの音と一緒に出てきたのは、ナツと出会った街で手に入れたニコラ、もといプルー。あたしはギュッとプルーを抱き締めて、ニッと笑いながらグレイの方を見る。
「あたしは星霊と契約を交わして一緒に戦う、星霊魔導士よ!」
「へー。なるほどな」
グレイがプルーの頭を撫でると、横からパリンッという音がした。2人でそっちを見てみると、ロキがいつの間にか頼んでいたサイダーが入っていたコップを落としていた。
「る、ルーシィは星霊魔導士なのかい?」
「え?う、うん」
「ッ!」
ロキはバッと立ち上がり、
「アアッ!!なんたる運命の悪戯!
ごめん!僕たちはここまでにしよう!」
涙を流して去って行ってしまった。
「何か始まってたのかしら…」
「ロキは星霊魔導士が苦手なの。昔、女の子絡みでトラブったって噂なのよ」
「そうだったんだ…」
お皿を拭きながらミラさんが教えてくれた。あたしはたしかに星霊魔導士だけど…せっかく仲間になれたんだから、もっとこう…––––
「…そういえば、グレイはなんの魔法を使うの?」
そのうちきっとロキとも仲良く話せるようになるわ、とあたしはグレイに体を向ける。
「俺は氷の造形魔道士だ」
「グレイの魔法はとっても綺麗なのよ」
「そうか?」
グレイは手のひらにギルドマークを氷で作った。キラキラと儚く光るそれは、たしかにとても綺麗だった。
「綺麗…素敵…!」
人に自分の魔法を褒められて悪い気はしないのか、どこか照れた様子のグレイ。なんだこいつ、可愛いとこあるじゃない。
「ルーシィ、何変態と話してんだ?」
「ナツ見て!グレイが魔法でギルドマーク作ってくれたの!綺麗でしょ?」
「あー、本当だなぁ、ウーピィ」
「ルーシィだっつの!!」
ナツがさっきまでロキが座っていた席に座る。
「大変だ!!」
すると、大きな音を立てて扉が開いた。そこには深刻な表情をしたロキがいる。
「エルザが、帰ってきた」
【>>211の続きです】
「エルザ…って誰…?」
「ああ、ルーシィは知らないわよね。エルザはフェアリーテイルの女の子の中で最強の魔道士よ」
ドスッドスッという音が近付くにつれて、みんなの肩に力が入る。どうやら緊張しているようだ。
「今戻った。マスターはおられるか?」
「き、きれい…」
「おかえり。マスターは定例会よ」
エルザさんはそうか、とだけ言うと周りをキッと睨みつけた。みんなの肩がビクッと跳ねる。
「カナ!なんという格好で飲んでいる」
「ウッ、」
「ビジター!踊りなら外でやれ。
ワカバ!吸い殻が落ちているぞ。
ナブ!相変わらずリクエストボードの前をウロウロしているだけか?仕事をしろ
マカオ!…はぁ」
「なんか言えよ!」
「全く、世話が焼けるな…今日のところは何も言わずにおいてやろう」
「随分いろいろ言ってるような気もするけど…」
でも、ちょっと口うるさいけどちゃんとしてる人みたい…そんなに怖がらなくてもいいんじゃ…フェアリーテイルに1人ぐらいはこんな人が必要だろう。
「ナツとグレイはいるか?」
あい、とハッピーが言う方を見ると、汗をダラダラかきながらナツとグレイが肩を組んで手を繋いでいた。
「や、やあエルザ…今日も俺たち仲良くやってるぜ」
「あい!」
「ナツがハッピーみたいになった!」
あまりの衝撃についツッコミを入れてしまう。エルザさんもうんうん、と頷く。
「そうか。親友なら時には喧嘩もするだろう。しかし、私はお前たちがそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」
「いや親友ってわけじゃ…」
「あい!」
「こんなナツ見たことない!」
困惑していると、ミラさんたちが教えてくれた。ナツは喧嘩を挑んで、グレイは裸でいるところを見つかって、ロキは口説こうとして、それぞれボコボコにされたらしい。
っていうか、やっぱロキってそういう人なのね…
「ナツ、グレイ。頼みたいことがある。」
ナツとグレイは手を繋ぐのはやめて、でもやっぱり肩は組みながらエルザさんの話を聞く。
「仕事先で少々厄介な話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断を仰ぐトコなんだが、早期解決が望ましいと私は判断した。
2人の力を貸してほしい。ついてきてくれるな。」
ナツとグレイが顔を見合わせる。周りもどういうことだと、ヒソヒソ騒ぐ。エルザは出発は明日だ、とだけ言うと去って行った。
これにはさすがにナツとグレイも驚いてる。ミラさんの方をチラリを見ると、少し興奮しているようだった。
「エルザとナツとグレイ…今まで想像したこともなかったけど…これってフェアリーテイル最強のチームかも…」
*
––––マグノリア駅
この駅で騒ぐ、2人の男がいた。なんだなんだと周りが騒ぐ。
「なんでテメェと一緒じゃなきゃなんねぇんだよ?」
「こっちのセリフだ。エルザの助けなら、俺1人で充分なんだよ」
「じゃあお前1人で行けよ。俺は行きたくねぇ!」
「じゃあ来んなよ。あとでエルザにボコられちまえ」
あたしはただ、ベンチに座って他人のフリをしながら喧嘩を見つめていた。
いやミラさんにエルザが見てないところで喧嘩するだろうって仲裁役に抜擢されたけど、こんな奴らの喧嘩なんて止めれるわけない。無理よ無理!
「すまない、待たせたな」
「エルザさん––荷物多っ!!」
「今日も元気にいってみよう」
「あいさ!」
「出た!ハッピー二号…」
荷台に大量の荷物を乗せたエルザさんと、昨日のように肩を組んでさっきの喧嘩が嘘のようなやり取りをするナツとグレイ。
ああ、ツッコミどころが多すぎる…
「うん、仲の良いことが一番だ。…で、君は?確か昨日フェアリーテイルにいた…」
「新人のルーシィです!ミラさんに頼まれて同行することになりました!よろしくお願いします」
「私はエルザだ、よろしくな。」
エルザさんの背後で睨み合う2人だが、チラッとエルザさんが振り返ると即座に肩を組む。そしてエルザさんがまたあたしに向き直ると、睨み合う。
「そうか、君がルーシィか…あのナツとグレイのお気に入りだという…」
「ナニソレ!?」